編集部だより






 

「お墓」の誕生―死者祭祀の民俗誌
岩田重則著
(新赤版1053)

 
 
 

 「お墓」とは何なのだろうか?

 「お墓」といったとき、現代ではたいていの人が思い浮かべるのは、表面に「○○家之墓」と刻まれた四角い石塔ではないでしょうか。その下部の空間(カロウトという)に遺骨を納め、お盆やお彼岸にはお参りをして先祖の霊を慰める……その上で、「家のお墓を誰が守るか」「いや、昔風に『家』にこだわるのは古いんじゃないか」と、「お墓」をめぐる議論も盛んに行われているようです。

 そうした議論の根本にある「『お墓』に先祖の霊を祀る」という考え方自体に疑問を投げかけ、民俗学の眼でもう一度検証してみよう、日本古来の伝統とされる死者を祀る儀礼の意味、つまるところ「お墓」とは何なのかを見直してみよう、ということをめざして本書が生まれました。

 まずはお盆の迎え火・送り火の習俗から観察を始めます。そして、夭折した者たち――戦前に多かった嬰児・子供の死と、とりわけ第二次大戦の多くの戦死者――はどう祀られたかまでを、著者の手になる沢山の写真とともに見ていきましょう。

 著者は気鋭の民俗学者。日本の各地を廻り、お盆や葬儀、埋葬の調査を積み重ねてきました。少しずつかたちを変えながらも現在まで行われているさまざまな死者祭祀の現実の例から照らし出されることで、民俗学上の通説も、私たちの「常識」も、また違った様相をみせていく……思い込みを排して現実を見ることから始まる学問の醍醐味を読み取っていただければと思います。

(新書編集部 早坂ノゾミ)
 
 
 
 
 

▲お盆の「お墓」参り(静岡県)

     
 
 
 

▲遺体を埋葬した地点には、石塔ではなく「メッパジキ」と呼ばれる墓上施設が作られていた(山梨県)

     
 
 
 

▲門口ではなく、集落全体が海岸で焚く「迎え火」「送り火」(静岡県)

     
 

■著者紹介
岩田重則(いわた・しげのり)氏は1961年静岡県生まれ。1994年早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。民俗学を専攻し、静岡県、山梨県ほかでフィールドワークを行う。現在は東京学芸大学助教授。
  2003年に刊行した『戦死者霊魂のゆくえ』(吉川弘文館)は、靖国神社をめぐる論議に、新しい視角を打ち出したものとして注目された。ほかに『ムラの若者・くにの若者』(未来社、1996)、『墓の民俗学』(吉川弘文館、2003)などの著書がある。

     
  ■目次
はじめに
 
 
第一章
お盆の儀礼から何が見えるか  
  1 「迎え火」「送り火」の一般的常識
    「迎え火」「送り火」の認識/現実と認識とのズレ/ミクロな観察/近隣の不一致/社会現象をどう見るか/「迎え火」「送り火」の現実/柳田国男の「迎え火」「送り火」論
  2 盆棚は先祖を祀るのか
    同時進行する儀礼/複数の祭祀対象を祀る/「神田へ買物にいく」/赤飯のおむすびと枕飯/赤飯のおむすびに棒を立てること/現実と対応していない一般的常識 
 
 
第二章
葬送儀礼と墓  
  1 葬送儀礼における霊魂
    いまわのきわの物語/霊肉分離の観念と葬送儀礼/「両墓制」に霊魂観をみる説/民俗学の陥穽/忌避される遺体と死霊−葬送儀礼を観察する/出棺の際の奇妙な行為−死霊を追放する/穴掘りと埋葬/葬列の回転/遺体への死霊の附着/葬式組の役割/幽体離脱の物語
  2 埋葬と石塔建立のあいだ
    家の墓と共同墓地/先祖代々墓/先祖代々墓の原型/遺体の埋葬は石塔の下ではなかった/石塔は時間を隔てて建立される/墓とは何か/遺体とともに死霊を封鎖する/仏教的石塔との併存/先祖祭祀の政治性 
 
 
第三章
「お墓」の誕生  
  1 画一化していく墓
    墓制研究のとらえなおし/墓制研究のはじまり/用語としての「両墓制」/「両墓制」からの用語の拡大/墓の分類基準を設定する/「両墓制」と「単墓制」の同質性/カロウト式石塔への納骨/葬儀の現代的変容/土葬の現代的変容/カロウト式石塔への転換/土葬の解体と石塔の拡大/民俗的火葬による遺骨埋葬/画一化した「お墓」への転換
  2 共同幻想としての「お墓」
    考古学からわかる中世の墓/えがかれた中世の墓/考古学からわかる近世の墓/角柱型石塔の誕生/近現代まで含めた考古学の石塔調査/共同幻想としての「お墓」/商品価値が発生した「お墓」 
 
 
第四章
夭折者の墓と「お墓」  
  1 子供の墓
    死者による墓の差異/嬰児・子供の墓/嬰児遺体の埋葬/屋内に埋葬された嬰児遺体/間引の嬰児遺体葬法/胎盤の埋葬との類似/嬰児遺体埋葬と胎盤埋葬の一致/お産の話/胎盤と嬰児遺体の埋葬地点を踏むこと/遺体埋葬と成長の段階/子供の墓に残存した仏教以前
  2 戦死者と「お墓」
    未経験の死の形態としての戦死者/「靖国問題」の「問題」/娯楽をも吸収する靖国神社の磁場/戦死者の「お墓」と先祖代々墓/戦死者の「お墓」の独立性/ある特攻隊員の死/戦死者多重祭祀/祈念と記念の交錯/先祖代々墓と戦死者の「お墓」の異同/靖国神社をめぐる誤解
むすび
 
 
 

参考文献
あとがき

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
東西/南北考―いくつもの日本へ 赤坂憲雄著 新赤版700
日本の近代思想
鹿野政直著 新赤版767
環境考古学への招待―発掘からわかる食・トイレ・戦争 松井章著 新赤版930
慰霊と招魂―靖国の思想 村上重良 青版C156
冠婚葬祭
宮田登著 新赤版630
 
 
 


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