編集部だより






 

遣唐使
東野治之著
(新赤版1104)

 
 
 

 命がけの旅、圧倒的な文化、望郷の思い……

 東アジアの大帝国であった唐。その都・長安は遥かな国々からさまざまな文物、そして人々を引き寄せ、先端の文化を誇ったといいます。日本からも国家の使節として、また留学生・留学僧として海を渡り、唐へと向かった人々がいました。彼らはいかなる使命を担い、何を求め、そして何を得てきたのでしょうか。

 本書は、遣隋使と遣唐使の時代を合わせて、七、八、九世紀の約三百年にわたる日本古代外交の実態とその歴史的な意義を、史料の詳細な検討を元に読み解いていきます。

 当時の国際関係のなかでの日本の位置、難船の相つぐ危険な海路をどう渡っていったのか、空海、阿倍仲麻呂といった著名人だけではなく、技術の習得を目ざした名もない工人たち、仏典から通俗小説まで、どんな書物を輸入するかに留学生達の選択眼が働いていたらしいこと、などなど、個々の話題としても「なるほど」という面白いものがいっぱいです。と同時に、隣の大文明と付き合うことで、日本人はどのように自己を意識し、自分たちの文化を形成しようとしていたかは、やはり読みどころではないでしょうか。

(新書編集部 早坂ノゾミ)
 
 
 


     
 

■著者からのメッセージ
 2004年秋、遣唐使で留学した井真成という人物の墓誌が、中国で見つかった。翌年、東京、奈良などで、墓誌の「里帰り」展が行われたが、そのいくつかに関係した私は、一般の人たちの遣唐使に対する熱い関心に、圧倒される感じがしたのを思い出す。しかしその熱意を受けて立つ研究者の方はといえば、まだ決して多くはないし、遣唐使について成果をわかり易く正確にまとめた本もほとんどない。

 今回の新書は、私にとって遣唐使をあつかった二冊目の一般書になるが、ここ五十年あまり、遣唐使の概説が出ていないこともあり、遣唐使をさまざまな視点から総合的に見直すとともに、広く日本の歴史・文化にとって、遣唐使とは何だったのかを考えてみた。日本列島のように、歴史が継続している地域では、古代史を覗くことは、人間にたとえると、幼少年期の自我形成を振り返る意味がある。古代のロマンとしてばかり見られがちの遣唐使だが、近現代の異文化交流を見る鏡にもなることを、本書を通じて感じ取っていただきたい。

     
 

■著者紹介
東野治之(とうの・はるゆき)氏は、1946年西宮市生まれ。1971年大阪市立大学大学院修士課程修了。現在、奈良大学教授。専攻は、日本古代史、文化財史料学。とりわけ古代木簡研究に新生面を開く。
 著書に『木簡が語る日本の古代』 『正倉院』 『遣唐使と正倉院』 『書の古代史』(以上、岩波書店)、『正倉院文書と木簡の研究』『日本古代木簡の研究』(以上、塙書房)、『遣唐使船』(朝日選書)ほかがある。

     
  ■目次
 はしがき

 
 
序 章
遣唐留学生の墓誌  
  日本人留学生の墓誌発見/墓誌を読む/井真成とは何者か/入唐の方法をめぐって/唐から見た井真成/望郷の念への共感/真成の死とその後
 
第一章
遣隋使から遣唐使へ  
  正式な国交・交流の時代/最初の遣隋使/アメタリシヒコとは誰か/日出づる処の天子/敬意表現に変わる倭の国書/仏教文化を求める/憲法十七条と仏教/外交使節としての遣唐使を考える/対立と腹の探りあい、そして直接対決へ―第一期/朝貢の下での安定―第二期/国書の内容が推定できる史料/仏教国日本の強調/二十年に一度の朝貢/国号「日本」を使う/ダブルスタンダードがもたらした良好な日唐関係/変わる国際関係―第三期/貞観「入唐使」の役割/寛平の派遣計画と菅原道真/なし崩し的な停止
 
第二章
長安・洛陽への旅  
  旅程とコース/北路―新羅道の時代/南路―五島列島を経由する/「南島路」は存在しなかった/船の編成・使節の権限/陸路、洛陽・長安を目指す/天平四年使節の場合/遣唐使船と住吉の神/遣唐使船の停泊地/夏の出発/上京の許可を得る―厳しさを増す入京制限/都に向かう旅―洛陽か長安か/朋古満という名の遣唐使メンバー/「京」は長安を指す/井真成と天平遣唐使/朝貢の品々/帰国と遭難/船をめぐる最澄の記録/中国に早くからあった布製の帆/中国の船舶技術をめぐって
 
第三章
海を渡った人々  
  遣唐使のメンバー/選び抜かれた人物たち―使節/公私の通訳たち/遣唐使船を操る船員たち/遣唐使を助ける各種の技手/さまざまな分野の技術研修生/空海は薬生だった/待遇に差の大きい留学者/ある短期留学生(請益生)の例/短期留学僧(還学僧)の使命/長期留学者―阿倍仲麻呂と吉備真備/留学者の目的/留学を目指した僧侶たち―道昭、道慈、玄ム、円仁など/中臣鎌足の長男・定恵の入唐―藤原氏と遣唐使/異色の国際人・霊仙/来日した人々/鑑真の来日/朝廷と鑑真/鑑真は何をもたらしたのか/鑑真の思い/鑑真の弟子たち/漢字の発音を伝える―袁晋卿/中国以外からの人々/日唐混血児たちの運命
 
第四章
往来した品々  
  延喜式に見る朝貢品リスト/工芸品ではなく素材を朝貢/「出火水精」とは何か/現物貨幣としての輸出品/日本に伝わった唐の文物―「ブックロード」/膨大な漢籍と仏典が伝わる/留学者の選択による写本/俗書『遊仙窟』はなぜ受け入れられたか/道教経典は選択されなかった/日本から唐へ渡った書物/書物請来への執念/もたらされた仏像や舎利/みかん、茶などの植物/喫茶の風習/「脳源茶」をめぐって
 
終 章
日本文化の形成と唐文化  
  遣唐使の停止をどうとらえるか/外来文化受容の画期/自らのフィルターで濾過して摂取する/派遣空白期の対中交流/文化の選択的受容とは/「開かれていた日本」なのか
 

 あとがき
 引用・参照文献
 遣隋使・遣唐使年表
 索 引

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
正倉院 東野治之 新赤版42
聖徳太子 吉村武彦 新赤版769
飛鳥―歴史と風土を歩く 和田 萃 新赤版850
日本の誕生 吉田 孝 新赤版510
万葉群像 北山茂夫 黄版140
 
 
 



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