編集部だより






 

ウナギ 地球環境を語る魚
井田徹治著
(新赤版1090)

 
 
 

 世界の7割は日本人が食べている!

 今年の「土用の丑」は7月30日でした。みなさん、ウナギ、召し上がりましたか?古くは『万葉集』にも夏のスタミナ食として登場するウナギは、日本人にとって本当に身近な魚のひとつです。そして、エビ・マグロなど他の多くの魚と同様、ウナギも日本が世界一の消費国。私たちは平均して年に一人五匹を食べている計算になるそうです。

 これほど身近であるにもかかわらず、ウナギがいったいどんな生活史をもつ魚なのか、ということは、まだまだ謎につつまれています。2007年6月にオランダ・ハーグで開かれたワシントン条約会議でヨーロッパウナギが取引規制の対象種になるとの報道後、日本のメディアでは「ウナギが消える?」「ウナギ価格高騰!」などのセンセーショナルな報道が相次ぎました。現在と同様のかたちでの消費を続けることはできなくなることに間違いなさそうです。しかし、激減しているウナギを「守る」と言ったところで、相手が生き物である以上、その生態を知らなければ、対策は講じられません。

 本書では、丹念な取材によって、ウナギについて、どこまでわかっていて、何がわかっていないのかを描き出していきます。それらの事実からは、また、私たちの暮らしや社会構造も照らし出されます。「ウナギ」を通して現在の食と環境を考えるこのレポートをぜひお読みいただければと思います

(新書編集部 太田順子)
 
 
 

■著者からのメッセージ
 ウナギという魚の名前を聞いて、皆さんは何を思い起こされるでしょうか。街角のウナギ屋さんの店先から漂うかぐわしい蒲焼きの香。小川やお祭りでのウナギ釣り。最近ではコンビニエンスストアのウナギ弁当でしょうか。アリストテレスが生態を研究し、『万葉集』にも歌われたウナギは、古くから人間にとって非常に身近な魚でした。でも、ウナギという魚が、地球の長い歴史の中で進化してきた、日本の自然の重要な一部を構成する野生生物でもあるということを、われわれは忘れがちであるように思います。そして、野生生物としてのウナギが住める場所は、この地球上からどんどん少なくなり、絶滅が心配されるまでになっているのです。

 ウナギの生態も、まだまだ多くの謎に包まれています。ウナギは日本から2000キロ以上離れたグアム島近くの海の中にそびえる「山」の近くで、新月の夜にだけ産卵するらしいのですが、まだ自然界でウナギの卵を見た人はいません。

 ウナギという魚を手がかりに、身近な河川や湖、湿地の環境破壊から、生物種の絶滅や地球温暖化まで、深刻化が指摘されている環境問題を考えてみよう、というのが本書の試みです。

 国内各地や海外での取材を続けるうちに、筆者の問題意識はグローバル化した経済の時代の「食」の姿の在り方や、天然資源をどうすれば持続的に利用してゆくことができるのかという問題にまで広がってゆきました。身近なようで実はとってもミステリアスな魚、ウナギが誘う旅に、ご一緒できれば幸いです。

     
 

■著者紹介
井田徹治(いだ・てつじ)
1959年12月東京生まれ。1983年、東京大学文学部卒、共同通信社に入社。つくば通信部などを経て1991年、本社科学部記者。2001年から2004年まで、ワシントン支局特派員(科学担当)。現在、科学部次長。環境と開発の問題を長く取材、気候変動に関する政府間パネル総会、気候変動枠組み条約締約国会議、ワシントン条約締約国会議、環境・開発サミット(ヨハネスブルグ)、国際捕鯨委員会総会など多くの国際会議も取材している。
  著書に『大気からの警告―迫りくる温暖化の脅威』(創芸出版)、『データ で検証! 地球の資源ウソ・ホント』(講談社 ブルーバックス)、『地球環境データブック』(共著、ワールドウォッチジャパン)、『サバがトロより高くなる日―危機に立つ世界の漁業資源』(講談社現代新書)、『カーボンリスク―CO2・地球温暖化で世界のビジネス・ルールが変わる』(北星堂)。

     
  ■目次
 はじめに
 
 
第1章
ウナギという生き物  
  ウナギはミミズから?/種と分布/ウナギの不思議な生活史/乗り換え/シラスウナギの旅/川に向かって/海の水でも淡水でも/なくなった休息場所/川をどこまでも/川底生活/降りウナギ/スローな生活
コラム1 ウナギを「刺身」にできないわけ
 
第2章
産卵場所の謎を追う  
  フロイトも困った/ウナギ研究の父/海草のゆれる海で/ニホンウナギの産卵場所/二つの仮説/卵を求めて/遺伝子解析が教えるもの/海山の生態系
コラム2 文学作品に登場するウナギ
 
第3章
ウナギを増やせるか  
  ウナギの人工養殖への挑戦/雄化するウナギ/初の人工ふ化/餌を探せ!/ついに成功/実用化への高いハードル
コラム3 ウナギの栄養価
 
第4章
ヨーロッパでは絶滅危惧種に  
  ワシントン条約/減少は早くから/乱獲が一因/外来寄生虫/ブーム到来と価格高騰/対策は後手に/規制強化を/アメリカウナギも減少/異変は突然に/ブームはアメリカでも/絶滅危惧種に/ローマ会議/アジア、そして日本への厳しい目
コラム4 オーシャンフレンドリーなシーフードガイド
 
第5章
日本のウナギも減っている  
  資源は急減/価格高騰とシラス乱獲/環境の改変/利根川で起きたこと/水力発電所のタービン/ウナギのために階段を/外来ウナギ/化学物質の中を泳ぐ/蓄積される汚染物質/汚染のブーメラン
コラム5 地球温暖化とウナギの回遊
 
第6章
 ウナギと日本人  
 

養殖業の変転/台湾が日本を急追/中国の参入/混乱と反動/国産品信仰とウナギロンダリング/シラス争い/密輸は公然の秘密/ウナギのために/有機養殖の試み/フードマイレージ/ウナギは自然の産物/資源の監視と保全/ウナギと日本人
コラム6 スペインのシラスウナギ料理の話

 

 あとがき
 参考文献

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
バナナと日本人―フィリピン農園と食卓のあいだ 鶴見良行著 黄版199
エビと日本人 村井吉敬著 新赤版20
性転換する魚たち―サンゴ礁の海から 桑村哲生著 新赤版909
ウォーター・ビジネス 中村靖彦著 新赤版878
世界森林報告
山田 勇著 新赤版999
 
 
 


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