壊れる男たち

セクハラはなぜ繰り返されるのか

「合意だったはず」――加害者男性たちが自らの加害性に無自覚なのはなぜか.当事者の声から彼らの意識を探る.

壊れる男たち
著者 金子 雅臣
通し番号 新赤版 996
ジャンル 書籍 > 岩波新書 > 社会
刊行日 2006/02/21
ISBN 9784004309963
Cコード 0236
体裁 新書 ・ 並製 ・ カバー ・ 238頁
在庫 品切れ
「合意だったはず」「自然のなりゆきで」――告発されて「加害者」となった男性たちは,事態を理解できず,相変わらずの言い訳を口にすると茫然と立ち尽くす.彼らはなぜ自らの加害性に無自覚なのだろうか.相談現場で接した多くの当事者の声を通して,「セクハラをする男たち」の意識のありようを探るノンフィクション.


■編集部からのメッセージ
 セクハラ事件が激増しつづけるのはなぜなのか?

 「セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)」という言葉が日本に紹介されて十数年。この間、法による規制も進み、社会的な取り組みはたしかになされてきたと言えます。しかし、一方でセクハラに関連するトラブルは、近年、各種相談件数、裁判件数ともに激増し続けています。それは、いったい、なぜなのでしょうか?
 著者は長年、東京都の労働相談に従事し、セクハラ事件の解決のために被害者・加害者、双方の当事者に多く関わってこられました(東京都は「セクハラ相談窓口」を全国にさきがけて立ち上げ、相談を相談だけに終わらせず実際の解決に導くための「あっせん」というシステムを作り、この問題に取り組んできた実績があります)。本書は、そんな著者の前に現れた加害者男性たちの「言い分」をつぶさに検証することによって、彼らの意識を探り、そこからセクハラ事件が繰り返し起こされる理由、さらにはセクハラを「する男」と「しない男」の違いがどこにあるのかを明らかにしようとしたノンフィクションです。人と人との関係について様々な立場から考えて続けてきた方にはもちろん、「セクハラ」という言葉を聞いて、「いったいどこからがセクハラなのかわからない」「いちいち目くじら立てると人間関係がギスギスする」「この言葉で世の中ややこしくなった」――そんな風に思っている方にこそ、ぜひ手にとっていただきたいと思います。
 さて、本書でも言及されている事例ですが、告発された男性が事の成り行きを次のように説明したケースがあります。

彼女は、夫を交通事故で亡くし、子どもを抱えて仕事をしに来ていた。当初はパートタイマーとして働いていたが、真面目に働くし、明るい美人だった。仕事で話していても、はきはきしていて好感がもてた。彼女の子どもが病気になり、しばらく仕事に来られなくなったりすることがあって、経済的なことで相談をされて親しくなった。それ以来、何かと相談にのることになったが、経済的な不安を抱えていたので、正社員になることを勧めて力を貸した。そして、念願の正社員になったお祝いということで飲みに行ったときに、ホテルに誘った。いろいろ相談にものり、親しく付き合っていたし、感謝もされていたため、自然の成り行きでそうなった。

 あなたはこれを「セクハラにあたる」と考えますか? それとも「あたらない」と考えますか? それはなぜでしょうか? ちょっと考えてみてから読み始めるのもよいのではないかと思います。
はじめに

第1章 「女性相談窓口」に現れる男たち
 1  男たちが「女性相談窓口」に
 2  労働相談にも“男性問題”
 3  「こころの相談」にみる男たちの崩壊
 4  セクハラで男たちが問われる
 5  “男性問題”とは何か


第2章 男たちのエクスキューズ――「魔が差した」というウソ
 1  訴えられるはずがない 
神経質そうな男/追いかけてきて/「オレのことが嫌いなのか」/「もう、子どもじゃないんだから」/なぜ、彼女が訴えを……/仕事は口実/「何もしていない」/娘のような気持ち 

 2 「大人の女」にかける願望 
「付き合いも給料のうち」/「これは前戯だ」/被害者意識の強い女/穏便な解決を/「謝ればいいんだろう」/社長の真意/その程度の男 

 3 都合のいい女たち 
派遣先での出来事/プライベートな関係/遊び感覚/水商売のような人たち/退職を決心した/どこまでも別々の理解/仕事はそこそこ/女というものは……/「正社員にしてやる」/「意気投合して」/「もう、止められない」/据え膳喰わぬは男の恥/会社の決断

 4 離婚した女性に向けられる視線
企業トップの奢り/「受け止め方が悪い」/離婚女性に向けられる視線/「あなたはオンナを知らない」/社長が現れない/涙の訴え/起こるべくして起きた事件/方程式のない和解/加害者側弁護士の怒り/逸脱行為の温床


第3章 引き裂かれた性
 1 妻には知られたくない
想像できない世界/性的には淡白な夫/家庭を大切にする人/妻とは別世界の出来事

 2 夫の見せた別の顔
事実は単純である/追いつめられて/「言わなくともわかる」/平行線のままで幕

 3 妻にはない性を求めて
妻にはわからないこと/引き裂かれた性/夫が崩れた


第4章 男が壊れる
 1 セクハラを“する男”と“しない男”
セクハラ男の言い分/“誘う性”と“誘われる性”/セクハラは「男性問題」/セクハラを“する男”と“しない男”の岐路/説明不能な“衝動”/フツーの男たちの意識/地続きの意識

 2 暴走のスプリングボード
“軽く肩を押す”もの/男たちの危機感/逸脱のスプリングボード


あとがき
金子雅臣(かねこ・まさおみ)
1943年生まれ。労働ジャーナリスト。東京都勤務で長年にわたり労働相談の仕事に従事する一方、社会派のルポライターとして活躍。セクハラ問題では第一人者として講演活動などに取り組んでいる。また日本で初めて「ホームレス」という言葉で社会問題を提起し、精力的なルポで実情を紹介した。最近ではパワーハラスメントを職場の新たな問題として取り上げ、警鐘を鳴らしている。 主な著書に、『裁かれる男たち―告発の行方』(明石書店)、『ホームレスになった―大都会を漂う』(ちくま文庫)、『パワーハラスメント何でも相談』(日本評論社)、『労働相談(裏)現場レポート』(築地書館)などがある。

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2018年6月2日
週刊金曜日 2009年2月13日号
労働の科学 2006年7月号
女のしんぶん 2006年5月25日号
地方自治職員研修 2006年5月号
毎日新聞(朝刊) 2006年4月30日
信濃毎日新聞(朝刊) 2006年4月30日
先見労務管理 2006年4月25日号
北海道新聞(朝刊) 2006年4月23日
PRESIDENT 2006年4月17日号
労働法学研究会報 第2379号 2006年4月15日号
毎日新聞(朝刊) 2006年4月6日
ガバナンス 2006年4月号
毎日新聞(朝刊)[川崎版] 2006年3月21日
朝日新聞(朝刊) 2006年3月5日
読売新聞(朝刊) 2006年2月26日
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