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■岩波文庫は1927(昭和2)年7月10日に,夏目漱石『こころ』,幸田露伴『五重塔』,樋口一葉『にごりえ・たけくらべ』,島崎藤村『藤村詩抄』,トルストイ『戦争と平和(一)』,チェーホフ『桜の園』,プラトン『ソクラテスの弁明・クリトン』など22冊,5日遅れてカント『実践理性批判』1冊を刊行してスタートしました.以来2006年12月(創刊80年)までの総刊行点数は5,400冊になります.

刊行以来現在まで,多く読まれてきた岩波文庫のベスト10は次の通りです.
(2012年12月現在)


1. ソクラテスの弁明・クリトン 1,628,000部
2. 坊っちゃん 1,390,000部
2. エミール(上) 1,390,000部
4. 論語 1,314,000部
5. こころ 1,300,000部
6. 銀の匙 1,281,000部
7. 共産党宣言 1,271,000部
8. 善の研究 1,214,000部
9. 歎異抄 1,200,000部
10. 古事記 1,199,000部

 創刊当時,岩波文庫の定価は,約100ページを黒星★1つとし,★1つについて20銭でした.たとえば『五重塔』(94ページ)の定価は星1つと表示され20銭,『こころ』(240ページ)は星2つで40銭,『戦争と平和(一)』(546ページ)は星5つで1円でした.
 当時の20銭が今日のいくらに相当するかは,およそ生活のスタイルもまるで変わっていてなかなか難しいのですが,目安として次のような数字をあげてみましょうか.

カレーライス20銭   もりそば10銭   ビール大ビン40銭
初任給 50円(小学校教員)   70円(銀行員)   大工さんの日当3円10銭

 つまり,当時の小学校の先生の初任給は岩波文庫『こころ』の125冊分,『戦争と平和(一)』は50冊しか買えません.単純に比較はできませんが,当時の岩波文庫は必ずしも安いものではなかったということではないでしょうか.ちなみに今,『こころ』は400円,『戦争と平和(一)』は660円です.

 さて,星の話を続けます.
星★ひとつ20銭の定価は創刊以来1943年いっぱいまで維持されました.
1944年から戦後の5,6年はインフレーションの進行のすさまじさを反映して岩波文庫の定価もめまぐるしくあがっています.何とか以前のような統一定価を定めることができたのが1950年で,★1つ30円.
 以下,★1つについての定価の改定を追ってみると,
1951年 40円
1962年 50円
1973年 70円
1975年 ☆星1つ100円(在庫品は★1つ70円のまま)
1979年 ☆星1つ100円と★星1つ50円の併用,つまり50円刻みになる

 1981年4月の新刊から星で定価を表示する方式をやめ金額による表示になりました.
 
■岩波文庫に現在のようなカバーがつけられたのは1983年,5月の岩波文庫フェアに選ばれた101冊が最初です。その後毎年のフェア書目にカバーをつけることにし,創刊60年にあたる1987年7月から毎月の新刊すべてにカバーをつけることになり,既刊のものについても順次カバーをつけ(なにしろ刊行点数がおおいので,これはなかなか大変だったようです),本屋さんにならんでいる岩波文庫すべてにカバーがかかっている,という状態になったのは,まだたかだか10年,ごく最近のことです。

 カバーをはずすと,表紙は1927年の創刊以来74年間変わらない,平福百穂画伯(1877−1933)装丁の唐草模様.奈良・正倉院所蔵の古鏡「鳥獣花背方鏡」の模様を模した図案です。全点にカバーをかけた今でも,岩波文庫といえばこのデザインを思い浮かべる読者の方は多いでしょう。リクエスト復刊書目のカバー(とワイド版岩波文庫のカバー)には, この装丁をそのまま使っています。

 お気づきでしょうが,岩波文庫の小口(背を除いた三方)のうち二方はカットされて滑らかですが,天だけはアンカットです(むしろこの方が製本所さんにとっては大変),フランス装風の洒落た雰囲気を出すためということなのですが,いかがでしょうか。ちなみに解説目録(在庫目録)は天もカットされています.比べてみるとやはり,と思いますが,これは好き好きでしょうね。


 
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