感染爆発にそなえる

新型インフルエンザと新型コロナ

新興のH7N9型インフルエンザと新型コロナ,H5N1型インフルエンザの何が怖い? 影響予測と対策を科学的に論じる.

感染爆発にそなえる
著者 岡田 晴恵 , 田代 眞人
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 生命・医学
刊行日 2013/11/27
ISBN 9784000058377
Cコード 0047
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 142頁
定価 1,870円
在庫 在庫あり
感染爆発への警告は「オオカミ少年」? 2013年春,中国でH7N9型鳥インフルエンザが発生し,中東やヨーロッパで新型コロナの流行がはじまった.感染拡大を続けるH5N1型インフルエンザの何が怖いのか? 人の移動が広域・高速化し,感染拡大の危険性が増す今日.もう「想定外」は許さない! 影響予測と対策を,防疫の最前線から科学的に論じる.


■編集部からのメッセージ
 韓国ではMERSコロナウイルスへの感染者が増え続けています.2015年6月15日午前までに,その数は死者16人を含む150人になったとの報道がありました.この新たな感染症による最初の死亡患者は,12年4月にヨルダンで発生したと推定されています.それから3年以上たった今,確定患者数は1200人を超え,致死率は3~4割と高いままです.
 では,このウイルスはどのようにヒトに感染し,感染者はどのような症状を引き起こすのでしょうか.本書は現在, MERSについて日本語で書かれた唯一の本です.感染経路や院内感染に関する事実をわかりやすく述べています.患者の胸部X線写真は医療従事者必見です.
 現在の日本政府の感染症の危機管理計画では,またもや「想定外」の大災害を引き起こすのではないか? それは許さない! ――これが,防疫の第一線にある著者ふたりの本書に込めたメッセージです.とくに医療従事者や政策担当者には,新たな感染症の日本での感染拡大を食い止めるために,ぜひ読んでいただきたい1冊です.一般の方にも自衛のためにご一読をお勧めします.
* *

 思い出すのは2009年春,新型インフルエンザ発生の報が日本中を震撼させたこと,「防護服」で身を包んだ検疫官が,空港で入国者を待ち構える異様な光景です.この流行は,比較的軽く短期間で終了したため,過剰反応だったとマスメディアは,世界保健機構(WHO)や政府を批判し,一般にはその後,感染爆発パンデミックへの警告を「オオカミ少年」としかとらえなくなったようにすら感じます.
 それまで,H5N1型インフルエンザの新型への一般の関心は高まり,国の事前対策も進んでいるようにみえました.しかし,2009年の経験を経て,この「パンデミック疲労」とでもいうような状況に陥っていることを,著者たちは深く危惧しています.H5N1型鳥インフルエンザの感染者や死亡者は減っていませんし,感染域も広がっているのに,報道がされなくなってしいました.あとちょっとの遺伝子の変異で人から人へ容易に感染するようになっており,パンデミックへの危険性は,以前より差し迫っているというのに.
 これまでも人類に猛威をふるってきた新型ウイルスですが,人の移動の広域化と高速化によって,警戒が最重要となったパンデミックに,どうそなえたらよいのでしょう.いま最も危険視されている,新型コロナ(MERS)とH7N9型・H5N1型インフルエンザがどのような状況であるのかを報告し(第1~3章),その影響予測と対策を考えます.さらには,2009年のH1N1型をはじめとする過去のインフルエンザを科学的に振り返り,これまでの経験を教訓として生かす方策を,現在の国の政策にメスを入れながら舌鋒鋭く論じ,具体的に提言します(第4章).
1 H7N9型鳥インフルエンザ

2013年春、H7N9型鳥インフルエンザ感染者発生/中国での感染患者の発生と拡大の実際/患者の特徴と抗インフルエンザ薬/未知の感染経路と実際の感染者数/過去のH7亜型鳥インフルエンザ/弱毒型の遺伝子配列/あと2歩で人型への壁を乗り越える?/H7N9型ワクチンと抗インフルエンザ薬耐性ウイルスへの懸念/感染源と感染経路の検索/対応と今後の見通し/検査と治療/H7N9型インフルエンザワクチンの免疫原性/高齢者へのH7N9型ワクチン投与の懸念/H7N9からH5N1へ

2 MERSコロナウイルス

MERSコロナウイルス/SARSの再出現か?/WHO事務局長最大の懸念/新型コロナウイルスの感染報告/MERSコロナウイルス感染者の症状/MERSにおけるスーパースプレッダーの可能性/感染が疑われる者からの検体の採取/MERSコロナウイルスの自然宿主と人への感染経路/MERSコロナウイルス感染のリスク評価とWHOによる対応/イスラム教徒のメッカ巡礼への対応

3 H5N1型強毒性インフルエンザ

地球上最大規模の人獣共通感染症/新型インフルエンザと季節性インフルエンザ/強毒型と弱毒型の鳥インフルエンザ/感染患者の増加と特徴/世界規模の感染拡大/全身感染と免疫過剰反応/新興の全身感染の重症疾患/H5N1型鳥インフルエンザウイルスのブタへの感染拡大/遺伝子変異はどこまで進んでいるか/最悪のウイルス/健康被害の推定とリスクの評価

4 新しい感染症とどうたたかうのか

2009年のH1N1型インフルエンザ・パンデミック/なぜ健康被害が軽度ですんだのか?/4重交雑体の09パンデミックウイルス/09パンデミックウイルスの遺伝子解析とリスク評価/日本における09パンデミックウイルスの侵入と伝播拡大/2009年の新型インフルエンザワクチン問題を教訓に/2009パンデミックが軽度ですんだ幸運/これまでの新型インフルエンザ/新型インフルエンザ対策のパンデミック疲労/見失われる日本の新型インフルエンザ対策/社会機能の崩壊を導く/致死率が2%を超えたとき/H5N1型強毒性インフルエンザウイルスのプレパンデミックワクチン/プレパンデミックワクチンの効果は事前接種に尽きる/新型インフルエンザ等対策特別措置法の抜け落ち/現在直面する新型インフルエンザリスク/H5N1型強毒性新型インフルエンザを「想定外」としないために/WHOにおけるパンデミック対策の方針変更
岡田晴恵(おかだ はるえ)
順天堂大学大学院医学研究科博士課程中退,医学博士.ドイツマールブルク大学ウイルス学研究所客員研究員,厚生労働省国立感染症研究所ウイルス第三部研究員,(社)日本経済団体連合会21世紀政策研究所シニアアソシエイトなどを経て,現在,白鴎大学教育学部教授.専門は感染免疫学,ワクチン学.
著書に『人類vs感染症』(岩波ジュニア新書),『強毒型インフルエンザ』(PHP新書),『H5N1』(幻冬舎文庫),『なぜ感染症が人類最大の敵なのか?』(ベスト新書),『感染症とたたかった科学者たち』(岩崎書店),『うつる病気のひみつがわかる絵本シリーズ』(ポプラ社),田代氏との共著書など多数.

田代眞人(たしろ まさと)
1948年生まれ.東北大学医学部卒業,医学博士.自治医科大学助教授などを経て,現在,国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長,WHOインフルエンザ協力センター長,内閣新型インフルエンザ等対策有識者会議委員,国際インフルエンザ学会理事.専門はウイルス学,感染症学.
岡田氏との共著書に『新型インフルエンザH5N1』(岩波科学ライブラリー),『感染症とたたかう』(岩波新書),『新型インフルエンザの企業対策』(日本経済新聞出版社),『鳥インフルエンザの脅威』(河出書房新社)など.

書評情報

ナース専科 2014年11月号
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