編集部だより ブックレット編集部



既刊書の紹介

既刊書一覧(番号順)

既刊書一覧(在庫連動)

編集長どんどんどん日誌

刊行のことば


編集部だよりTOP

重要な選択の前に

No.805『就活とブラック企業 現代の若者の働きかた事情
森岡 孝二 編
好評発売中

昨年12月の衆議院選挙で自民党が大勝し,今年も早くからその影響が出て来る年になるでしょう.投票した多くの人が重視したのは景気対策だったようです.景気や雇用確保の面で,自民党(与党)は有効な対策が打てるでしょうか.失業率の動向は常に注目されていますが,若い世代の就職難も依然として深刻な状況です.なかには,劣悪な条件が想像されるけれども就職せざるを得ない,という人も多いといいます.
 本書では,近年の就職状況をデータとともに解説しつつ,過労死や過労自殺にとりくむ弁護士,就活経験学生,若者支援団体メンバーからの貴重な報告を掲載しています.就活前の学生さんや親御さんに,そして就職先の働かせ方に疑問をもった方の自衛のためなどにも,広くお薦めしたい一冊です.

(2013.1)



2012年を振り返って

No.776年表 昭和・平成史 1926−2011
中村 政則,森 武麿 編
好評発売中

 連日の猛暑に苦しんだ夏がようやく終わったと思ったら,もう師走です.年の瀬が迫るなか,今年起こったあれこれや,年頭の抱負の達成度などを思い起こす季節になりました.
岩波ブックレットにとって,今年は創刊30年という大きな節目の年でした.装丁のミニリニューアルや記念目録の刊行を行い,刊行点数を例年より大幅に増やしてアピールしました.去年に引き続き震災と原発事故に関連した多くの書目のほか,社会・教育問題からエッセイまで,幅広いテーマの本をお届けしました.そのようにして刊行した全34点のうち,一番多くの方の手にとられたのは,7月刊行の『年表 昭和・平成史』でした.昭和元(1926)年〜平成23(2011)年の期間について,政治・経済・社会の主要な出来事を1年1頁にまとめた,コンパクトで便利な年表です.時代の動きが激しいからこそ,ものごとの起源や経緯を確かめたい,という思いに応える一冊が求められたのでしょう.

(2012.12)



その国は、どんな国?

No.708『愛国心を考える』
テッサ・モーリス=スズキ
好評発売中

「通常兵器であれば日本が勝つ.日本は戦争する覚悟をみせよ」と,公職にある都知事がインタビューに対して公然と発言しています.ゆゆしき状況です.そしてとうとう,国政復帰を明言し,2年以上の任期を残したまま辞職しました.国政の場で同じ発言を繰り返すのでしょうか.
 国を守るための戦争.かつて国民が守ろうとしたその国は,国民を守りませんでした.戦争する覚悟を見せることが愛国心なのでしょうか.この国は「不殺(ころさず)の誓い」を立てたのではなかったのでしょうか.著者は,本書において「国を守るために武器を取ること」を愛国心の発露とする短絡さに警鐘を鳴らします.愛国であれ,憂国であれ,自ら主体的に,自らの社会をよくするために努力しようとするか――問われるべきはそこではないのか,と.

(2012.11)



過去に向き合うために

No.784『日本軍「慰安婦」制度とは何か』
吉見 義明
好評発売中

「慰安婦が軍に暴行,脅迫を受けて連れてこられた証拠はない.証拠があるなら韓国に出してほしい」と述べた橋下徹大阪市長をはじめ,日本軍「慰安婦」問題について「軍による強制の証拠はない」「軍の関与をみとめた河野談話は撤回すべき」という政治家の発言が相次いでいます.誘拐や人身売買を行ったのは斡旋業者であり,軍は関係ない――被害をうけた女性たちの名誉と尊厳を再び踏みにじるような発言が,なぜくりかえされるのでしょうか.
 本書は,2007年の安倍首相(当時)の「「官憲が家に押し入って」連行するような狭義の「強制性」はなかった」という発言への反証として刊行されました.多くの「慰安所」が軍の命令により設置され,設置後も軍の監督・統制下におかれていたこと,日本軍自身が女性を略取・監禁して「慰安所」をつくり,レイプを繰り返したケースも多数あることなどが,史料にもとづいて丁寧に説明されています.
 過去に向き合うことを避けていては,決して未来は開けません.今こそ手にとっていただきたい一冊です.

(2010.10)



なぜ線量計の不正使用が起きるのか
『検証 原発労働』

No.827検証 原発労働』
日本弁護士連合会 編
好評発売中

 福島第一原子力発電所では,警報つき線量計を鉛版で覆ったり,装着せずに作業したりといった,作業員を危険にさらす深刻な問題が次々と発覚しています.
 なぜ作業員の命を軽視するような不正が起きてしまうのか.その背景には,原発での労働は電力会社,メーカー,それに地元の業者が絡んだ複雑な下請け構造があります.
 その複雑な構造を明らかにした本書には,原発作業員だけでなく下請け業者のなまなましい証言も収録されています.メディアで報道されるのは,国や電力会社など,発言力の強い立場からの声ばかりですが,果たして実態は彼らの言う通りなのでしょうか.また,必死の作業を続ける現場の作業員の命を守るためにほんとうに必要なものは何でしょうか.本書は厳しく問いかけています.

(2012.9)



テセをストライカーに育てた朝鮮学校サッカー部
『壁を壊す!! サッカー・ワールドカップ北朝鮮代表として』

No.776『壁を壊す!! サッカー・ワールドカップ北朝鮮代表として』
鄭 大 世
好評発売中

 香川慎司がイギリスの名門マンチェスター・ユナイテッドで,川島永嗣がベルギーのクラブチーム,スタンダール・リエージュでデビューを飾ったニュースが報じられていますが,海外で活躍している元Jリーガーは,日本人選手だけではありません.
2010年まで川崎フロンターレのエースだった鄭大世選手も,ワールドカップ南アフリカ大会に朝鮮民主主義人民共和国代表として出場した後,ドイツ・ブンデスリーガの第一線で活躍しています.
 この本では,生い立ちから始まって,彼のパワフルなプレイスタイルを培った朝鮮学校でのサッカー経験を,語り尽くしています.8月の新刊『知っていますか,朝鮮学校』とともにぜひご覧ください.

(2012.8)



「学びからの逃走」という現象を知らしめた基本文献
『「学び」から逃走する子どもたち』

No.524『「学び」から逃走する子どもたち』
佐藤 学
好評発売中

本書が刊行されたのは 12年前ですが,当時メディアを中心に喧伝された「いじめ」や「学級崩壊」よりも,子どもの危機の中心は,日本では小学校高学年から一握りの勉強好きと大多数の勉強嫌いに分かれてしまうことだと看破し,現在も多くの方に読まれているロングセラーです.本書での議論を踏まえた佐藤先生の『学校を改革する――学びの共同体の構想と実践』は,従来型の〈勉強〉から,21世紀的な〈学び〉への転換を可能にする学校改革について,多くを教えてくれます.併せてお読み下さることをお薦めします.

(2012.7)



原発は倫理的ではない
『ドイツは脱原発を選んだ』

No.818『ドイツは脱原発を選んだ』
ミランダ・A.シュラーズ
好評発売中

 福島第一原発の事故後,ドイツではいち早く原発問題倫理委員会が設置され,同委員会は5月末,メルケル首相に脱原発を答申しました.著者は,この原発問題倫理委員会のメンバーです.
 答申の鍵となったのは,原発はたとえ事故を起こさなくても,放射性廃棄物処理の問題など,将来の世代に大きな負担を残すため,倫理的ではないという点でした.翻って,事故を起こした日本では,いま原発再稼働への動きが強まっています.「(原発の使用をやめると,)ドイツの社会には一時期負担がかかるが,次の世代のことを考えるなら,やはりいまその方向に舵を切る必要がある」――重大な岐路に立つ私たちにとって,著者の言葉は重く響きます.

(2012.6)



忘却しても消えない現実
『フォト・ルポルタージュ 福島 原発震災のまち』

No.816フォト・ルポルタージュ 福島 原発震災のまち』
豊田 直巳
好評発売中

 もう震災も原発事故も遠い過去のことになってしまったのか.テレビなどからは震災や原発に関する番組はほとんど消え,この社会の忘却の速さに驚かされる.しかし,人が忘却しようと,放射能の被害は消えない.原発事故は収束などしていない.そして,多くの人が故郷を追われ,避難を続けている――.
 本書は,東日本大震災の直後から福島県入りした著者が原発震災下の実態を追った貴重な記録です.事態はいまも進行中です.事実に謙虚に向き合わなければ,未来は築けないでしょう.

(2012.5)



被災地を支える井上ひさしの言葉
『取り返しのつかないものを,取り返すために――大震災と井上ひさし』

No.814『取り返しのつかないものを,取り返すために――大震災と井上ひさし』
大江 健三郎,内橋 克人,なだ いなだ,小森 陽一
好評発売中

東北に生まれ育ち,その土地を愛した井上ひさしさん.「ひょっこりひょうたん島」のモデルとなった蓬莱島も,『吉里吉里人』の作品舞台といわれる吉里吉里地区も,2011年の大震災で甚大な被害を受けました.この東北の惨禍に,彼ならばどのような言葉を発しただろうか.本書は,井上さんが亡くなられてから1年にあたる2011年4月9日に行われた講演会を収録したものです.その数多の作品のなかに,井上さんの言葉がたしかに遺されていることを実感しつつ,この惨禍のあとをどう生きるか考えるものとして,広く読まれています.

(2012.4)



高木さんが伝えたかったこと…
『原発事故―日本では?』

No.75『原発事故―日本では?』
高木 仁三郎
好評発売中

 このブックレットは,原発の在り方に警鐘を鳴らしてこられた高木仁三郎さんが,1986年に書かれた本です.
 丁寧な科学的な解説がなされているだけでなく,何が問題なのかも,わかりやすく書かれています.
 そしてこの本の最終章には,もし日本で原発の事故が起こったらどうなるのか,というシミュレーションが描かれています.そのときに,一人ひとりに何ができるのか――.このことを,もっと真剣に受け止め,人類にできないことは何かを真摯に考えていたならば……と,思わざるをえない内容です.
 エネルギー問題にも言及しているこの本は,2011年に復刊.いまも,多くの読者に読まれている,ロングセラーです.

(2012.3)



復興がもたらす傷つき
『震災トラウマと復興ストレス』

No.815『震災トラウマと復興ストレス』
宮地 尚子
好評発売中

 東日本大震災によるトラウマ(心の傷)の影響を,被災者・支援者・周囲の人それぞれの視点から分析した本書は,とくに支援者が自分の立場を見つめ直すための本として,幅広く読まれています.
 ところで,トラウマについての本なのになぜ「復興ストレス」なのでしょう.
 震災からまもないころ,「震災トラウマ」の企画の相談にうかがった私たちに,宮地尚子さんが指摘されたのは「震災からの復興がもたらす傷つき」の問題でした.「復興」とはその響きのとおり,前向きなことなのですが,いいことばかりとは言えません.被災者の立ち直りの差,地域の復興格差,支援の輪の縮小,世の中の関心の薄れなど,多様で複雑な問題があげる小さな声は「復興」のかけ声にかき消されがちです.書名には,目につきにくい「復興ストレス」にも気づいてほしいとの思いがこめられています.
 震災からまもなく一年がたちます.少し気持ちが落ち着いて,いかにも重いテーマの本書をやっと手にとれるという方もいるかもしれません.もう読まれた方も,長い目で「復興ストレス」を考えるきっかけとして,再読していただければと思います.

(2012.2)



戦争とは何か,核は何をもたらすのか
『はだしのゲンはピカドンを忘れない』

No.7『はだしのゲンはピカドンを忘れない』
中沢 啓治
好評発売中

原発事故が起こり,「被曝」という言葉に日々接するようなときが到来するとは,何人の人が予想していたでしょうか.
 作者の中沢啓治さんは原発にはかねてから批判的だったといいます.「人間が制御できるものではない.まして地震列島の日本でこんな恐怖があるのか,と思っていた」「目に見えない,触ることもできないものが体を侵していく.今の状況と似ている」(朝日新聞2011年8月2日).
 ブックレットの創刊以来,もっとも多くの方に読まれているのがこの『はだしのゲンはピカドンを忘れない』です.今年の7月にこの本も,刊行30年を迎えることになります.

(2012.1)



TPPについて考えるために
『死に至る地球経済』

No.793『死に至る地球経済』
浜 矩子
好評発売中

 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)が大きな議論を呼んでいます.TPP参加は,財政危機や円高など,多くの問題を抱えて低迷する日本経済の再生の切り札なのでしょうか.それとも,さらなる対米追従への道なのでしょうか.リーマン・ショック以降,迷走を続ける世界経済の構造を理解しないと,その答えは見えてきません.
 本書は,その世界経済の潮流を,驚くほど分かりやすく解説しています.TPPがアメリカによる市場の囲い込みだとするならば,そのような秩序はもはや立ちゆかないことが,本書を読むとよく理解できます.
 また「第5章 中国は救世主になれるか」も必読の内容です.

(2011.12)



大きな注目を集めた事件,あれから8年
『性教育裁判――七生養護学校事件が残したもの』

No.765『性教育裁判――七生養護学校事件が残したもの』
児玉 勇二
好評発売中

 東京都立七生(ななお)養護学校への「不適切な性教育をおこなっている」との攻撃に対し,先生たちが都議・都教育委員会を相手にたたかった2011年9月16日の控訴審は,知的障害のある子どもたちに向き合ってきた現場の先生の教育を支持した結果となりました.事件の発端は2003年夏に遡ります.この前例のない教育裁判で何が裁かれたのか,関係者の方々の発言を収めた一冊です.
 詳しくはこちらの「こころとからだの学習」裁判を支援する全国連絡会サイトもどうぞ.http://kokokara.org/

(2011.11)



学校での調べものから,専門的な本までを網羅
『韓国と出会う本――暮らし,社会,歴史を知るブックガイド』

No.609『韓国と出会う本――暮らし,社会,歴史を知るブックガイド』
石坂 浩一
好評発売中

 この本は2003年刊行ですが,韓国について知る基本書目がしっかり押さえられているので,いまも「使える」一冊です.『ネギを植えた人』などの児童書,出始めのころの『K-POPバイブル』などの音楽関連書,映画,食文化から事典,経済,環境問題,歴史まで,著者・石坂さん(現在,立教大学異文化コミュニケーション学部准教授)ならではの目配りの広さで網羅しています.
 ひとつの項目につき見開きひとつを使ったすっきりした構成になっています.
 どうぞお手許に.

(2011.10)



この苦難を本当の教訓とするために
『阪神・淡路大震災の教訓』

No.420『阪神・淡路大震災の教訓』
石橋 克彦
好評発売中

阪神・淡路大震災(M7.2)から2年後に本書が刊行された当時,世間では「阪神・淡路大震災で無事だった構造物は大丈夫」などと言われ出していました.本書は地震のメカニズムから易しく丁寧に説き起こしながら,そんな楽観ムードに警鐘を鳴らし,免震ビルや超高層マンション,原子力施設の耐震性に疑問を投げかけています.東日本大震災が著者の言う「原発震災」となってしまった今,この苦難を本当の教訓とするためにも,是非手にとって頂きたい一冊です.

(2011.9)



原発で働くこと……
『知られざる原発被曝労働――ある青年の死を追って』

No.390『知られざる原発被曝労働 ――ある青年の死を追って
藤田 祐幸
好評発売中

 3.11以後,福島の原発については,日々報道されています.その現場で,きびしい状況のなかで働いている人が,たくさんいらっしゃることも,報道されています.そして被曝もされていることも,またしばしば報道されています.
 この本は,1996年に刊行されたものですが,ぜひ読みたいという声が寄せられ,今回,復刊いたしました.
 副題にもあるように,ここには,原発労働者として働いていた青年が亡くなったことについての,労災認定をめぐっての軌跡が書かれています.同時に,ほとんど知られていなかった原発労働の実態も描かれています.
 長いときを経て,いま,この本が必要とされる時代がきたことを,複雑な思いで受け止めながらも,多くの方に読んでいただければと思います.
 なお,この本は,電子書籍にもなります.各電子書店サイトからお買い求めいただくことができます.

(2011.8)



ヒロシマとフクシマ
No.7『はだしのゲンはピカドンを忘れない』 No.735『はだしのゲンはヒロシマを忘れない』

 震災と原発危機以後,フクシマという地は世界中に知れ渡りました.そして,フクシマ,あるいはチェルノブイリ,スリーマイルという名とともに,原子力の,放射能の危険性が語られています.
 しかし,日本は被爆国です.繰り返してはならない過ちを,すでに経験していたはずです.ヒロシマが伝えてきたのは,ほかならぬ原子力の恐ろしさであり,核エネルギーを「安全に」「平和に」制御できるなどと考える人間の傲慢さへの警鐘ではなかったでしょうか.
 この2冊のブックレットには,「はだしのゲン」の作者・中沢啓治さんの思いが詰まっています.被爆体験を語った前者,被爆後の差別や苦しみを語った後者,どちらも今後読み継がれていくべき作品です.

(2011.7)



語り伝えられる,津波防災のための知恵
『津波防災を考える――「稲むらの火」が語るもの』

No.656『津波防災を考える ――「稲むらの火」が語るもの
伊藤 和明
好評発売中

 本書のサブタイトルにある「稲むらの火」とは,戦前の国語教科書に載っていたお話のことです(近年,久しぶりに小学校の教科書に復活したともききます).
  安政南海地震(1854年)のおり,現在の和歌山県のある地域で,地震のあとの津波の襲来に気づいた一人の男性(実在の人物がモデルです)が稲の束に火をつけて村人に危険をいち早く伝えたという物語で,いまも内容が古びていません.2007年には和歌山県有田郡に「稲むらの火の館」が開館しています.
 本書ではこの話の紹介にとどまらず,津波についての基本的な知識や,津波発生時の行動指針が丁寧に記されています.ぜひ手にとっていただきたい一冊です.

(2011.6)



将来にわたっての使用を検証するために
『原発と日本の未来――原子力は温暖化対策の切り札か』

No.802『原発と日本の未来 ――原子力は温暖化対策の切り札か
吉岡 斉
好評発売中

 本年2月の本書刊行の際には,現在のような状況をすぐにも迎えるとは思いもしませんでした.
 現在も予断を許さない状況が続き,地元の皆様のご心労,ご苦労はいかばかりでしょうか.
 また,福島の現場で作業を続ける方々の放射線被曝量を思うにつけ,とにかく一刻も早い事態の収拾を願わずにはいられません.
 本書は,現在の原子力発電をめぐって,いまの日本の状況,世界の状況を概観したうえで,基本的に次の二点に絞って原子力発電を考察したものです.

  1. 初期投資から最終処分や廃炉までを考えた場合,経済的とはとても言えない,大きな負担となる発電であること.
    まして,事故が起こった場合の悪影響は想像もできないものであること.
  2. 温暖化ガス抑制の切り札と考えられているが,その言説がどう使われているか,きちんと検証する必要があること.

 将来にわたっての原発の使用を検証する際に,ぜひ,ご一読いただきたいと考えています.

(2011.5)



これは「過去のこと」で済ませられるのか
『検証 東電原発トラブル隠し』

No.582『検証 東電原発トラブル隠し』
原子力資料情報室
好評発売中

 近年「クリーンなエネルギー」として,原子力発電のイメージが語られることが多いように思います.しかしとりわけ日本において,原子力政策はつねに批判の対象にさらされてきたといえます.
本書で扱うのは,2002年に明らかになった東京電力の長年にわたったトラブル隠しです.著者は,かの高木仁三郎さんを中心に設立された原子力資料情報室です.
本書の「more info」でこの事件について詳しくご紹介していますので,そちらもどうぞご覧下さい.

(2011.2)



いやになるような現実,やりきれない日常を生きるあなたへ
『キャラ化する/される子どもたち』

No.759『キャラ化する/される子どもたち』
土井 隆義
好評発売中

 2008年6月に起こった秋葉原無差別殺傷事件の犯人に,3月24日,死刑判決が下されました.この事件は,若者たちが抱えた閉塞感に関心が高まるきっかけとなりました.私たちも,その正体が知りたいがために,『アキハバラ発 〈00年代〉への問い』という本を作ったりもしました.
 土井隆義さんは,このブックレットの中でアキハバラ事件に触れ,「世界から消去された感覚」が事件の引き金になったのではないかと述べています.
 学校,職場,インターネット……人間関係の網の目を円滑に泳いでいくことが求められる今の世の中,コミュニケーション能力の有無によって人間関係の格差が生まれてしまう.それぞれの人間関係が孤立したまま存在し,どこにも含まれない人は「消去」されてしまう…….
 〈生きづらさ〉をこれでもかとえぐり出す本書ですが,若い読者からは「救われた」「楽になった」という感想をよく聞きます.この本が,私たちが日々抱え込む疑問や不安を,読みやすい文章で,丁寧に,解きほぐしてくれるからでしょう.

(2011.4)



戦争が断った命――遺骨はいまも問いかける
『遺骨の戦後』

No.707『遺骨の戦後』
内海 愛子,上杉 聰,福留 範昭
好評発売中

 昨年(2010年)来,フィリピンでの戦没者遺骨収集事業で,日本人でない人骨が混入されていることが報道されています.そのニュースを聞いて,このブックレットを思い出しました.
 アジア・太平洋戦争で死亡した日本人310万人のうち海外で死亡したのは240万人,このうち約半数もの遺骨が収集されていないといいます(本書より).
 このブックレットは戦時の朝鮮人強制動員とその遺骨返還の問題に焦点を当てたものですが,「日本人の遺骨も放置されている」という章と併せ読むことで,戦争の問題が終わってないことをまざまざと実感させられます.
 読み応えのある一冊です.

(2011.3)



ありうべき災害復興の基本施策
『いま考えたい 災害からの暮らし再生』

No.776『いま考えたい 災害からの暮らし再生』
山中 茂樹
好評発売中

 私事になりますが,16年前の阪神・淡路大震災では多くの友人・知人が被災しました.いまのように携帯電話もメールもない頃のこと,安否もわからず「ただ無事で」と祈るように過ごした,震えるような時間を今でも思い出します.
 震災後,神戸は災害復興の「先進地」として,災害に見舞われた地域に目をむけ,支援の手をさし伸べ,被災地間の交流を育んできました.ひとえに「二度とあんな思いをする人をつくりたくない」からです.復興にあたり,何を重視するかに国や行政の基本姿勢が問われます.災害のない,あたりまえの日常においていのちや暮らしを大事にする社会でなければ,災害のときにそれらを大事にするはずもありません.何よりも人のいのちと暮らしを大事にする復興のあり方とは.
 ありうべき災害復興の基本施策を提言します.

(2011.1)



幼保一体化,新システムを考えるこの2冊を
『保育園と幼稚園がいっしょになるとき』 『保育園「改革」のゆくえ』

 いま,都市部では保育園に入れない待機児童が増えています.しかし,その一方で幼稚園や地方の保育園では園児の減少が深刻な問題になっています.では,保育園と幼稚園を一体化すれば問題が解決するのでしょうか? また,待機児童をなくすには,今の保育制度を変えなければならないのでしょうか?
 『保育園と幼稚園がいっしょになるとき』では,幼保一体化の動きをめぐって,保育園・幼稚園の歩み,認定こども園のあり方について説明しています.全国には,保育園しかない地域もあれば,幼稚園が多い地域もあります.保育園と幼稚園はもともと異なる目的をもって運営されてきました.地域性の違いもふくめて,そのあり方は様々です.でも,子どもの成長・発達を保障し,保育の内容を充実させるという必要性は共通しています.園児数が減少する中で,上からの幼保一体化という財政効率を優先した進め方ではなく,子どもの最善の利益をめざして,地域から保育園・幼稚園の方向性を考えていくべきではないか――そのような思いから執筆しました.
 『保育園「改革」のゆくえ』では,幼保一体化と併行して検討されてきた保育園改革について説明しています.待機児童問題の基本的な解決方法は,国・自治体が責任をもって保育園を増設することです.ところが,待機児童解消のためとして,「新たな保育の仕組み」という新システムに転換する準備がおこなわれています.保育という営みは,子どもを真ん中にした,おとな同士の信頼関係を基本とするものですが,新システムによって,その保育が産業化しようとしています.
 これらの幼保一体化,新システム構想は,2011年に国会上程,2013年にスタートというスケジュールが予定されていますが,保護者や保育関係者の間ですら,ほとんど議論がなされていません.今こそ立ち止まって,保育園と幼稚園のこれからのあり方を考える必要があります.

【近藤 幹生】
(2010.12)



「自分は、まだ大丈夫」と思っていても……
『高齢ドライバー』

No.716『高齢ドライバー ――加害者にならない・しないために
毎日新聞生活報道センター
好評発売中

 今年8月、従来の「(通称)もみじマーク」(正式名称は「高齢運転者標識」)に代わる新しいマークが決まったのをご存知でしょうか。四つ葉のクローバーをモチーフにしたデザインで、今年度中に導入される見通しです。
 高齢運転者標識をめぐっては、2008年6月にいったん表示が義務化(75歳以上)されたものの、翌年4月には表示が努力義務に戻されるなど、紆余曲折があり、それほど普及しているとはいえません。長年、無事故・無違反で運転してきたドライバーが、このマークを「格好悪い」と敬遠する気持ちも理解できます。
 しかし、どんな人でも加齢とともに身体機能が低下するのは避けがたい事実です。なかには、明らかに運転をやめたほうがいい人が、さまざまな理由でハンドルを握り続けているケースもあります。
 このブックレットを読んで、高齢ドライバーご本人やご家族が、クルマの運転を続けることについて改めて考えるきっかけにしていただければ幸いです。

(2010.11)



科学者の視点で語る、子どもを伸ばす教育論
『教育を子どもたちのために』

No.764『教育を子どもたちのために』
益川 敏英,小森 陽一,木附 千晶,藤田 英典,本田 由紀
好評発売中

 今年もノーベル賞の受賞者が発表され,鈴木章さんと根岸英一さんが化学賞を受賞されました.日本人科学者が受賞するたびに口にされるのが,日本の理科教育に対する憂慮です.
 2008年,物理学賞受賞を「たいして嬉しくない」とコメントするなどユニークな言動で話題になった,益川敏英さん.本書は,その益川さんが教育論を語ります.
 エジソンの失敗,ファーブルとパスツールの逸話,血液型から背後霊まで,ユーモアと含蓄に富んだ益川節が炸裂! 「たいして嬉しくない」発言の真意や,「ノーベル賞をとる子に育てるにはどうすればよいですか」という質問への益川さんの答えを,ぜひ本書でお読みください.

(2010.10)



「平和をつくりだす人たちは,さいわいである」
(本書より)

No.71ネパールの「赤ひげ」は語る』
岩村 昇
好評発売中

 「ネパールの赤ひげ」と呼ばれ,現地で20年近く医療ほか生活支援に尽くされた岩村昇さんは,2005年11月にお亡くなりになりました.
 このブックレットは,岩村さんのインタビューをもとに構成されたもの.好評につき,おととし(2008年)に他の書目とともに,復刊いたしました.
 山越えをして初めて現地にたどり着いたときのこと,養子の子どもとの会話,失敗談,反省,日本に帰国してからの活動など,中身の詰まった一冊です.
 アジアのノーベル賞といわれるマグサイサイ賞も受賞(93年)なさった岩村さん.同賞を受賞した緒方貞子さんや中村哲さんに通じる,「脱帽する日本人」の生き方ではないでしょうか.

(2010.10)



雇用におけるすべての場面で使える1冊

No.694こう変わる! 男女雇用機会均等法Q&A』
日本弁護士連合会 編
好評発売中

 「育児で残業ができないなら正社員をやめてパートになってくれないか」
 「子どもを産むつもりだったら採用はできません」
 残念なことに,こういった言葉は今も日本中で聞かれます.派遣や有期雇用など非正規雇用の雇い止め,不況による失業の増大が問題となっている今だからこそ,むしろ問題は深刻かもしれません.
 しかし,労働者は様々な法律で守られています.採用段階から職場を去るまで,すべての段階での男女差別を禁止した男女雇用機会均等法も,その一つなのです.
 このブックレットでは,働き方にまつわるトラブルへの対処法をQ&A方式で解説しています.
 また,2007年に施行された改訂では,「男性への差別」も禁止する規定が盛り込まれました.その内容も詳しく説明してありますので,女性だけでなく,男性もぜひ活用してください.

(2010.9)



地元新聞社記者が描く,厳しい沖縄の現実

No.723『もっと知りたい! 本当の沖縄』
前泊 博盛
好評発売中

 この本は写真や資料も充実した「沖縄ガイド」ではありますが,「陽光ふりそそぐ癒しの島」案内ではありません.
 たとえば沖縄の失業率,本土との所得格差,内閣府の沖縄関係予算額,日本全体の米軍基地に占める沖縄県の米軍基地の割合,沖縄における年間基地関連収入,沖縄県で発生する年間米軍犯罪件数…といったハードな指標から,厳しい沖縄の現実を紹介していくのです.発売時より好評をいただいており,現在4刷目です.
 基地問題で揺れる沖縄という報道が続いたこともあってか,先頃は高校の先生から授業で使いたいとのご注文を受けました.
 2010年9月刊行の『日米安保Q&A』ともども,必読書としてお薦めしたい一冊です.

(2010.8)



民主党は何をめざしているのか.
コンパクトにまとめました.

No.774『民主党は日本の教育をどう変える』
大内 裕和
好評発売中

首相が代わった直後は,民主党支持率が「V字回復」したと言われました.けれども,支持率は一進一退のようです.
このブックレットは,「子ども手当」「高校教育の実質無償化」「6年間の教員養成制度」など,2009年の衆議院議員総選挙時に民主党が掲げたマニフェストを網羅的に検証したものです.
「子ども手当」は全額支給をやめるなど,現実に修正を余儀なくされている政策もありますが,議論はまだこれからの政策が並んでいます.
各政党の各地支部さんから,このブックレットのご注文をまとめていただくことも多いです.民主党の政策を学ぶには便利な一冊ではないかと思います.この機会にぜひ,お手にとってみてください.

(2010.7)



歴史を伝達するとはどういうことだろうか

No.710『ホロコーストを次世代に伝える ――アウシュヴィッツ・ミュージアムのガイドとして――
中谷 剛
好評発売中

 著者の中谷剛さんは,ポーランド国立アウシュヴィッツ・ミュージアム唯一の公認日本語ガイドとして10年以上にわたって活躍されてきた方です.
 「ユダヤ民でもポーランド人でもドイツ人でもない,しかも戦後生まれの日本人がどのようにしてアウシュヴィッツの歴史を伝えればよいのか」――このブックレットは,ミュージアムの展示内容やホロコーストの歴史をわかりやすく説明するだけではなく,ガイド活動を通じて日々歴史に向き合うことの意味を問い続けてきた中谷さんによる思索の書でもあります.
 普天間基地移設問題を持ち出すまでもなく,歴史的経緯を無視して現在を理解することはできないはずです.アジア・太平洋戦争で数多くの人々が殺され,さらに戦後長らくアメリカの占領下におかれ続けた沖縄が,なぜいまも日本の米軍基地のほとんどを引き受け続けなければならないのか――当たり前の疑問が「国益」や「現実論」に名を借りた近視眼的議論にかき消されてしまう今だからこそ,ぜひ手に取っていただきたい一冊です.

(2010.6)



心にひびく言葉

No.689『生きる力 ――神経難病ALS患者たちからのメッセージ
「生きる力」編集委員会 編
好評発売中

 このブックレットは,ALSの患者さんたちが原稿を書き,自分たちで本にまとめたものです.
 原稿は,本人が文字盤の文字に目くばせして文字を示して,それを家族が見て書いたもの,光センサースイッチをわずかに動く指で動かし,パソコンを使い書いたもの……さまざまです.
 原稿を書くプロセス,そのものが,「生きる力」ではないかと,この本を読むと思います.
 日々の描写から,ALSと診断されたときの衝撃,人工呼吸器をつけるまでの苦悩,希望を見いだしていく過程などが,心にひびく言葉で綴られています.

「昨日できたことが,今日できなくなる悲しみ.今日できることが明日できなくなる恐怖.そして主要な機能の喪失は,病む体を心をくじけさせるのに十分です.けれどもこの本に登場するみなさんは,なんと違うことでしょう.そのわかれ道はどこにあるのでしょうか.」

 この本の「はじめに」に,このように書かれています.

(2010.5)



国を愛する,とは

No.708『愛国心を考える
テッサ・モーリス=スズキ
好評発売中

 このブックレット『愛国心を考える』が刊行されたのは2007年のことです.
 2005年に『国家の品格』(藤原正彦),2006年には『美しい国へ』(安倍晋三),『愛国の作法』(姜尚中),『愛国者は信用できるか』(鈴木邦男)がベストセラーとなっていました.2001年の9・11同時多発テロ以降,対アフガニスタン攻撃,対イラク戦争という大きな世界の出来事があり,日本周辺に限っても,小泉首相の平壌訪問によって拉致事件が明らかになりました.また,教育現場においても,教育基本法の改正をめぐって「愛国心」は大きなテーマとなっていました.
 よく「いい愛国心」「悪い愛国心」という言い方をします.「偏狭なナショナリズム」というのも同じことでしょう.「君は国のために何ができるか?」あるいは時代が違えば「君は国のために死ねるか?」という問いも付随したものとして想起してしまいます.
 しかし,とテッサさんは言います.愛国心において,もっとも重要な問いかけとは次の問いではないのか?と.

「愛国者を自認する人々は,自国と他国の両方にとっての恒久的な平和を築くために,貢献しようとするだろうか?」

 日本の歴史のなかで,「愛国」という言葉が「攘夷」の代語として使用された歴史をふりかえり,そして「よりよい国」をめざして行動した四人のエピソードを紹介しつつ,「自分の国を愛する」とは,そこをよりよい場所にしようと努力することであり,何よりもその内実は自分自身が選択するものだ,と説きます.
 じっくり読んでいただきたい一冊です.

(2010.4)



「反貧困への提言」の再検討を!

No.746『労働,社会保障政策の転換を ――反貧困への提言
遠藤 公嗣,河添 誠,木下 武男,後藤 道夫,小谷野 毅,今野 晴貴,田端 博邦,布川 日佐史,本田 由紀
好評発売中

 労働市場の整備,派遣法の改正,若年雇用促進法の提起,賃金改革,社会保障の充実,住宅保障の提案など,大きな政策転換を説いた本書の内容は,政権交代の後も薄らいではいません.政権が変わっても,政策パッケージが変わらない限り状況は改善されないのですから,むしろ重要性は増しているのかもしれません.
 「いま新しい政策が必要とされている.(略)状況を変えなければならない.若者が人間らしく生きられる社会をつくっていくために,活発な議論を期待したい」
 本書に収録された「共同提言 若者が生きられる社会のために」はこのように締めくくられています.デフレによる失業リスクの高まりが懸念される今こそ,本書の提言を再検討してみてください.

(2010.3)



意外と知らない,子どもたちの〈本音〉

No.755『子どもの声に耳をすませば ――電話でつくる〈心の居場所〉
チャイルドライン支援センター 編
好評発売中

 チャイルドラインという活動をご存知でしょうか.チャイルドラインは,18歳までの子どもが誰でも,どこからでも,無料でかけられる子ども専用電話です.子どもたちは,どんな内容でも電話をかけてくることができます.相談や悩みごと,あるいは,うれしいこと,楽しいことなど,何でも電話で話すことができます.聞き手のボランティアたちは,子どもたちの心に寄り添い,子どもたちの話にひたすら耳を傾けます.日本でチャイルドラインが開始されて昨年(2009年)で10周年を迎えました.
 本書では,チャイルドラインにかかってきた子どもたちの数々の「生の声」を紹介し,現在の子どもたちはどのような状況に置かれているのか,どのような問題に直面しているのか,などを考えます.友だちにも親にも教師にも言えない本音でも,ひたすら寄り添ってくれる,顔も知らない他人だからこそ言えることがあるようです.自分の身近にいる子どもの本音を知っている大人は,意外と少ないのかもしれません.おかげさまで,本書も昨年5月の刊行以来,多くの方に読んでいただき,好評を得ています.
 「最近の若者は…」とは,いつの時代にも言われることですが,まずは子どもたちの本音,実態を知ることが重要だと思います.本書を通して,子どもたちの本音に耳を傾けてみてはいかがでしょうか.

(2010.2)



希望ある未来を構想するために

No.763『希望と絆 ――いま,日本を問う
姜 尚中
好評発売中

 2009年もまもなく終わろうとしていますが,今年,一番多く読者の皆さまに手にとっていただいた岩波ブックレットは,姜尚中さんの『希望と絆』でした.
 姜さんは本書のなかで,年間で過去最悪の自殺者数に達する可能性を危惧されていましたが,残念ながら本書の刊行(7月)後も自殺者数は昨年を上回りながら推移しています.多くの人が生きづらさを感じ,追い詰められているのは,絆が傷み,社会が傷んでいることにほかならないと,姜さんは指摘します.
 本書にはその他にも,地域が抱える過去と現在の角逐,北朝鮮との関係など,私たちが向き合わねばならない課題が示されています.そして,人間として「正当性」を問い続けることの大切さが,穏やかな中にも熱く語られています.
 希望ある未来を構想するために――新しい年を迎えるにあたり,あらためてお薦めしたい一冊です.

(2009.12)



活用のための1歩に

No.743介護保険で利用できる 福祉用具』
東畠 弘子
好評発売中

 街を歩いていると車いすで移動している人,歩行器を使っている人に数多く出会うようになりました.
 このブックレットで紹介されているさまざまな福祉用具は,移動や入浴,寝ること,トイレにいくこと,など,日常生活にもっとも必要なことに何かの困難が生じたとき,その生活をサポートするために使われます.
 その用具の多くはレンタルになりますので(状況が変わったときに用具も変更できるようにレンタルが多く利用されています),実際にどのようにレンタルできるのか,この本には書いてあります.
 また,介護保険では,介護度が認定され,ケアプランを作成したとき,福祉用具を使うことがあります.そのことについても,くわしく解説されています.
 毎日をより快適にすごすために,福祉用具を活用する――そのための1歩となる1冊です.

(2009.11)



反骨精神の原点

No.521『企業と人間 ――労働組合,そしてアフリカへ
佐高 信,小倉 寛太郎
好評発売中

 山崎豊子さんの小説「沈まぬ太陽」が映画化されます(10月24日公開).本書は,「沈まぬ太陽」の主人公,恩地元のモデルとなった小倉寛太郎さん(元日本航空,自然写真家としても活躍された)と佐高信さん(評論家)との対談です.
 この本を企画したのは,2000年の6月,御茶ノ水で行われた小倉さんの講演を聞きに行ったのがきっかけでした.当時ベストセラーとなっていた,あの小説の「話題の人」が講演されるということで,会場は超満員.集まった多くの人たちは,「小倉さんとはどういう人なのか?」「どこまでが小説で,どこからが実際にあった話なのか?」という関心から集まったのではないかと思われますが,そのときの小倉さんは意外にもご自身の少年時代の戦争体験のことしかお話しされませんでした.当時の森首相の「神の国」発言を批判されていたことを憶えています.
 「さらに,もっといろいろとお話しをうかがいたい」という思いから本書を企画し,対談が実現しました.この本の中でも,対談の最後に「これだけは言いたい」という形で戦争体験を熱く語られ,小倉さんの不屈の反骨精神の原点がここにあったことが強調されています.映画をご覧になる前に,また労働組合のあり方や日本航空の再建が大きな政治課題となっている現在,改めてお読みいただきたいと思っています.

(2009.10)



大きな節目を迎えた今こそ

No.687私が見た 憲法・国会はこうやって作られた』
島 静一
好評発売中

 日本の政治の,大きな節目が訪れました.小選挙区制に移行し,この制度が果たして民意を正確に反映できるのか,多くの「死票」をどう考えるのか,など多くの課題は抱えたまま,本格的な2大政党時代の到来です.93年の日本新党のブームによる細川政権の誕生以来,ひさびさの,そして単独過半数を得たはじめての非自民党政権の誕生です.
  戦後,甚大なる被害をアジアや太平洋沿岸諸国に与え,自らも傷ついた日本は,連合国による占領のなかで,少しずつ,国の建て直しと生まれ変わりを図っていきました.女性の選挙権を初めて認めた普通選挙が行われ,対戦国など周囲の諸国にも受け入れてもらえる国になったこと/なることを宣言する新しい憲法のあり方を考え,民意を反映できる国会のあり方を考え,そしていまのかたちが生まれました.
 なぜ,いまのような制度になったのか.いまの憲法や国会の制度はどのようにして生まれたのか.大きな節目を迎えた今,初心にもどること,成り立ちを知ることは今後を考えていくうえで大きな糧となることでしょう.『私が見た 憲法・国会はこうやって作られた』は,実際に国会のなかで,GHQとの交渉に携わった島さんが,その現場の様子を再現してくださった一書です.歴史の生き証人が語る戦後の混乱.必死の努力での国の建て直し…….ぜひ,ご一読ください.

(2009.9)



三十一文字の中に映し出された戦争

No.197『戦争と短歌
近藤 芳美
好評発売中

 2006年に亡くなられた近藤芳美さんは戦後歌壇の旗手として知られた歌人ですが,その作歌活動の根底には中国戦線での過酷な戦争体験がありました.
  アジア・太平洋戦争は,普通に暮らしていた多くの人々が突然の徴集をうけ戦地に送り込まれた戦争でした.戦友の死,処刑される捕虜,慰安婦とされた女性たちの姿――著者が深い共感をもって紹介する,無名,有名の歌人たちが詠んだ短歌には,戦場の非人間性があますところなく映し出されています.しかし,それらの歌からはそれでも人間性を失うまいとつとめる人々の意志もよみとることができます.
  直接の戦争体験者が少なくなっていく中,このブックレットが戦争を考えるきっかけになればと願っています.

(2009.8)



裁判員制度が始まって……

No.727知る,考える 裁判員制度』
竹田 昌弘
好評発売中

「市民が司法制度に参加する画期的な制度」と言われていましたが,最近では,制度への不安や問題視する意見が,頻繁に報道されています.
 とくに,有罪,無罪だけでなく,死刑も含めた量刑を決めなければならないこと,どのような犯罪がおこなわれたのかを写真などともに詳しく知らなければならないこと,仕事などを休まなければならないこと,など,が言われています.
 実際に制度が始まってから,新たに生じる問題もあるかもしれません.
 『知る,考える 裁判員制度』では,実際どのようなことがおこなわれる予定なのか,だけでなく,制度の問題点,歴史的な背景,そして事件や犯罪についての報道がこれからどのように変わっていくのか,などを,くわしく解説しています.

(2009.6)



労働人口の3割超……非正規労働が支える日本の労働現場

No.699『非正規労働の向かう先』
鴨 桃代
好評発売中

2008年の年末年始,派遣村が話題をさらいました.しかし,これは一過性の現象ではありません.社会の構造が作り出してきたある一つの帰結です.現在,総労働人口のうち,実に非正規労働者は3割を大きく超え,女性だけでは5割を超える数字です.
 2009年3月末.派遣社員の問題は再び大きな山場を迎えました.「有期」という雇用がどのような労働実態にさらされているのか,どうすればこの状況を打開できるのか,今一度,考えてみませんか.

(2009.4)



遠い土地の遠い出来事ではありません

No.713『パレスチナはどうなるのか』
土井 敏邦 編
好評発売中

 年末年始,ブッシュ政権の最終盤を狙ったかのように行われたイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への「報復」.「ロケット弾がイスラエルに着弾する可能性が消えないかぎり,我々は自衛のために攻撃せざるをえない」というイスラエル外相の言葉が繰り返し報道されました.自衛のために,バンカーバスターが,白リン弾が,戦車が,150万人の住む町を攻め続けたのです.
 ユダヤとアラブによる2000年の抗争などと大袈裟な物言いがなされますが,現在の中東問題はそんな大層なものではなく,1948年のイスラエル建国によって大量のパレスチナ難民が生まれたことに端を発する問題です.さらに言えば,今回のガザ攻撃は,2006年にパレスチナで行われた民主選挙において,ハマスが多数議席を獲得し,ガザの政権を獲得したことに直接由来しています.以来,ガザのハマス政権とヨルダン川西岸地区のアッバス政権による分断も生じ,パレスチナは混乱を極めています.ハマス政権を認めない外国政府,ハマスにしか頼れないガザ市民.そして,経済封鎖の続くなかでの今回の攻撃.攻撃中のみならず,その後も人道的危機が続いています.何よりも国際社会の目と援助が必要です.
  このブックレットは,2007年夏に激化したハマスとファタハの抗争を軸に,パレスチナが今後,どのような道をとることができるのかをテーマに話し合われたシンポジウムをまとめたものです.その当時の状況だけではなく,そこまでにいたる経緯や,いまのパレスチナが置かれている状況もわかりやすく解説していただきました.遠い土地の遠い出来事ではありません.同じ人間が置かれている状況として,関心をもっていただきたいと願っています.

(2009.3)



早く始めるほど効果が高いのか?

No.562『小学校でなぜ英語? ――学校英語教育を考える
大津 由紀雄,鳥飼 玖美子
好評発売中

小学校で英語を教えることにまつわる「早く始めるほどよい」という考えや,目標とされている「コミュニケーション能力」の目指すべき内容について,多角的に検証した本です.著者の大津さんは言語の認知科学の専門家,鳥飼さんは同時通訳者としても著名な英語教授法の専門家.2002年の刊行以来,今でもこの問題を考える際の基本書目として変わらず好評をいただいています(現在8刷).小学校英語には一般の親御さんの支持が高いそうですが,少し問題を整理して考えたいときに最適の一冊です.

(2009.2)



知の大海への入門書

No.586『学ぶこと 思うこと』
加藤 周一
好評発売中

 2008年12月5日に,加藤周一さんが逝去されました.戦後日本を代表する知識人であり,作家・評論家として活躍,また,近年は「九条の会」の呼びかけ人としても,活発に発言しておられました.岩波ブックレットの九条の会三部作(『憲法九条,いまこそ旬』 『憲法九条,未来をひらく』 『憲法九条,あしたを変える』)にも,加藤さんのご発言が収録されています.
 そんな加藤さんが,「学ぶこと」と「思うこと」をテーマに,加藤さんいわく「孫ほど年齢の離れた」大学生を前にして行った講義をまとめたものが本書です.日中戦争・日米開戦となし崩しに突き進んでいった戦前・戦中の日本の様子をふりかえりながら,2002年のこの当時,話題となっていた武力攻撃事態法案などを例にとって,いかに戦前の様子と似ているか,などをわかりやすく語りかけています.
 講演のタイトルでもあった,本書のタイトルは,お気づきになった方も多いと思いますが,『論語』「為政篇」の「学而不思則罔,思而不学則殆(学びて思わざればすなわち罔(くら)し,思いて学ばざればすなわち殆(あやう)し)」から採ったもの.「知識を学んでも,自ら考えなければ本当の知識にはならない,そして,自分で考えてばかりで他者から学ぶ姿勢がなければ,その人の,その集団の行動は危ういものになる」という意味だそうですが,ここにこそ,加藤さんのメッセージは集約されていると思います.問題意識を持つことがいかに重要なことか,少数意見を担保することがいかに重要か,などさまざまな示唆に富むこのブックレット,「知の巨人」とも言われた加藤さんの作品に触れる入門の書としても,ご活用ください.

(2009.1)



今考えるべき論点を凝縮した3部作
データブック3部作

 『データブック 貧困』『データブック 人口』『データブック 食料』は3部作になっています.なぜかというと,貧困,人口,食料をめぐる世界的な問題は,相互に密接な関係にあるからです.
 例えば,途上国における人口増加と先進国における少子高齢化が世界的な資源配分のバランスを歪みをもたらしており(『データブック 人口』第4章),その歪みが,同じ南の世界に,一方では多くの人々に飢えをもたらし(『データブック 食料』第3章),他方では一部の莫大な資産家を生み出している(『データブック 貧困』第1章),というように.
  また,貧困化が女性や移民・難民といった権利剥奪層をより不利な立場に追い込むこと(『データブック 人口』第5章),しかも女性や非正規労働者などのことを考えると日本も無関係ではないということも分かります(『データブック 貧困』第7章).そのような貧困層・権利剥奪層は地域に下支えされてこそ生活が可能なのですが,農業においては,世界的なアグリビジネスによる寡占化が進んでおり地域経済は苦境に立たされています(『データブック 食料』第4章).
 世界はグローバリゼーションのもとで絡み合っています.この3部作は,その複雑模様を解きほぐすための道具として役立つはずです.

(2008.12)



1人ひとりの小さな志から

No.685カラー版 子どもたちの命 ――チェルノブイリからイラクへ
鎌田 實,佐藤 真紀
好評発売中

 イラクについて,日本で報道されるのは,テロに関してが,ほとんど.そこで暮らしている人たち,とくに子どもたちについて報道されることは,ますます少なくなってきている.
 この本の著者である鎌田實医師と佐藤真紀さんは,イラクの国内で,そして隣国ヨルダンで白血病に苦しむ子どもたちの医療支援をおこなっている.白血病は湾岸戦争以降に使われた劣化ウラン弾の影響ともいわれる.そのうえ長引く戦禍により,子どもたちは必要な医療が受けられなくなり,命を落としている.
 このブックレットを刊行した直後,この本で闘病中の姿をみせていた1人の少女が亡くなったことがわかった.その少女が描いた絵には,未来への想いが描かれていた.
 この本には子どもたちが描いた絵が多数載っている.
 そして未来に向けて,懸命に生きている子どもたち.
  絶望が支配しがちな現実のなかで,子どもたちの命を考えること,それこそが,未来につながるのでは.そして,それは,日本で暮らす1人ひとりの小さな志からはじまることを,感じることができる1冊です.

(2008.10)



背筋のシャンと伸びたお二人の対談

No.47『しっかり母さんとぐうたら息子の人生論』
沢村 貞子,植木 等
好評発売中

 それぞれに,昭和を代表する演劇人であり,スターであった沢村貞子さんと植木等さんの対談です.
 「昭和は遠く」なったのでしょうか,最近,昭和レトロな映画や小説をよく目にします.「古きよき時代」あるいは「日本らしかったころ」という言い方もされるようです.ともすれば郷愁をともなった思い出話が多いのですが,さすがに一時代を築かれたお二人,ピリリと山椒の効いた,まさに酸いも甘いもかみわけた……という言葉がピッタリの,今昔の話が縦横無尽に展開します.戦争中,出征する兵士に,「戦争ってのは集団殺人だ.君はその片棒担ぎに行くんだから,相手を殺しちゃいかん」と言い,投獄されたという植木さんのお父さんの話,「たとえば,相手が宇宙人でも,転びそうになったら手を貸してやる,それくらいのことはできないもんかしらね」という沢村さん.背筋のシャンと伸びたお二人の対談は小気味よく,そして含蓄にとみ,何より人への思いやりにあふれています.
  刊行されたのは,もう20年以上も前なのですが,亡くなられたお二人がまるで,いまそこで話しておられるようにも思います.

(2008.8)



名作マンガのお供に――手塚治虫からのメッセージ

No.63『未来人へのメッセージ』
手塚 治虫
好評発売中

 いのちの大切さを描いた『ブラックジャック』,哲学的な『火の鳥』,戦争の残酷さを主題とした『アドルフに告ぐ』,ほかにも『ジャングル大帝』『リボンの騎士』『三つ目がとおる』など,挙げればキリがないほどたくさんの名作を生んだ手塚治虫.
 多くの人に読まれ続けているだけでなく,例えば漫画家・浦沢直樹が『鉄腕アトム』をリメイクした作品を連載したり,『MW(ムウ)』の実写映画化が発表されたりと,今も話題には事欠きません.
  しかも2008年は生誕80周年,09年は没後20周年ということもあり,改めて手塚治虫に注目が集まっています.また,上記のような有名作品だけでなく,初期作品や知られざる名作も含めたほぼ全作品が,書籍あるいは電子コミックで読めるようになっており,新たな読者によって手塚マンガが再発見されています.
  『未来人のメッセージ』(1986年刊)は,その手塚治虫が,子どもたちの夢,友だちや親子との関係,教育などについて,自らの体験にもとづいて語ったものです.手塚マンガに溢れる「生命の尊厳」「人間らしさ」というメッセージが,この本にも詰まっています.
 ぜひ,マンガと一緒に手にとっていただきたい作品です.

(2008.7)



読むほどに〈現在〉が見えてくる

No.12『寅さんの教育論』
山田 洋次
No.162『寅さんの人間論』
山田 洋次,田中 孝彦
No.326『寅さんの学校論』
山田 洋次,田中 孝彦
好評発売中

 『寅さんの教育論』(1982年刊)は,渥美清さんの印象的なエピソードや,寅さんシリーズが始まる頃の思い出話,さらに映画づくりの要諦など,興味深い話が堪能できる1冊.
 つづく『寅さんの人間論』(1990年刊),『寅さんの学校論』(1993年)は,田中孝彦さん(現在,都留文科大学教授)という聞き上手・話し上手を得ての対談です.家族と学校の役割や,人と人との絆について,とても示唆にとんだ話が展開されています.特に『寅さんの学校論』刊行時は,山田監督の名作『学校』が完成した頃で,夜間学校を舞台にした同作品の着想から完成までが,印象的に語られています.『学校』は全4作が作られました.
 いずれも,寅さんファン,映画ファンはもちろん,子どもをめぐる環境や,教育に関心のある人には,とても読み応えのある本になっています.古びない魅力をもつこれらの本に,ふれてみていただければと思います.

(2008.6)


戻る



Copyright 2012 Iwanami Shoten, Publishers. All rights reserved. 岩波書店
データブック食料 データブック人口 データブック貧困 No.7『はだしのゲンはピカドンを忘れない』 No.735『はだしのゲンはヒロシマを忘れない』