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広辞苑質問箱

 
Q 昔の「古稀」は今は「古希」?
 還暦,米寿などと同様に,人生のめでたい節目として70歳をいう「こき」という言葉は,「人生七十古来稀(まれ)なり」という杜甫(とほ)の詩に基づいています.したがって,もともとは「古稀」と書いていました.この「古稀」は,近年では多く「古希」と書かれます.いつ,どうしてそうなったのでしょう.
常用漢字に「稀」がない!
誰でもやさしく日本語を読み書きできるようにと,日常よく使う漢字の範囲を決めたのが常用漢字です(第二次大戦後まもなく決められ,最初は「当用漢字」といいました).その常用漢字に「稀」は入っていません.そういう場合にどうするか.方法の一つとして,同じような,または近い意味を持つ別な常用漢字に置きかえることが考え出されました.「稀」の代りとして浮んだのが「希」でした.「希」はふつう「ねがう.のぞむ」という意味に使われていますが,もともと「まれ」という意味も持っていました.しかも「稀」の旁(つくり)部分で,音も同じキということで,文句なく白羽の矢が当ったというわけです.
「古稀」と書いてはいけない?
常用漢字は,公文書・マスコミなどの表記法の目安に決められたもので,一般の人が必ず従わなければいけないものではありません.ですから,普通の人が「古希」「古稀」のどちらを書くかは自由です.
同じように工夫された漢字
「古稀」と同じように,常用漢字に選ばれなかったために表記を工夫した熟語はほかにもたくさんあります.たとえば,
  企劃→企画  広汎→広範  貫禄→貫録
  臆測→憶測  熔接→溶接
などもその例です.

 
Q 「佐々木」の「々」は,なんと読む?
 「々」は,漢字ではありません.漢字ではありませんから,それ自体に読み(音や訓)はありません.これは,同じ漢字を繰り返すときに使う「符号」です.ことばの通(半可通)は,「同の字点(どうのじてん)」,また,形を分解して見立てた「ノマ点」などと言っています.
同の字点のルーツ
「同」の異体字「仝」がもとになっていると言われています.また,中国で同じ役割で使っていた符号が変化したという説もあります.
同の字点の仲間
同の字点は同じ漢字を繰り返す時のものですが,同じかなを繰り返す時に使う「一の字点」(ゝ),「とてもとても」など2字以上を繰り返す時に使う,かなの「く」を長くしたような「くの字点」なども同じ仲間です.
仲間の総称
これらの符号は,繰り返し符号,反復符,踊り字,畳字,かさね字などいろいろに呼ばれていますが,広辞苑では「踊り字」という項目に説明があります.
同の字点以外の踊り字をあまり見ないわけ
同の字点以外の踊り字は,今では手書きの文章ぐらいでしか目にしなくなっています.これは,同の字点以外はできるだけ使わないほうが望ましい,という文章表記法の基準が1950年に文部省から出ているためです.
同の字点をパソコンで打ち込むには
いろいろなやりかたがあります.一番原始的なやり方は,「佐々木」と入れて「佐」「木」を消す方法.また,記号一覧や文字一覧にはかならずあります.変換で呼び出す場合は,パソコンによって異なるのでいろいろ試してみてください.たとえば,「おなじ」「どう(同)」「ノマ」など.

 
Q 「おわり」の正しい送り仮名は?
 「終わり」「終り」,どちらの送り方もあります.
送り仮名のルーツ
日本人は,中国の漢字を借りて日本語を書き表す方法を工夫してきました.その際に,読み誤らないように<適当に>仮名を補ってきたのが送り仮名です.従って,送り仮名に絶対の決まりはありません.
現代の基準
<送り仮名は自由>というと学校教育などで混乱するので,今日では「送り仮名の付け方」(始めは1959年,その後2回改定されています)という基準が国から出されています.これには,公用文書・マスコミなどの<よりどころ>であり,個人の表記には及ぼさない,という前書がありますが,多くの人々が個人的な文章の場合もこれを基準にしているのが実態です.
送り仮名の付け方
「送り仮名の付け方」の骨の部分を紹介しましょう.
 活用語尾から送る.(「おわる」なら,「終る」)
 ただし,派生語など関連する語との区別が必要な語はその前から送る.(「おわる」と「おえる」の区別のために,「終わる」「終える」とする)
 慣習で,送らなくてもふつう混乱しないものについては,の加えた部分を省いてもよい.(「おわる」は「終る」でもよい)
 というわけで,「送り仮名の付け方」によっても,「おわる」は「終わる」「終る」どちらでもよいことになります.
広辞苑の送り仮名
学校では,基本的に上の「送り仮名の付け方」の大原則で指導しています.これは,昔の慣習的な送り仮名より多く送る方式です.広辞苑は古語もたくさん収めています.そこで,すべての項目に機械的にこの方式を取り入れることができません.多くは,上の大原則によっていますが,広辞苑独自の基準で送り仮名をつけている場合もあります.

 
Q 同じVでも「バイオリン」と「ヴェルサイユ」?
日本語の中には,外国語を翻訳などせずに音をそのまま取り込んで日本語にしてしまったものがあります.いわゆる「外来語」です.現代では一般にカタカナで書き表しますが,もともと日本語にない外国語の音を書き表すのですから,ただ一つこれが正しいという書き方はありません.
Vの書き方
日本語にないVを書き表すには,どうしましょう.おもに,バビブベボで表す方法と,ヴァヴィヴヴェヴォで表す方法とがあります.1954年の国語審議会の報告書「外来語の表記について」では,できるだけバビブベボで表すように勧めています.バイオリン,バレーなど,この表記ですっかり定着しました.しかし,この表記法では,原語がBかVかの区別がまったくできません.そこで,ヴァ行を使う表記法も根強く残っていました.特に地名・人名などにはそれが強くありました.1991年に出された内閣告示「外来語の表記」では,ヴァ行を自由に使ってよいと世の中の傾向を追認しています.
広辞苑では
広辞苑では,ふつうの外来語は定着している表記(多くはバ行です)を採用し,人名・地名などはヴァ行を基準にしています.すなわち,violinは「バイオリン」,Versaillesは「ヴェルサイユ」に説明文があります.なお,「ベルサイユ」にも見出しを立てて,「ヴェルサイユ」にたどれるような工夫もしています.

 
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