編集部だより






 

文章のみがき方
辰濃和男著
(新赤版1095)

 
 
 

 文章術と、物の見方・考え方と

 いきなりですが、国語の問題を―。ぜひあなたも挑戦してみて下さい。

 「次の日本語表現の内、不適当なもの、間違っているものを選びなさい。そして、できれば正しく直して下さい。(ちなみに、10問中、8つが間違っています。)(1)汚名を挽回する。(2)風下にも置けぬやつだ。(3)怒り心頭に発した。(4)李下に冠を正すの心構えが必要だ。(5)犯罪を犯す。(6)喧々諤々(けんけんがくがく)。(7)二の舞を演じる。(8)この映画は期待倒れだ。(9)将棋を打つ。(10)公園で大の字になって居眠りした。」

 さて、できましたか? 実は、この問題は、本書の「正確に書く」と題した章に出てくるのです。

 最近は、「正しい日本語(を使おう、守ろう)」という考え方は、どうも評判が良くありません。たしかに、言葉は生き物ですから、世の中のありようや人々の価値観が変わるのにともなって、新しい表現が生まれたり、使い古された言い回しが消えていったりします。「正しい」「間違っている」といった基準そのものも変わって当然です。

 けれども、日記に書くのならいざ知らず、他人に読んでもらう文章を書こうとするとき、今日の目で見て適切・妥当な日本語を用いるべきであるのも、また当然でしょう。まさにその意味で、この本の著者は「正しく」書くことを心がけたい、というのです。

 もっとも、ここだけご紹介したのでは、誤解を招きそうで心配になります。辰濃和男氏の著作の魅力は、実のところ、「○か×か」的発想の対極にある、といってもいいくらいだからです。そのしなやかな思考法については、ぜひ本そのものを開いて楽しんで下さい。
  そう、この本は、いい文章を書くための要諦を具体的に教えてくれるだけでなく、いわば物の見方・考え方そのものについて、私たちに再考を促してくれるのです。「文は心である」―「まえがき」に記されたこのひとことに、すべてが言い尽くされている、といってよいでしょう。

 ちなみに、上記の10問のうち、正しいのは(3)と(7)。他のどこがおかしいかについては、本書の109頁に記されています。

(新書編集部 坂巻克巳)
 
 
 

■著者紹介
辰濃和男(たつの・かずお)
1930年、東京に生まれる。1953年、東京商科大学(一橋大学)卒業、朝日新聞社入社。ニューヨーク特派員、社会部次長、編集委員、論説委員、編集局顧問を歴任。この間、1975〜88年、「天声人語」を担当。93年退社。日本エッセイスト・クラブ専務理事、理事長を歴任。
 著書に『文章の書き方』 『四国遍路』(以上、岩波新書)、『私の好きな悪字』(岩波現代文庫)、『高尾山にトンネルは似合わない』(岩波ブックレット)、『歩き遍路』(海竜社)ほか。

     
  ■目次
 まえがき
 
 
I
基本的なことを、いくつか  
  1 毎日、書く
2 書き抜く
3 繰り返し読む
4 乱読をたのしむ
5 歩く
6 現場感覚を鍛える
7 小さな発見を重ねる
 
II
さあ、書こう  
  1 辞書を手もとにおく
2 肩の力を抜く
3 書きたいことを書く
4 正直に飾りげなく書く
5 借りものでない言葉で書く
6 異質なものを結びつける
7 自慢話は書かない
8 わかりやすく書く
9 単純・簡素に書く
10 具体性を大切にして書く
11 正確に書く
12 ゆとりをもつ
13 抑える
 
III
推敲する  
  1 書き直す
2 削る
3 紋切型を避ける
4 いやな言葉は使わない
5 比喩の工夫をする
6 外来語の乱用を避ける
7 文末に気を配る
8 流れを大切にする
 
IV
文章修業のために  
 

1 落語に学ぶ
2 土地の言葉を大切にする
3 感受性を深める
4 「概念」を壊す
5 動詞を中心にすえる
6 低い視線で書く
7 自分と向き合う
8 そっけなさを考える
9 思いの深さを大切にする
10 渾身の力で取り組む

 

 

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
文章の書き方 辰濃和男著 新赤版328
働きながら書く人の文章教室 小関智弘著 新赤版916
仕事文の書き方 高橋昭男著 新赤版517
論文の書き方 清水幾太郎著 青版F-92
政治家の文章 武田泰淳著 青版E-38
 
 
 


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