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文学を〈凝視する〉

〈読む〉とは〈見る〉こと.〈凝視〉にとらわれた我々は,そこで何を見いだすのか? 斬新な文学論!

文学を〈凝視する〉
著者 阿部 公彦
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
刊行日 2012/09/07
ISBN 9784000246743
Cコード 0095
体裁 四六 ・ 上製 ・ 302頁
在庫 品切れ
「じっと眺めていると,何だか違った様な気がする」(夏目漱石『門』).街で,家で,文学を読むときもまた,〈見る〉ことをやめられない我々は,〈凝視する〉行為のなかで何を見いだすのか? 茨木のり子の詩,古井由吉と『炎のランナー』,村上春樹と選挙──そこに潜む問題とは? 新しい知の可能性に迫る,斬新な文学論!

■著者からのメッセージ

 人は見ることが好きです.観戦,観劇,ウィンドウショッピング.ゴシップや覗き.活字中毒からネット中毒.額縁に入れて「ほら,これですよ」と示されただけで,前のめりになって食い入るように見てしまうのが人間なのです.むろん近代科学の発展を支えたのも,観察し究明しようとする「目」でした.近代の知は「凝視の文化」によって支えられたのです.その根本には,対象を凝視し精査することでこそ,物事はよりわかるものだという考え方がありました.
 しかし,人はしばしば見ることに失敗します.意図とは違うものを見たり,騙されたり,誤解したり,対象にたどり着けなかったり,あるいは結局,何もわからなかったりする.「凝視せよ」との要請を感じつつも,このようにさまざまな形で見ることから逸脱してしまうところにこそ,凝視の文化の急所があります.
 本書では「見る」という行為がもっとも先鋭にかかわる美術・文学作品の受容の現場を見直し,凝視がそこでどのように機能しているかを考察することで,文学・芸術に限らない経済,政治,教育など近代のさまざまな文化システムと,「見る/読む」という行為との間にある不思議なつながりを解き明かします.
 今,「読解力の危機」が声高に叫ばれていますが,むしろ「うまく読めない」とはどういうことかあらためて振り返りつつ,「読めない」事態を味わうくらいの余裕が持てればいいなと思っています.
(阿部公彦)
はじめに ――見ることをめぐる“変な話”

第1章  繰り返す  ――茨木のり子「わたしが一番きれいだったとき」
第2章  目を凝らす  ――ハンス・ホルバイン『大使たち』とハワード・ホジキンのストローク
第3章  スローモーションにする  ――『炎のランナー』と古井由吉
第4章  注意散漫となる  ――太宰治「トカトントン」と「富嶽百景」
第5章  「一」になる  ――村上春樹と「英語青年」と選挙
第6章  声を見る  ――I. A. リチャーズとエンプソンと批評の時代
第7章  沈黙を聞く  ――ワーズワスと萩原朔太郎
第8章  批評する  ――小林秀雄と柄谷行人
第9章  絵を動かす  ――マーク・ロスコの文法
第10章 勢いをころす  ――太宰治「如是我聞」と志賀直哉のリズム
第11章 見ようとせずに見る  ――志賀とバルトとモランディの秘術
第12章 錯覚する  ――夏目漱石『文鳥』『夢十夜』とフラクタル
第13章 甘える  ――通俗小説と純文学と大江健三郎『水死』
第14章 誘導する  ――松本清張『点と線』とカーヴァー「大聖堂」とあみだくじ
第15章 文学がわからない  ――デューラー『メランコリア』と西脇順三郎

おわりに ――凝視から逃れる
注/文献/図版出典
阿部 公彦(あべ まさひこ)
1966年生まれ.東京大学文学部准教授.英米詩専攻.東京大学大学院修士課程修了,ケンブリッジ大学大学院博士号取得.
主要著書―『モダンの近似値――スティーヴンズ・大江・アヴァンギャルド』(2001,松柏社)
『即興文学のつくり方』(2004,松柏社)
『英詩のわかり方』(2007,研究社)
『スローモーション考――残像に秘められた文化』(2008,南雲堂)
『英語文章読本』(2010,研究社)
『小説的思考のススメ――「気になる部分」だらけの日本文学』(2012,東京大学出版会)
主要訳書―『しみじみ読むイギリス・アイルランド文学』(2007,松柏社)
『フランク・オコナー短篇集』(2008,岩波文庫)

書評情報

CREA 2012年12月号
読売新聞(朝刊) 2012年11月25日

受賞情報

第35回サントリー学芸賞〔芸術・文学部門〕(2013年)
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