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現代文庫の可能性 [対談] 佐高 信×小野民樹
ラディカルに時代を撃つ
みごたえのある本を味わう楽しみ
 
小野 岩波現代文庫という新しいシリーズを来年1月に創刊します。あまり売れないと世にいわれている分野でも現代の名著とされる書物を学術、文芸、社会の3ジャンルにおおまかに分類して、幅広く収録しようと考えています。装丁は奇抜さを狙わず、白地で統一し、内容で勝負するというつもりです。世代によって感じ方に違いはあると思いますが、イメージはやや恥ずかしながら「清楚」です。
佐高 岩波文庫との違いは?
小野 岩波文庫は基本的に古典です。それに対して、現代文庫は戦後、とくに高度成長期以後の書物で、私たちがこれからの生き方を考えるために必要な基本書目を収録したいと考えています。
佐高 私は岩波が賞味期限つきのナマモノを出すのかと思っていたら、第1回の書目をみるとちょっとおとなしい感じだな。いま、世の中がこんなにおかしくなっているときに、時代を撃つには古典だけではたりないと考えたわけですね。それには岩波でしかできない骨太の批判精神が一本通 っていることが必要でしょう。
小野 現在のナマナマしい問題について根元にって考えるための素材を提供したい。例えば、君が代・日の丸問題の時に、日本国家と民族の起源を考えるために石母田正先生の神話論をひもとくといった視点がないと、単なる政治的立場の争いで終わってしまう。そういう時、読みたいと思っても本が手に入らないでしょう。
佐高 そう、ラディカルに時代と社会構造を撃つということですね。私がいつも思うのは、古典と現代物は往復させないと両方が生きない。よく古典ばかり読むという人がいるじゃない。
小野 デカンショで半年暮らすという。
佐高 そうそう、でもそれでは、時代感覚、現実感覚が疎くなると思うのです。また、ナマモノばかりじゃ、ある種深みがなくなるから、往復作用がどうしても必要になってくる。その意味では、古典としての岩波文庫とナマモノとしての現代文庫が揃うことによって、読者としては栄養素の偏りがなくなるということなんじゃないですか。
小野 いまの読者にとって、古典にいきなりとりかかるということは、難しくなっていますからね。たとえば「ハイデガー『存在と時間』の構築」は、この名前ばかり有名な未完の哲学書の幻の下巻を、膨大な全集からテキストを抽出して構成するという野心的な試みで、独創的なハイデガー入門になると思います。木田元先生は普通 の書下しの方が楽だとぼやいておられます。古典を現代によりよく生かすということも、現代文庫の大きな機能のひとつと考えています。
佐高 読書を登山に譬えれば、登り口がたくさん増えて、見えやすくなったということですね。いま、私は石原莞爾のことを書いているんですが、書くたびにどんどん批判的になっていく。同郷の山形県人ということと、やたら持ち上げられすぎているからやってみようと思ったんですがね。それに関連して、戦後の思想家の問題提起もきちんと受けとめられていないでしょう。転向したとして片づけられてしまった人でもなぜそうなったかを検証するのも、現代文庫の役割だと思います。
小野 現在につながる親切な解説が必要でしょうね。
佐高 岩波文庫だと半永久的に読まれることが基準になるでしょうが、現代文庫はそれでは駄 目で、賞味期限というか、射程距離がそれほど長くなくても、時代にチャレンジする本はどんどん入れていかなくては。高校野球なんかでも、勢いで力のあるものを負かしていくじゃないですか。文庫戦争の時代に、ただいい作品ですよ、おいしいですよといっても、今どうしてもというのがないと、読者はひっぱられない。例えば、藤村(ふじむら)の羊羮だって老舗というだけでは、若い人はやって来ない。うまいものマップがたよりですよ。一方、「和菓子のソニー」なんていわれる叶匠寿庵(かのうしょうじゅあん)のお菓子がやたら売れて、それが老舗の味に影響を与えていくこともありますから。私の感じでは、岩波の読者には古典重視の人が多いでしょう。現代文庫はある意味で従来の岩波の読者に対してもチャレンジして、新陳代謝を起こすようであってほしいですね。
小野 学術のジャンルは、かなり高度なものでも、現代に通 じる経路がつけられれば収録したいと思います。戦後の学術書には、大きな問題にがっちりとりくんだ実に力のこもったものがたくさんあって、いま読み返してみても実に刺激的です。みごたえのある、栄養たっぷりの本を味わってもらう工夫を一生懸命考えているところです。「社会」の分野には、いわゆるナマモノをどんどん仕入れるつもりです。
佐高 小説でも久野収先生のいわくプロブレム・ノベル、政治や経済に挑戦した問題作は収録する価値があるし、現代のタブーにチャレンジするアンソロジーなど、現代文庫の可能性は開かれていると思います。がんばってください。


佐高 信 (さたか まこと)
Makoto Sataka

1945年山形県生まれ。高校教師、経済誌編集長を経て、現在評論家.経済・政治・社会など全方向に辛口の筆をふるう。
小野民樹 (おの たみき)
Tamiki Ono

1947年群馬県生まれ。1972年岩波書店入社。岩波新書、同時代ライブラリー編集部などを経て、岩波現代文庫編集長。
 



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