世界 2018年11月号

特集1:「軍縮——とるべき選択」  特集2:「〈道徳化〉する学校」

世界 2018年11月号
ジャンル 雑誌 > 世界 > 定期号
刊行日 2018/10/06
■特集1 「軍縮——とるべき選択」
 世界各国の軍事支出の合計は,昨年,1兆7000億ドルに達した.
 日本円で約192兆円,とても現実感をもてる金額ではないが,グテーレス国連事務総長は,「この額は全世界の人道援助に必要な金額の約80倍にもあたる」と指摘している.
 核軍縮は停滞し,イエメンで,シリアで,パレスチナやアフガニスタンで,多くの人々が通常兵器により殺傷されている.貧困を終わらせ,気候変動に対処し,医療や教育を行き渡らせるためではなく,兵器生産に,人類の限りある資源を消費することが,はたして賢明といえるのか?——グテーレス氏は軍縮アジェンダを公表し,そう問いかけた.
 安倍政権のもと軍拡が進められ,武器輸出と軍事研究に企業とアカデミズムを動員しようとしている日本にも,同じ問いかけがつきつけられている.

■特集2 「〈道徳化〉する学校」
 「特別の教科 道徳」がついに始まった.
 道徳の教科化で,学校はどう変わっていくのか.
 「愛国心」「郷土愛」といったおなじみのキーワードから,国家主義的な価値観を上から押し付ける教育の再来を危惧する声は小さくない.
 一方で,今回の学習指導要領が高らかに謳う,「考え,議論する」道徳を歓迎する声もまた強い.価値観の押し付けではない,多様性に根差した“新しい道徳“が始まるのだと,希望に満ちた言葉さえ漏れ聞こえてくる.
 2つの議論のどちらかを選ぶ前に,立ち止まって考えたい.そもそも目の前で起こっているのは,何より道徳の肥大化だ.善悪にかかわらず,いや,むしろ“より善き道徳教育“を目指すほどに,その領域は膨れ上がり,子ども一人ひとりの思考や態度,性格に至るまで,そのすべてを搦めとるものになってしまう.
 特集では,肥大化した「道徳」が抱え込む矛盾に,様々な角度から迫る.自由との矛盾.多様性との矛盾.いじめ問題やマイノリティ問題など,学校を取り巻く現実との矛盾.そのツケを払うのは先生,そして何より子どもたちだ.
 “より善き道徳教育“という問いの迷路から,抜け出す.その道筋を考えたい.
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┃特集1┃軍縮――とるべき選択
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〈インタビュー〉
我々の未来を守るために――国連事務総長の軍縮アジェンダをめぐって
中満 泉(国連軍縮担当事務次長)

〈資料〉
軍縮アジェンダ・私たちの共通の未来を守る

〈全方位の軍拡〉
安倍軍拡はどこへ向かうか――防衛大綱と概算要求にみる,新段階
前田哲男(軍事ジャーナリスト)

〈検証〉
武器輸出――もうやめたほうがいいのでは?
望月衣塑子(東京新聞)

〈アカデミズムと軍事〉
軍学共同の現段階――「軍産学複合体」を形成させないために
池内 了(総合研究大学院大学名誉教授)

〈事例報告〉
軍縮交渉と市民社会――武器貿易条約の事例に見る多様なアクターの参加と疎外
榎本珠良(明治大学国際武器移転史研究所)

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┃特集2┃〈道徳化〉する学校
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〈心の統制への道〉
学校の〈道徳化〉とは何か――新学習指導要領に見る、生き方コントロールの未来形
児美川孝一郎(法政大学)

〈対談〉
“いじめの加害”という文脈の中で――教育は子どもに何を問いかける
荻原浩(小説家)×阿部泰尚(T.I.U. 総合探偵社代表)

〈歴史をひもとく〉
つくられた「臣民の手本」像――明治維新一五〇年の節目に復活した道徳教科書と二宮金次郎
小澤祥司(環境ジャーナリスト)

〈「改革」の虚妄〉
「特別の教科」道徳の深刻な矛盾――徳目主義へ進む教科書と教師用指導書
高橋陽一(武蔵野美術大学)

〈市民社会に向き合う教育〉
マイノリティと道徳教育――多文化共生・シティズンシップの視点から
藤原孝章(同志社女子大学)

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◆注目記事
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〈座談会〉
非行少年を立ち直らせる社会を描く
八田次郎(元法務教官)×五十嵐弘志(NPO法人マザーハウス)×田丸雅智(ショートショート作家)

〈座談会〉
手話という言葉,ろう者の世界――映画『ヴァンサンへの手紙』
レティシア・カートン(映画監督)×河崎佳子(神戸大学)×牧原依里(映画作家)

〈緊急勅令復活?〉
改正された緊急事態条項の危険
永井幸寿(弁護士)

〈戦後史の裏側で〉
“公益”に奪われた人権――日本国憲法と優生保護法
藤野 豊(敬和学園大学)

〈報告〉
海洋プラスチック汚染とは何か(上) ――二一世紀最悪の環境問題の一つ,深刻化するその状況
枝廣淳子(大学院大学至善館)

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◇世界の潮
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◇苦境のパレスチナ――出口の見えないトンネル
奈良本英佑

◇イラン 核合意と国内政局の行方
坂梨 祥

◇国際法はロヒンギャ問題を裁けるか?――国際刑事裁判所の苦悩と未来
阿部浩己

◇ブラジル国立博物館火災――失われた現在,過去,未来
古谷嘉章

◇「万年筆」は捏造証拠だった――狭山再審の新証拠
菅野良司

◇卸売市場法改定と豊洲市場移転――食の流通の変容
三國英實

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●連載
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●【新連載・第1回】自衛隊と災害救助
1953年――誕生前夜の大災害
島本慈子(ジャーナリスト)

●脳力のレッスン【199・特別篇】
二〇一八年秋の不吉な予感――臨界点に迫るリスクと日本の劣化
寺島実郎

●スペイン発「もうひとつの世界」を創る【第3回・最終回】
多様性を豊かさに変える
工藤律子(ジャーナリスト)

●ハンセン病回復者の語り・家族の語り【第3回】
高校生の娘に背中を押されて
福岡安則(埼玉大学名誉教授),黒坂愛衣(東北学院大学)

●神を捨て,神になった男 確定死刑囚・袴田巖【第21回】
「清水に行けば自由になる道がある」
青柳雄介(ジャーナリスト)

●アパレル興亡【第15回】
黒木 亮(作家)

●日 没【第11回】
桐野夏生(作家)

●海の底から【第19回】
金石範(作家)

●私的小豆島名所【その40】
内澤旬子(イラストルポライター)

●映像世界の冒険者たち【第7回】
強制収容所は描きうるか?――ジャン=リュック・ゴダール(前篇)
四方田犬彦(比較文学・映画研究家)

●新語解題【第9回】
親しみやすさが,その命
杉山享司(日本民藝館)

●中国新建築文化論【第18回】
中国近代建築の初期設定(2)――実務にいそしむ外国人建築家たち
市川紘司(明治大学助教)

●メディア批評【第131回】
神保太郎(ジャーナリスト)

●沖縄(シマ)という窓
宮古島「アリランの碑」「女たちへ」――建立一〇周年の集い
山城紀子(フリーライター)

●片山善博の「日本を診る」【第108回】
ふるさと納税は何が問題なのか――総務省のフェイクを鵜呑みにするマスコミ
片山善博(早稲田大学)

●世界論壇月評
朱建栄・竹田いさみ・吉田文彦・石郷岡建

●ドキュメント激動の南北朝鮮(255)(18・8~9)
編集部

●原発月報――(18・8~9)
福島原発事故記録チーム

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○グラビア
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○公募作品 170
HIROSHIMAS ――関釜航路
山田 諭(写真家)

○A SHOT OF THE WORLD

○表紙の言葉
鈴木邦弘(写真家)

○表紙写真= 鈴木邦弘 デザイン= 赤崎正一+ 佐野裕哉

○グラビアについて(公募規定)

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○読者投句・岩波俳句
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選・文 池田澄子(俳人)

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◇編集後記
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