〈物語と日本人の心〉コレクション

神話の心理学

現代人の生き方のヒント

現代人の生き方にヒントを与える「神々の処方箋」

神話の心理学
著者 河合 隼雄 , 河合 俊雄
通し番号 学術347
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 心理・言語・教育
日本十進分類 > 哲学/心理学/宗教
シリーズ 〈物語と日本人の心〉コレクション
刊行日 2016/12/16
ISBN 9784006003470
Cコード 0111
体裁 A6 ・ 並製 ・ 222頁
定価 1,100円
在庫 在庫あり

神話の中には,生きるための深い知恵が詰まっている! 生き方の選択肢が増え,物質的に豊かになった現代,それに対応する心の豊かさを身につけるために神話が役に立つのではないか.思春期の悩み,男女の恋愛,親と子の葛藤など誰もが直面する人生の問題について,世界の様々な神話の中にヒントを読み解く「神々の処方箋」.(全6冊)

■内容紹介

 河合隼雄が2003年に著した『神話と日本人の心』(本コレクションIII)では、『古事記』『日本書紀』などに記載されている日本神話の物語を読み解き、日本人の心性の深層にせまっている。それに対して本書では、日本だけでなくギリシャや古代オリエント、アメリカ・インディアンなど世界の神話を引用しながら、思春期の不安、男女の恋愛、親子の葛藤など、現代人の直面する様々な心の問題を解決するためのヒントを与えている。いわば、神話による「心の処方箋」である。
 どうして現代人に「神話の知恵」が必要なのだろうか。河合隼雄は、次のように述べている。

 神々は人間の内界の住人という表現をしたが、神々の姿は、人間の内的体験をあらわすのに適しているのだ。太陽イコール神ではなく、ある人にとって山頂に立って太陽の昇るときの感動がすなわち神体験なのである。これは言うならば、そのとき内界に顕現した太陽の女神を拝んでいるのである。
 このようなことを忘れ、科学技術と結びつく外的事実のみに注目すると、神話は「絵空事」ということになって一挙に価値が下落してしまった。そして神話を否定し去り、便利で快適な生活を築きあげながら、不安とストレスに苦しめられているのが現代ではなかろうか。
 それは神話が試みてきたように、自分という存在をこの世界のなかにどう位置づけるのか、自分が生まれて死んでいくという事実を、どのように納得するのか、という問いに対する答えを見失ってしまったからである。

(本書23頁)

 それでは、科学技術が発達し、神話を失った現代人は、どのように生きればよいのだろうか。これに対し、河合隼雄はアメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルの言葉を引きながら、こう答えている。

 キャンベルは「各個人が自分の生活に関わりのある神話的な様相を見つけていく必要があります」と言う。集団で共通の神話を持つ時代は終わり、各個人の責任と努力によって、自分の生き方における「神話的な様相」を見いだしていかねばならないのだ。

(本書26頁)

 各個人が「自分の生活に関わりのある神話的な様相を見つけていく」ためには、われわれ人類がいったいどんな神話を持ってきたのか、それは現代人の生き方とどのように関連するのか、などについてよく知る必要がある、と河合隼雄は言う。本書は、そのためのささやかなガイドブックと言ってもよいものになっていると思われる。

»河合隼雄財団のサイトへ

はじめに
第一章 不安や孤独の原因
 何とも誰ともつながらない
 「私の木」を見つけた
 「関係喪失の病」に苦しむ
 無意識内に存在する「神話産生機能」
 神々は気ままにふるまう
 心の奥にオイディプスがいる
 答えを見失ったまま
 「自分を動かしているのは自分ではない」 
第二章 ことのはじまり
 いつ自分の存在に気づいたか
 天と地の分離によって
 「光」の出現
 日本のはじまり
 新しい何かが生まれるまで
 創造のきっかけ
 「知りたがり」の代償
 秘密を知る「火の神」
 もっとも大切な「死の現実」
 日本人の原罪
第三章 「男と女」の深層
 永遠の問題を二分法で考える
 父性原理を決意表明
 男は女の何に心を動かされるのか
 女は太陽でもあるし、男にもなれる
 「性」は支配できない
 アマテラス的知恵
 熱烈な愛のゆくえ
 すれ違う男と女
 処女神の怒り
 「心」と「愛」が結びつく
第四章 親子に横たわる葛藤
 子ども心に深く響く
 底知れぬ母・娘の一体感
 女神の受難
 「父の娘」に気づいて
 古代オリエントの知恵
 親子殺しに至るまで
 母親と息子の間
 偉大な英雄になった棄て子
 待たれるヒルコの帰還
第五章 生きた知恵
 だまし、だまされて
 異なる可能性が示される
 スサノオのもうひとつの顔
 心のなかに住むトリックスターの出番
 動物が持つ「先達の知恵」
 「猫神」の役目
 熊のたましい
 蛇は悪者なだけか
第六章 無意識の真実
 英雄神話の読み方
 怪物退治と父親殺し
 なぜ「親殺し」が語られるのか
 結婚は何を意味するのか
 オオクニヌシの結婚
 「悪」という難問
 殺人が語っていること
 姦淫は何をもたらすのか
 盗みと自立
 真実を伝えるための嘘もある
 
解説 「神話の知」の再生をめざして  鎌田東二
<物語と日本人の心>コレクション 刊行によせて  河合俊雄
河合隼雄(かわい はやお)
1928年兵庫県生まれ.京都大学理学部卒業.1962年よりユング研究所に留学,ユング派分析家の資格取得.京都大学教授,国際日本文化研究センター所長,文化庁長官を歴任.2007年7月逝去.岩波書店より『河合隼雄著作集』(第一期,第二期)刊行.

河合俊雄(かわい としお)
1957年奈良県生まれ.京都大学教育学研究科博士課程中退.チューリッヒ大学(Ph.D.).ユング派分析家資格取得.現在,京都大学こころの未来研究センター教授.著書に『心理臨床の理論』『ユング魂の現実性』ほか.
ページトップへ戻る