編集部だより


9月の新刊




  性転換する魚たち―サンゴ礁の海から
桑村哲生著
(新赤版909)
 
 
     
   昨年(2003年)、『ファインディング・ニモ』というアニメ映画が大ヒットをしました。この夏にはDVDも発売されたので、すでにご覧になった方も多いかもしれません。主人公は「カクレクマノミ」のニモ。ニモは、母親を失い、父親に育てられている一人息子です。ある日、ニモはダイバーに捕まってしまい、それをお父さんが探しに行く――。高度なCG技術によって作り出された美しい海中の映像が印象的な、楽しい作品です。

▲カクレクマノミのペア

  実は、この作品の中では触れられていないのですが、この「カクレクマノミ」こそ、性転換する典型的な魚なのです。小さいときはオスとして育ち、やがてメスと夫婦になる。しかし、ペアであるメスが死ぬと、自分がメスへと性転換し、今度は小さいオスと夫婦になる。ということは、ニモとお父さんは……(詳しくは本書、第1章を参照)。

▲沖縄県瀬底島南西部のサンゴ礁(1982年撮影)

  性転換というと、特殊なものに思われるかもしれません。しかし、このクマノミをはじめサンゴ礁にすむ魚たちは、当たり前のように性転換をします。またある魚はオスからメスへ、その後再びメスからオスへと性転換を繰り返します。いったいなぜなのでしょうか。著者の桑村哲生先生は30年にわたり、この不思議な現象の<謎>を追いかけてきました。なぜ魚たちは性転換をするのか? その仕組みは? では、逆になぜ人間など哺乳類は性転換しないのか? そもそも性はいつ生まれたのか? 性がオスとメスの二つだけなのはなぜか? <魚たちの性転換>を追う旅は、<性の不思議>そのものへと広がっていきます。性の謎を探って、海の中の冒険へ出かけてみませんか。
▲ホンソメワケベラのメスどうしの産卵上昇

(新書編集部 田中宏幸)
 
 
     
  ■著者紹介
桑村哲生(くわむら・てつお)1950年兵庫県生まれ。1978年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。1999〜2002年日本動物行動学会会長。2002〜2004年中京大学教養部長。現在は中京大学教養部教授。
専攻―魚類行動生態学・社会生物学。
著書―『渚の生物』(編著、海鳴社)
   『魚類の性転換』(共編著、東海大学出版会)
   『魚の子育てと社会 ―誰が子育てすべきか』(海鳴社)
   『魚類の繁殖戦略1,2』(共編著、海遊舎)
   『生命の意味 ―進化生態からみた教養の生物学』(裳華房)ほか
 
     
  ■目次
はじめに
 
  1 魚たちの性転換――ホンソメワケベラとの出会い  
    掃除魚/ホンソメワケベラとの出会い/サルの社会から魚の社会へ/潜水調査と個体識別/小さいオスはどこにいる?/オーストラリアからの報告/メスからオスへ/オスからメスへ
 
  2 性とはなにか  
    無性生殖/遺伝子・突然変異・進化/性の起源――なぜ性が必要になったか?/性はなぜ二つだけなのか?/オスとメスの違い――性差の進化/なぜオスとメスの性比は一対一なのか?/地域によって異なる性比
 
  3 魚類の配偶システム  
    「体長差の原則」の発見/配偶システムと子の保護/琉球大学瀬底実験所/ムラサメモンガラのなわばり型ハレム/タンガニイカ湖のシクリッドのハレム
 
  4 性転換の進化理論  
    生物の適応戦略/なぜ性を変えるのか?/配偶システムと性転換の方向/性転換のコスト/成長の性差と性転換/オス存在下の性転換/劣位個体の性転換
 
  5 ダルマハゼの謎を解く  
    性転換理論の例外?/共同研究のはじまり/ダルマハゼの配偶行動/採集・計測・マーク/同性同居実験――水槽でサンゴとハゼを飼う/マーク個体追跡調査/双方向の性転換/雌雄のサイズ差の謎/コバンハゼでは?
 
  6 逆方向の性転換  
    一夫多妻のオキナワベニハゼ/逆方向性転換/卵も精子も?――カザリキュウセンの謎?/メスどうしの産卵行動/ホンソメワケベラの逆方向性転換――野外実験/オスどうしで飼ってみると――/カクレクマノミでは?
 
  7 性はどのように決まるのか  
    性転換の三タイプ/雌雄同体/環境性決定――温度の影響など/遺伝的性決定と性染色体/ハチの半倍数性/遺伝と環境/新たな謎
 
  あとがき
参考文献
 
 
  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
生物進化を考える 木村資生著 新赤版19
ダイビングの世界 須賀潮美著 新赤版621
旬の魚はなぜうまい 岩井 保著 新赤版805
イワナの謎を追う 石城謙吉著 黄版272
性の源をさぐる ―ゾウリムシの世界 樋渡宏一著 黄版345
 
 
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