編集部だより


9月の新刊




  帝国を壊すために ―戦争と正義をめぐるエッセイ―
アルンダティ・ロイ著/本橋哲也訳
(新赤版852)
 

     
   同時多発テロ事件、アフガン戦争、イラク戦争、各国で沸き起こる過激主義の暴力、核拡散……。いま、世界は、暴力と偽善で覆い尽くされているように見えます。インド人作家アルンダティ・ロイは、直截で、かつ、しなやかな文体で、世界の暴力に批判の声を挙げてきました。そのいくつかを紹介しましょう。

 「ブッシュ大統領は空爆開始を通告するさい、こうおっしゃいましたね、「われわれは平和を愛する国だ」。アメリカお気に入りの特命大使、トニー・ブレアさんも、オウムのように繰り返す、「われわれは平和を愛する国民だ」と。というわけで、わかりましたよ。豚とは馬のこと。女の子は男の子。戦争とは平和のことである。」(「戦争とは平和のことである」より)

 「たしかにまだわたしたちは、帝国の歩みを阻止できていないかもしれない。でも、それを裸にすることはできたでしょう? 帝国の仮面を剥がすことはできた。その素顔を晒させたのは、わたしたち。帝国は、いま、私たちの目の前、世界という舞台の上で、その残忍で醜い裸の姿のまま、立っている。」(「<帝国>に抗して」より)

 「おそらくしばらく事態はさらに悪化し、それからやっと良くなるだろう。たぶん天に小さな女神がいて、彼女がわたしたちのために準備をしてくれているはず。今とはちがう世界は可能なばかりか、すでに近づきつつある。私たちの多くは、彼女の到来をむかえることはできないかもしれない。でも、ある静かな一日、もし耳を注意深くすましてみれば、私には聞こえる、そのひそかな息づかいが。」(「来たれ、九月よ」より)

 彼女のエッセイは、発表のたびにインターネットで世界をかけめぐり、帝国に抵抗する全ての人々に希望と勇気を与えてきました。今回の新書では、<9・11>以降に発表されたエッセイのなかから8篇を選んで収載します。
(新書編集部 小田野耕明)
 
 
     
 

■著者・訳者紹介
アルンダティ・ロイ
1961年インド・ケーララ州で生まれ、シナリオライターなどを経て、1997年に処女作『小さきものたちの神』でデビューしました。この本はブッカー賞を受賞しています。インドのマッディヤ・プラデーシュ州のダム建設に伴って先住民を強制排除しようとした政府に対して反対抗議運動を行うほか(「ナルマダ救済運動」と呼ばれているようです)、インドの核開発、ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭に警鐘を鳴らしています。<9・11>以後は、アメリカの行使する報復の暴力に対して批判の矢を放ち、それに抵抗する世界の民衆の連帯運動を励まし続けている、注目の作家です。

本橋哲也
1955年生まれ。英国ヨーク大学英文科博士課程修了。現在は東京都立大学人文学部助教授。専攻はイギリス文学、カルチュラル・スタディーズ。著書に『カルチュラル・スタディーズへの招待』。訳書には『ディアスポラの知識人』『ポストコロニアル理性批判』などたくさんあります。

 
     
  ■目次  
 


「無限の正義」という名の算術

戦争とは平和のことである

戦争のお話 ――核爆弾で楽しむ夏の家族ゲーム

民主主義の女神 ――彼女はたしかにこの地にいるはず、でも誰も彼女のことを知らない

来たれ、九月よ

<帝国>に抗して

民衆のための<帝国>ガイド

帝国製インスタント民主主義 ――ひとつ買うと、もうひとつただで貰えるインスタント食品はいかが?

訳者あとがき
 
       
  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
デモクラシーの帝国 藤原帰一著 新赤版802
テロ後 世界はどう変わったか 藤原帰一編 新赤版770
ブッシュのアメリカ 三浦俊章著 新赤版844
イラクとアメリカ 酒井啓子著 新赤版796
「対テロ戦争」とイスラム世界 板垣雄三編 新赤版766
インドで考えたこと 堀田善衛著 青版F31
 
 
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