編集部だより






 

格差社会 何が問題なのか
橘木俊詔著
(新赤版1033)

 
 
 

 「格差は出てもしかたない」のか?

 現在、格差をめぐり、論争が起きています。今年(2006年)1月、政府が「格差は日本が高齢化していることによる見かけである」という見解を発表したことに端を発します。この見解をめぐって、格差は拡大している、いや「見かけ」にすぎない、といった議論が注目を集めています。

  実は、90年代後半にも、格差をめぐり同様の論争がありました。その際の火付け役となったのが、本書の著者である橘木俊詔先生の岩波新書『日本の経済格差』(1998年刊)でした。戦後、長く「平等社会」だと信じられてきた日本において、経済格差が広がりつつあることを、様々な統計データによって検証しました。同書が刊行されると、その主張をめぐって様々な論が展開されることとなりました。

 しかし、現在起きている論争は、かつての論争とは質が違っていると著者は指摘します。格差拡大の実態の有無についての論争に加え、「格差は悪くない」「格差が広がることは経済成長に必要」などといった格差を容認する意見が数多く出されている点が、今回の論争の特徴です。こうした主張の先駆けとなったのが、小泉首相の国会での発言だったことは、周知の事実です。格差拡大を容認するのか、あるいは、格差を是正するべきなのか。この問題は、日本の将来像を考えるうえでも、とても重要な論点です。

 本書では、こうした論点を踏まえつつ、格差研究の第一人者である著者が、日本の格差の現状を詳細に分析し、格差が拡大する中で何が起きているのか、将来どういう問題が起こりうるのか、いま何をすべきなのかなどについて、明快に語りつくします。

 格差が広がる中で、特に深刻なのが貧困層の問題です。OECD(経済協力開発機構)が2004年末に公表したデータでは、日本の貧困率の高さは先進国の中でアメリカ、アイルランドに続いて第3位。2006年7月に発表したデータでは、勤労世代(18歳から65歳まで)に関してはアメリカに次いで第2位の高さとなっています。実際に、国内の様々な指標でも、貧困者の増加が目立ち、働いてもまともに生活を維持できない低所得労働者(ワーキングプア)など貧困をめぐる新たな問題も起きています。8年前の『日本の経済格差』の時とは、また違った日本社会の姿が現われています。

 「格差」という視点から日本社会を眺めると、いったいどういう様相が現われるのか。格差論の決定版ともいうべき本書を、ぜひご一読ください。

(新書編集部 田中宏幸)
 
 
 

■著者紹介
橘木俊詔(たちばなき・としあき)1943年兵庫県に生まれる。小樽商科大学、大阪大学大学院を経て、1973年ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D)。その後、米、仏、英、独の大学・研究所で教育職・研究職を歴任。京都大学経済学研究所教授、経済企画庁客員主任研究官、日本銀行客員研究員、経済産業省ファカルティフェローなどを経て現在、京都大学大学院経済学研究科教授、2005年度日本経済学会会長
著書―『日本の経済格差』 『家計から見る日本経済』(以上、岩波新書)、『安心の経済学』 『失業克服の経済学』(以上、岩波書店)、『日本のお金持ち研究』(共著、日本経済新聞社)、『脱フリーター社会』(東洋経済新報社)、『アメリカ型不安社会でいいのか』(朝日新聞社)ほか

     
  ■目次
はじめに

 
 
第1章
格差の現状を検証する  
  1 所得から見る格差の現状
2 日本の不平等を国際比較する
3 深刻さを増す日本の貧困
4 統計に表れない格差の存在
5 格差は「見かけ」なのか
   
 
第2章
「平等神話」崩壊の要因を探る  
  1 長期不況と失業の増大
2 雇用に広がる格差
3 所得分配システムの変容
4 構造改革の何が問題なのか
   
 
第3章
格差が進行する中で――いま何が起きているのか  
  1 新しい貧困層の様相
2 低所得労働者が意味するもの
3 富裕層の変容
4 地域格差の実態
5 奪われる機会の平等
   
 
第4章
格差社会のゆくえを考える  
  1 格差拡大を容認しても大丈夫なのか
2 貧困者の増大がもたらす矛盾
3 ニート、フリーターのゆくえ
4 階層の固定化と人的資源の危機
5 格差をどこまで認めるのか
   
 
第5章
格差社会への処方箋――「非福祉国家」からの脱却  
 

1 競争と公平の両立
2 雇用格差を是正する
3 地域の力を引き出す
4 教育の機会を奪われない
5 急がれる貧困の救済
6 税制と社会保障制度の改革
7 「小さい政府」からの脱却

   
 

あとがき

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
日本の経済格差―所得と資産から考える 橘木俊詔著 新赤版590
家計からみる日本経済 橘木俊詔著 新赤版873
景気とは何だろうか 山家悠紀夫著 新赤版933
人間回復の経済学
神野直彦著 新赤版782
現代に生きるケインズ―モラル・サイエンスとしての経済理論
伊東光晴著 新赤版1013
 
 
 


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