編集部だより






 

エスペラント―異端の言語
田中克彦著
(新赤版1077)

 
 
 

 人間は言語をつくることができるか

 今からほぼ120年前、1887年のこと、ポーランド(当時はロシア領)に住むルドヴィーコ・ザメンホフという名のユダヤ人が、国際共用語として新しい言語を考案し、発表しました。その名はエスペラント――「希望の言語」という意味を込めた命名でした。

 しかしその後、エスペラントの歩んだ道のりは険しいものでした。政治的には国家の枠を超える思想につながる「危険な言語」として、ナチス・ドイツやスターリン主義の弾圧を受けたのですが、それだけではありません。正統派言語学者たちの言語観からするならば、「人工言語」は本質的に異端の言語としてのみ存在しうるものだった――そう著者は述べています。

 では、エスペラントとはいったいどんな言語なのでしょう。本書は簡単な文法のスケッチからはじまって、エスペラントが生まれ故郷のヨーロッパのみではなく、むしろアジアで熱心に受け容れられたのはなぜなのか、便利なコミュニケーションの道具というだけではなく、宮沢賢治のような詩人たちの魂をゆすぶることができたのはどうしてか、と多面的にこの言語に迫ってゆきます。

 そして、縦横無尽、博覧強記の叙述の行き着くところ、「言語は人類にとっていかなる意味をもつか」という大問題が立ち上がってくるのです。

 おりしも2007年8月には、横浜で世界エスペラント大会が開かれ、世界中のエスペランチストが日本に集まってきます。世界はもはや英語を中心にまわる しかないと考える方も、いやそれはどうかと疑問を呈する方も、この機会にエスペラントに興味を持っていただければと思います。

(新書編集部 早坂ノゾミ)
 
 
 

■著者紹介
田中克彦(たなか・かつひこ)氏は1934年兵庫県生まれ。東京外国語大学卒業および一橋大学社会学研究科修了。言語学、モンゴル学専攻。現在は一橋大学名誉教授。『ことばと国家』(岩波新書)をはじめとする一連の著作は、言語と人間の関係を鋭く問いかけて、言語学界だけでなく幅広い読者に衝撃を与えてきた。岩波新書には、ほかに『言語学とは何か』 『名前と人間』 『現代ヨーロッパの言語』(共著)。さらに、『「スターリン言語学」精読』 『言語からみた民族と国家』 『チョムスキー』 『法廷にたつ言語』 『言語の思想』(以上、岩波現代文庫)、『国家語を超えて』 『ことばとは何か』(筑摩書房)、『草原の革命家たち』(中公新書)など。

     
  ■目次
 はじめに
 
 
第一章
人間は言語を批判してはならない  
  ―それは神のつくりたもうたものだから
 
第二章
エスペラントはどんな言語か  
  ―その簡単なスケッチ
 
第三章
エスペラントの批判者・批判言語  
   
 
第四章
アジアのエスペラント  
   
 
終 章
―ことばを人間の手に!  
   
 

 あとがき
 参照した文献とそれへの謝辞

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
ことばと国家 田中克彦 黄版175
言語学とは何か 田中克彦 新赤版303
ことばと文化 鈴木孝夫 青版C-98
教養としての言語学 鈴木孝夫 新赤版460
言語と社会
P・トラッドギル 土田滋訳 青版C-99
 
 
 


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