和合亮一
土の持つ力というのはすごいなぁと思った。土の持つ包容力。つまり自然界にないものが降ってきても、それを自然の力で野菜には吸わせないという、土の持つ力、包容力はすごい。
(菅野正寿さんのインタビューより/和合亮一『ふるさとをあきらめない――フクシマ、25人の証言』新潮社)
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被災者にインタビューをし始めたのは昨年の初夏ぐらいからであった。それ以前にも8人の被災者との対話を収録して『詩の邂逅』という本にまとめたのであったが、さらにいろんな方々にインタビューを続行したいと思った。かねてより特にお話をうかがいたいと思っていたのが菅野さんだった。
ある懇親会の席で知人に紹介していただいた。福島の真ん中に位置する東和町(二本松市)で、有機農業をずっと営まれている方だ。原発爆発からの苦しい日々を語り合いながら互いに杯を重ねた。子や孫たちに自分の作った物を食べさせてあげられない、農家の方の苦しみを様々に詳しく語ってくれた。時折の涙ながらの話はとても説得力があり、私も目の潤みを隠せなかった。
しばらくしたある日、私の家の近くの川原に、たくさんの桃が捨てられて山積みになっている様子を見かけた。果樹農家の方がどうしようもなくて捨てていったのだろうと察した。とても切ない風景だ。この時に菅野さんの苦しい表情を思い出した。もう一度お会いしたい。突然にご連絡をして、お住まいの近くの集会所まで行った。この時、彼は大学の先生方とのいろんな情報交換の最中であった。合間にインタビューをさせていただく。
しっかりとした語り口で、春までに研究を重ねたいと話した。セシウムなどを粘土層に吸着させて、作物に吸わせない土を急いで作り上げてみせる、と私に意志の強いまなざしで語った。生きている私たちに恵みをもたらそうとする「包容力」が、土には必ずあると教えてくれた。
これまでに体験したことのない災いにより、いまだに出口が見つからず、新しい一歩を踏み出せないままでいる私たちである。それでも足元を、大地を信じて、そこに望みを託すことこそが大事なのだと直感させてくれた。私も福島人として何かしなくてはいけない。必ず方法はある。有機農家として土と共に生きてきた菅野さんは、やはり土から始めている。私も故郷をあきらめない。
(わごう りょういち・詩人)