編集部だより


10月の新刊




  当事者主権
中西正司・上野千鶴子著
(新赤版860)
 

     
   当事者主権、とは、初めて耳にすることばかもしれません。
 この本は、著者である中西正司さんと上野千鶴子さんの出会いから始まりました。

 中西さんは、1986年に、日本ではじめて、障害者の自立生活センター、ヒューマンケア協会を八王子につくりました。自立生活センターとは、障害をもった人たちが、地域で自立して暮らせるように、さまざまなサポートをするところ。80年代にアメリカではじまりました。
 中西さん自身、大学生のときに交通事故に遭い、四肢まひに。そして、施設に入所させられますが、障害が他の人たちより軽かったため、施設を出ることができました。でも、多くの仲間たちを施設に残してきたことで、いつの日か、みんなが地域で自由に暮らせるようにしたい、という思いで活動してきたそうです。
 また、自分自身で進路を決めようと思ったとき、専門家である医師に拒絶された経験があり、障害者、つまり当事者が「自分のことは自分で決める」ことができる、という社会を目指してきました(この本のなかでも、「専門家とは何か」について、かなりページをさいています)。
 現在、自立生活センターは、全国125か所にあり、全都道府県で、自宅での自立生活はある程度、可能になっています。そこまでの道のりには、さまざまなことがありましたが、常に、当事者である障害者が中心になって、活動をすすめてきました。
 この本は、その活動が縦糸になっていますが、運動論という面だけでなく、組織論としても、経営論としても、NPO論としても、また地域づくり論としても、実に多くのことが綴られています。
 不可能を可能にした自立生活センターの具体的な事例には、非障害者にとっても、示唆に富むことが多々含まれています。

 上野さんは女性学のパイオニアとして、女性学をつくりだし、社会に提言を続けてきました。女性学もまた、「私のことは私が決める」という当事者の実践から生まれたものです。上野さんはまた社会学者として、福祉NPOなど、さまざまな当事者たちによる実践や経験を研究・調査してきました。その経験と分析が、この本の横糸になっています。この本には、障害者だけでなく、女性、高齢者、子ども、患者、不登校者など、「問題をかかえているとみなされている当事者たち」が、「自分のことは自分で決める」と声を上げ始めていることが描かれています。さまざまな当事者運動の流れが、ひとつに合流する機運が熟してきたことを感じさせます。
 縦糸と横糸から織りなされる社会の新しいうねり、「当事者主権」は、社会をくみかえる。大胆な提言の書です。
 
 
     
  ■著者紹介
中西正司(なかにし・しょうじ)
1944年生まれ。20歳の時に交通事故により受傷し、四肢まひになる。1986年初めての自立生活センター、ヒューマンケア協会設立。1990年DPI日本会議議長に就任。交通アクセス運動を全国に展開する。1991年に全国自立生活センター協議会を設立し事務局長に。1996年自立生活センターの事業の制度化といえる市町村障害者生活支援事業を初年度より受託。1997年 市町村障害者生活支援事業全国連絡協議会を設立。
現在、全国自立生活センター協議会代表

上野千鶴子(うえの・ちづこ)
1948年生まれ。社会学者。現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。著書に『家父長制と資本制』 『近代家族の成立と終焉』 『差異の政治学』(以上、岩波書店)、『ナショナリズムとジェンダー』(青土社)、『国境お構いなし』(朝日新聞社)、『サヨナラ、学校化社会』(太郎次郎社)などがある。
 
     
 

■目次

 
     
  序章 当事者宣言  
 

 

1 当事者主権とは何か/2 当事者であること/3 自立支援と自己決定/4 当事者になる、ということ/5 当事者運動の合流/6 専門家主義への対抗/7 当事者学の発信/8 「公共性」の組み替え  
     
  1章 当事者運動の達成してきたもの  
 

 

1 当事者運動の誕生/2 自立生活運動の歴史/3 「自立」とは何か?/4 自立生活センターの成立/5 自立生活支援という事業/6 当事者の自己決定権とコミュニケーション能力/7 介助制度をどう変えてきたか/8 自立生活運動の達成してきたもの/9 新たな課題  
     
  2章 介護保険と支援費制度  
 

 

1 介護保険が生まれてきた背景/2 介護保険の老障一元化をめぐって/3 支援費制度のスタート/4 介護保険と支援費制度の違い/5 育児の社会化をめぐって  
     
  3章 当事者ニーズ中心の社会サービス  
    1 属人から属性へ――自分はそのままで変わらないでよい/2 だれが利用量を決めるか?/3 だれがサービスを供給するか?/4 社会参加のための介助サービスをどう認めるか/5 家族ではなく当事者への支援を  
     
  4章 当事者たちがつながるとき  
 

 

1 システムアドボカシー/2 縦割りから横断的な連携へ/3 ノウハウの伝達と運動体の統合/4 組織と連携/5 適正規模とネットワーク型連携/6 法人格の功罪/7 事業体と運動体は分離しない/8 採算部門は不採算部門に対して必ず優位に立つ  
     
  5章 当事者はだれに支援を求めるか  
 

 

1 障害者起業支援/2 介護保険と市民事業体の創業期支援/3 政府・企業・NPOの役割分担と競合/4 規制緩和と品質管理/5 雇用関係/6 ダイレクト・ペイメント方式/7 ケアワーカーの労働条件  
     
  6章 当事者が地域を変える
 
 

 

1 福祉の客体から主体へ、さらに主権者へ/2 家族介護という「常識」?/3 施設主義からの解放/4 精神障害者の医療からの解放/5 脱医療と介助者の役割/6 医療領域の限定/7 サービス利用者とサービス供給者は循環する  
     
  7章 当事者の専門性と資格
 
 

 

1 ヘルパーに資格は必要か/2 ピアカウンセラーの専門性/3 資格認定と品質管理――フェミニストカウンセリングの場合/4 ケアマネジメントか、ケアコンサルタントか/5 ケアマネジャーの専門性と身分保障/6 成年後見制度と全人格的マネジメントの危険性/7 新しい専門性の定義に向けて  
     
  8章 当事者学のススメ  
 

 

1 女性運動と女性学/2 性的マイノリティとレズビアン/ゲイ・スタディーズ/3 患者学の登場/4 自助グループの経験/5 精神障害者の当事者研究/6 不登校学のススメ/7 障害学の展開  
     
   おわりに 自己消滅系のシステム
 あとがき  中西正司 上野千鶴子
 当事者運動年表
 
     
  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
定常型社会 新しい「豊かさ」の構想 広井良典著 新赤版733
ボランティア もうひとつの情報社会 金子郁容著 新赤版235
ワークショップ ―新しい学びと創造の場 中野民夫著 新赤版710
市民科学者として生きる 高木仁三郎著 新赤版631
体験ルポ 世界の高齢者福祉
山井和則著 新赤版186
 
 
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