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2004年12月24日
〈育てるという感覚〉
 岩隈選手の移籍が決まって、プロ野球の一連の騒動(?)も一段落というところだろうか。この1年でプロ野球のイメージは大きく変わった。そこで私が強く感じたのは、「育てる」ということだ。
 まず、日本ハムがフランチャイズを移すことになり、札幌市民から大歓迎された。ペナントレースが始まってみると、最初はよく球場に足を運んでくれたお客さんも、成績がふるわなくなると、かなり減ってしまったらしい。球団関係者も心配したようだ。しかしプレイオフを争うようになり、新庄の活躍もあって、最後はたいへんな盛り上がりとなった。
 一方、シーズンオフには近鉄がオリックスに吸収合併されることになり、プロ野球選手会がストライキを決行し、仙台に新しく球団が誕生した。仙台市民もやはり大歓迎の様子だ。
 こうした一連の過程で、プロ野球ファンは強く感じたのではないか。「自分たちがきちんと応援しないと、大好きな球団がなくなってしまう!」ということを。これはJリーグのファンにはお馴染みの感覚だろう。Jリーグのクラブはどこも経営が楽ではないし、現に横浜フリューゲルスなど消えてしまったチームがある。かと思うと、ザスパ草津のように、市民が支え盛り上げることで、Jリーグに昇格するチームもある。自分たちが好きなものなら、自分たちで支え、育てていかないと、すぐに消えてしまう危うさ。
 誰もが欲しくなるヒット商品ならそんな気遣いは不要だ。欲しいときに買い、野球なら見たいときに出かければよい。しかし、好きなもの・ことが個別化し、自分の趣味が必ずしも多数派でないいま、油断していると、それは目の前から消えてしまうかもしれないのだ。
 こんなことを思ったのには、もう一つ理由がある。このところ、深夜に放映されるアニメやドラマ(ファンタジー、ホラーなど)をよく見ている。この春からはちょっとアニメに元気がないと心配していたところ、今シーズン(10月から)はアニメもドラマも充実していて眼が離せない。しかしこの時間帯の番組は厳しい扱いを受けていて、昼間の番組の状況によって放映時間の変更や中止はあたりまえ。そして人気がないとなるとすぐうち切られてしまう。
 ご存じかと思うが、視聴率数パーセントの世界にあるこれらの番組は(特にアニメは)、1回の放映だけでは制作のもとが取れない。赤字になってしまう。そこで、番組の放映からあまり間を置かず、DVDやビデオソフトを販売し、その売上でやっと帳尻を合わせる。そこでファンはどうするか。
 私の友人は、好きな番組のDVDが発売になると必ず買うという。繰り返し見たい、というだけなら、放映を録画しているのだから(なにせ深夜番組なので)それで充分なはずだ。それは、買うことによって番組への支持を表明し、わずかでも番組制作の資金を提供する、ということなのだ! 好きな番組が少しでも長く続くように。たとえひとりの力は微々たるものだとしても、これはまさに消費を通して番組を育てていると言っていいと思う。
 自分が見ていないと消えてしまう、というこの「感じ」は、マイナーな音楽バンド、宝塚歌劇など、ある分野ではめずらしいことではないだろう。しかしそれがプロ野球というメジャーな分野でも顕在化してきた、と強く感じる。それはわが出版界でも同じかもしれない。好きな雑誌などは、欠かさず買う、定期購読する、というようなことをしないと、いつか消えていってしまうかもしれない。あまり知られていない、しかし自分が好きな書き手がいたら、その人の本をせっせと買っていないと、いずれその人の本は出版されなくなるかもしれない。
 もちろん、「育てる」にはお金がかかるのですが…。

 別にご案内したように、岩波アクティブ新書は12月の刊行をもって、新刊の刊行を終えることになりました。力及ばず、志半ばでこのようなことになり、残念です。新しい試みに期待してくださった方々、応援していただいた読者のみなさん、特に、熱心に読者カードをお送りくださったみなさんに深く感謝いたします。ご期待には別の形でお応えできるように、さらに精進してまいります。どうもありがとうございました。 
【桑原正雄】
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