村に火をつけ,白痴になれ

伊藤野枝伝

筆一本を武器に「結婚」や「社会」と対決した野枝.気鋭の政治学者が迫る,その人間像と思想.

村に火をつけ,白痴になれ
著者 栗原 康
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
日本十進分類 > 文学
刊行日 2016/03/23
ISBN 9784000022316
Cコード 0095
体裁 四六 ・ 198頁
定価 1,980円
在庫 在庫あり
「不朽の恋を得ることならば,私は一生の大事業の一つに数えてもいいと思います.」筆一本を武器に,結婚制度や社会道徳と対決した伊藤野枝.野枝が生涯をかけて燃やそうとしたものは何なのか.気鋭の政治学者が,ほとばしる情熱,躍動する文体で迫る,人間・野枝.その思想を生きることは,私たちにもできること.やっちまいな.

著者からのメッセージ

読みたい,書きたい,食べたい,セックスがしたい,子どもがほしい.ふつう,ひとはなにかをやるためには,なにかをあきらめなくてはいけないとおもいこまされている.生きるためにとかいって,まずカネのことを考えさせられるからだ.たとえば,家庭をもつようになったら,カネにもならないのに夢をおいかけたら,わがままだといわれてしまう.でも,伊藤野枝はちがっていた.やりたいことがあったら,なにがなんでもやってしまう.ひとつじゃない,全部だ.カネはあとからついてくる.家も仕事もなげ捨てて,がむしゃらになって欲をみたす.失敗もする.死ぬほどバッシングもされる.でも,やってみると自分にはこんな力もあったんだと,妙な自信を手にしている.それを支えてくれる友人がいたら,その大切さにも気づかされる.百人力だ.あんなこともできる,こんなこともできる,もっとできる,わたしはすごい.野枝が身をもっておしえてくれているのは,そういうことだ.あらゆる逆風どんとこい.カネのことなど関係ないね.だれでもできる,なんでもできる.村に火をつけ,白痴になれ.いいよ!
栗原 康

編集部からのメッセージ

筆一本で結婚制度や社会道徳と対決しつづけた伊藤野枝.その思想,人間像に,気鋭の政治学者・栗原康さんが迫ります.
本書に引かれた野枝の言葉が,とにかく強い!
「不朽の恋を得ることならば,私は一生の大事業の一つに数えてもいいと思います」
「あなたは一国の為政者でも私よりは弱い」
「ああ,習俗打破! 習俗打破!」
そして,野枝に恋する大杉栄が憑依したかのような,栗原さんの文章のグルーヴ!
進学.恋.結婚.仕事.子育て.そこに立ちはだかる,こうあらねばならぬというプレッシャー.世間.国家.それでも,学ぶことに,書くことに,食べることに,恋に,性に,生きることすべてに,野枝はわがままを貫きとおします.野枝には,優先順位がわかっていたのです.大切なのは,ただひとつ.おのれのわがままに徹すること.不倫上等.淫乱よし.自分のことは自分できめる.自分でやる.なんとでもなる.なんでもできる.
恋とは? 愛とは? 生きるとは?――読みながら自問させられます.じわじわと自分の人生を自分に取り戻す力が湧いてきます.野枝の思想を生きることは,わたしたちにもできること.今の時代にこそ,きっとだいじなこと.野枝に出会ってください.恋してください.

伊藤野枝……いとう・のえ[1895-1923]

◎ 大正時代のアナキスト.ウーマンリブの元祖ともいわれる.
野枝25歳のころ
野枝25歳のころ
◎ 福岡県に生まれ,14歳で一念発起し,上京.上野高等女学校に進学.卒業後,決められた縁組により地元で結婚するが,婚家を出奔し,女学校の恩師であった辻潤と暮らしはじめる.雑誌『青鞜』編集部で働き,平塚らいてうについで20歳で編集長に.セックス,中絶,売買春といったテーマから,人間の尊厳や生き方を問いなおす記事を書く(「貞操論争」「堕胎論争」「廃娼論争」).辻とのあいだに2人の子どもをもうける.
◎ 大杉栄と出会い,21歳で大杉・妻・恋人との四角関係に身を投じる.大杉の気持ちが野枝に大きく傾くなか,恋人・神近市子が大杉を刺す(葉山日蔭茶屋事件).事件後,大杉との絆を深めた野枝は,5人の子を産み育てながら,『青鞜』休刊後も評論や翻訳など旺盛な執筆活動を繰り広げる.関東大震災の混乱に乗じた甘粕正彦ひきいる憲兵隊に,大杉・甥とともに虐殺される(甘粕事件).享年28歳.
自然石で作られた野枝の墓
自然石で作られた野枝の墓
はじめに
 あの淫乱女! 淫乱女!/野枝のたたりじゃあ!/もはやジェンダーはない,あるのはセックスそれだけだ

第一章 貧乏に徹し,わがままに生きろ
 お父さんは,はたらきません/わたしは読書が好きだ/わたしはけっしてあたまをさげない/きょうから,わたし東京のひとになる

第二章 夜逃げの哲学
 西洋乞食,あらわれる/わたし,海賊になる/ど根性でセックスだ/だれかたすけてください,たすけてください/恋愛は不純じゃない,結婚のほうが不純なんだ/究極の夜逃げ

第三章 ひとのセックスを笑うな
 青鞜社の庭にウンコをばら撒く/レッド・エマ/野枝の料理はまずくて汚い?/もっと本気で,もっと死ぬ気で,ハチャメチャなことをかいて,かいてかきまくれ/(一)貞操論争/(二)堕胎論争/(三)廃娼論争/大杉栄,野枝にホレる/急転直下,自分で自分の心がわからぬ!/約束なんてまもれない,結婚も自由恋愛もしったことか/カネがなければもらえばいい,あきらめるな!/オバケのはなし――葉山日蔭茶屋事件/吹けよあれよ,風よあらしよ

第四章 ひとつになっても,ひとつになれないよ
 マツタケをください/すごい,すごい,オレすごい/亀戸の新生活――ようこそ,わが家へ/イヤなものはイヤなのだ/あなたは一国の為政者でも私よりは弱い/主婦たちがマジで生を拡充している/魔子は,ママのことなんてわすれてしまいました/結婚制度とは,奴隷制のことである/ひとつになっても,ひとつになれないよ/友情とは中心のない機械である――そろそろ,人間をやめてミシンになるときがきたようだ/家庭を,人間をストライキしてやるんだ――この腐った社会に,怒りの火の玉をなげつけろ!

第五章 無政府は事実だ
 野枝,大暴れ/どうせ希望がないならば,なんでも好き勝手にやってやる/絞首台にのぼらされても,かまうものか!/失業労働者よ,団結せよ/無政府は事実だ――非国民,上等! 失業,よし!/村に火をつけ,白痴になれ/わたしも日本を去り,大杉を追っていきます/国家の犬どもに殺される/友だちは非国民――国家の害毒は,もうバラまかれている

あとがき
 いざとなったら,太陽を喰らえ/はじめに行為ありき,やっちまいな

 注
 参考文献
 写真出典
栗原 康(くりはら やすし)
1979年,埼玉県生まれ.早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学.東北芸術工科大学非常勤講師.専門はアナキズム研究.著書に,『G8サミット体制とはなにか』(以文社),『学生に賃金を』(新評論),『大杉栄伝――永遠のアナキズム』(夜光社)(第5回「いける本大賞」受賞,紀伊國屋じんぶん大賞2015 第6位),『はたらかないで,たらふく食べたい――「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)(紀伊國屋じんぶん大賞2016 第6位),『現代暴力論――「あばれる力」を取り戻す』(角川新書)がある.ビール,ドラマ,詩吟,長渕剛が好き.

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2017年9月17日
J-WAVE「BOOK BAR」 2016年8月14日放送
婦人公論 2016年7月12日号
ダ・ヴィンチNEWS 2016年7月11日掲載
本の雑誌 2016年7月号
日経ウーマンオンライン 2016年6月29日掲載
週刊新潮 2016年6月28日号
日刊ゲンダイ 2016年6月22日
日経Gooday 2016年6月21,24,28日掲載
SPUR.JP 2016年6月20日掲載
週刊読書人 2016年6月17日号
anan 2016年6月15日号
VOGUE「BACH(山口博之)のBOOK HOLIC」 2016年6月13日掲載
山形新聞(朝刊) 2016年6月12日
静岡新聞(朝刊) 2016年6月12日
信濃毎日新聞(朝刊) 2016年6月12日
京都新聞(朝刊) 2016年6月12日
サンデー毎日 2016年6月12日号
BS JAPAN「ご本,出しときますね?」 2016年6月10日放送
北日本新聞Webun 2016年6月8日掲載
ふぇみん 2016年6月5日号
messy 2016年6月2日掲載
西日本新聞(朝刊) 2016年6月1日
サンデー毎日 2016年5月30日号
図書新聞 2016年5月28日号
東京新聞(朝刊) 2016年5月22日
週刊ポスト 2016年5月20日号
週刊文春 2016年5月19日号
マイナビウーマン 2016年5月13日掲載
COURRiER Japon 2016年5月12日掲載
HONZ 2016年5月10日掲載
朝日新聞(朝刊) 2016年5月8日
週刊朝日 2016年5月6-13日号
Book Bang 2016年5月3日掲載
ele-king 2016年5月3日掲載
AERA 2016年5月2-9日号
NHKラジオ第1「NHKマイあさラジオ」著者に聞きたい本のツボ 2016年5月1日放送
読売新聞(朝刊) 2016年5月1日
北海道新聞(朝刊) 2016年4月24日
WEBRONZA 2016年4月15日掲載
週刊文春 2016年4月14日号
文学館倶楽部 No.27 2018年10月15日

受賞情報

第10回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞(2017年)
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