編集部だより






 

演出家の仕事
栗山民也著
(新赤版1105)

 
 
 

 演出家は日々何を思い、一つ一つの作品とどのように向き合っているのかでしょうか。そもそもよい芝居とは、よい俳優とは、どのようにして見極めればいいのでしょう?

 本書は、第一線で精力的に活躍し続ける演出家・栗山民也さんによる初めての演出論です。難しい演劇用語を使うことはできる限り避けて、ごく普通の言葉で、とはいえ奥深い演劇の世界の魅力を余すところなく、スリリングに綴っています。

 作品選びから、劇作家たちとの対話、稽古場での実践、そして俳優養成の思想まで……。また、栗山さんが世界のあちこちで出会ってきた、大勢の演劇人との印象的なエピソードも数々紹介されています。

 巻末には、井上ひさしさんの新作芝居『ロマンス』が初日を迎えるまでの緊迫感あふれる日々の心情を赤裸々に綴った「『ロマンス』演出日記」を収録。演劇関係者やその志望者はもとより、観客にとっても、芝居を見る際の視野が一層広がる一冊です。写真も多数掲載してあります。

(新書編集部 上田麻里)
 
 
 

■著者からのメッセージ

……私たちの生活のなかで何度となく使う「はい」と「いいえ」とのあいだにも、無数の感情や表現がある…「はい」と「いいえ」とのあいだ、あるいは開いた手のひらと閉じた手のひらのあいだに、人間としての無数の感情の襞があることを知らなければなりません。私は、稽古場という「実験の場所」で、俳優たちの無限の表現のなかから、その隙間に確かにあるいくつもの真実を見つけるために稽古を続けています。それが、私の毎日の仕事なのです。
(中略)演劇作品は、その一つひとつが大きな生命体です。現代という時代のフィルターによって透視されたドラマが現代の俳優によって再生され、現代の観客と出会い、そこに対話が起こる。この現代演劇の絶対的な条件を守っていくためにも、「開かれた劇場」が必要だったのです。一つの「ハコ」が、たくさんの声によって広く開かれ、そこが、人びとが集う人間のための「広場」になっていくことを、いつまでも強く思っています。……

(「はじめに」より)
     
 

■著者紹介
栗山民也(くりやま・たみや)1953年東京都生まれ。演出家、新国立劇場演劇研修所所長。早稲田大学文学部演劇学科卒業。
 1980年、『ゴドーを待ちながら』で演出家デビュー。『GHETTO/ゲットー』の演出で読売演劇大賞最優秀演出家賞・紀伊國屋演劇賞・芸術選奨文部大臣新人賞、『エヴァ・帰りのない旅』などで毎日芸術賞千田是也賞、新国立劇場「時代と記憶」シリーズなどの演出で第一回朝日舞台芸術賞、『喪服の似合うエレクトラ』で朝日舞台芸術賞のグランプリを受賞。ほかに、井上ひさし「東京裁判三部作」などの演出を担当。2000年7月〜07年8月まで、新国立劇場演劇部門芸術監督を務める。

     
  ■目次
 はじめに―握った手のひらを開く、その間に無限の表現がある

 
 
第1章
 「聞く」力  
  何を見て、何を聞くのか/空白にこそ面白さは生まれる/いかに耳を養うか/アンサンブルに必要な「聞く」ことの力
 
第2章
 戯曲を読む  
  とにかく戯曲を読むことから/新人劇作家の戯曲/再読の愉しみ/チェーホフ劇からの声/キャスティングへのステップ/異質な才能のスタッフを集める/劇作家の横顔
 
第3章
 稽古場から  
  稽古場という場所/稽古場を選ぶ/「本読み」からはじまる/せりふと動きの「立ち稽古」/ハワード・デイビスの稽古場から/さまざまな演技術/「聞く、触れる、?む」/俳優としての想像力/濁った声の練習/「駄目出し」は良かったときに/「わかった」ときより「気持ち悪い」ときのほうがいい/未知の声を出してみる/リアリズムを見つめる/演出家と俳優との、いくつかの関係
 
第4章
 「時代と記憶」に向き合う  
  世界を歩くことの好奇心で/井上ひさしの戯曲から/戯曲に込められた「音の力」/戦争を題材にするということ/アウシュヴィッツ強制・絶滅収容所を歩く/「時代と記憶」に向き合う/小さな空間での演出、そして翻訳/オキナワ、そしてヒロシマから/オニールと三好十郎/「ロボット」とは/ミュージカル『阿国』から『マリー・アントワネット』へ
 
第5章
 世界の演劇人と出会う  
  「真実」を見つける場所で/誰のための劇場か/劇場の機能/舞台を支える批評/ピーター・ブルックの「劇場」/ペーター・シュタインの『三人姉妹』/太陽劇団との出会い/イスラエルの劇作家ジョシュア・ソボル/一本の線と三十八度線/カエルはどこにいるのか/シャン・カーンの私戯曲
 
第6章
 俳優とはなんだろう  
  演劇人の養成/「まなびほぐす」ということ/海外演劇研修事情/俳優の才能とは/自分自身を知る/いろいろなカリキュラム/現役俳優のための「リフレッシュメント・コース」/演出家のための教科書はない
 
第7章
演出家になるまで  
  自分自身を知ることから/父母が死ぬまで言わなかったこと/戦場の父の台本/奇妙な一人の女の姿/音楽と文学とインドと/能に出会う/芝居へ/演出助手として学んだこと/演出家としての出発と父の死/演出家になるために
 

 おわりに

 『ロマンス』演出日記
 一演出家のブックリスト
 栗山民也演出・初演作品一覧

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
演劇とは何か 鈴木忠志 新赤版32
日本の現代演劇 扇田昭彦 新赤版372
“劇的”とは 木下順二 新赤版402
シェイクスピアを観る 大場建治 新赤版754
能楽への招待 梅若猶彦 新赤版823
 
 
 



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