編集部だより






 

地域の力―食・農・まちづくり
大江正章
(新赤版1115)

 
 
 

 仕事を創り、いのちを守り、人が集う―「豊かさ」の新しいモデルはここにある!

 小泉政権下で推し進められた、「官から民へ」「中央から地方へ」という「改革」の実態は、公共サービスの切り捨て、地方交付税の削減、合併の強制にすぎなかった―地域格差がますます広がるいま、「地方再生」がさまざまな方面から求められています。

 本書は、雑誌『世界』2006年2月号から2007年3月号誌上で、「人が豊かになる地域づくり」というタイトルで連載されたルポをもとに、活気ある地域づくりをしている農山村や集団の実践を報告したものです。

 著者は、長年、「食・農・環境・自治・アジア」を自らのテーマとして本を創り、発信をつづけてきた編集者兼ジャーナリスト。とくにこの本では、次のような問題意識に立って各地の取り組みを紹介しています。

 「いま最も求められているのは、第一次産業や生業を大切にしながら新たな仕事に結びつけ、いのちと暮らしを守りつつ、柔軟な感覚で魅力を発信している地域に学び、その共通項を見出して普遍化していくことだろう」(本書「はじめに」より)。

 本書に登場する各地では、いったいどのようなプロセスによって好循環を創り上げてきたのでしょうか。いま厳しい現実に直面している地方にとって、具体的なモデルとなるはずです。また本書には、「おいしくて安全な食べもの」を創り出すことに関わっている方がたくさん登場します。食の安全性をゆるがす問題が多発している今、消費者の一人として、こんな生産者の方々の創るものを買い支えるということに意識的でありたいと思いました。いま住んでいる地域をもっと元気にしたい、そして本当の豊かさについて考えたいすべての人に手にとっていただけたらと思います。

(新書編集部 太田順子)
 
 
 

■著者紹介
大江正章(おおえ・ただあき)1957年神奈川県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。ジャーナリスト・編集者。現在、出版社コモンズ代表。関心領域は農・食・環境・アジア・自治など。
  著書に『農業という仕事 食と環境を守る(岩波ジュニア新書)、共著に『公共を支える民―市民主権の地方自治』(コモンズ)、『東京白書―東京に住むということ』(第一書林)。

     
 

■目次
 はじめに―いま、切実に求められる先行モデル

 
 
第1章
開かれた地域自給のネットワーク―島根県雲南市木次町ほか  
  めざすは独立自営農民/なぜ日本で酪農か/地域での存在感と芯が通った柔軟な生き方/ビジネス型の社会性/こだわり型の信念/国産素材の美味しい「食」の職人たち/思いのつまった学校給食/非血縁・半地縁・地域共同体へ
 ★コラム1 エサが自給できる範囲での酪農・畜産
 
第2章
商店街は誰のものか―兵庫県相生市・三重県四日市市・東京都足立区  
  食をベースにした福祉コミュニティ/ジャスコの足元で「こらぼ屋」/多面的な活動でまちづくりを支援/やる気ある人や店を支える自治体の役割/商店街の努力が、まちを支える/地域に貢献すれば生き残れる
 ★コラム2 ものを売る・広げるこだわり
 
第3章
これがほんまの福祉です―徳島県上勝町  
  おばあちゃんたちの笑顔/売上げは年間500万円/どん底からの格闘/出番をつくり、気を育てる/寝たきり老人は二人だけ/Iターン・Uターンが支える地域/「好齢者」として笑顔で生きる
 ★コラム3 普及指導員という大切な仕事
 
第4章
地産地消と学校給食―愛媛県今治市  
  地産地消の目的は地域の自立/生産から消費まで多様な地産地消政策/すべての市民が農の担い手/学校給食はまちづくりの核/新たな地域市場の創出/有機農産物を使った給食を実現/食と世界を結ぶ教育/ホンモノの「食農共育」へ
 ★コラム4 「食育基本法」の功罪
 
第5章
北の大地に吹く新しい農の風―北海道標津町ほか  
  いのちを支える大規模畜産/家畜の生理にあった畜産と飼料の自給/地域に貢献する畜産業/農協陣営でいのちと農の大切さを訴える/最大の産地のクリーン農業/動き出した有機農業推進法
 ★コラム5 有機農業推進法の意義と課題
 
第6章
四万十源流発、進化する林業の現場から―高知県梼原町ほか  
   日本で最初に森林認証を取得した森林組合/環境への配慮と販売面での効果/今後の課題/自然を活かす、森で愉しむ/行政とのパートナーシップと町民パワーの発揮/材を使う側からの提案/適正なマスをめざして
 ★コラム6 東京産の木で造った農園レストラン
 
第7章
公共交通はやさしい―富山県富山市・高岡市  
  58年ぶりの路面電車の開業/公共交通の活性化をめざして/飛躍的な変化と予想を上回る乗客の増加/まちづくりとの一体化/暮らしと移動の自由の保障が大切/路面電車存続の市民運動/赤字を前提に三セクをつくる/市民出資の実体化が必要/日本にLRTを定着させるために
 ★コラム7 脱・自動車優先社会へ
 
第8章
市民皆農のすすめ―東京都練馬区・神奈川県横浜市  
 

畑のカルチャーセンター/前例のない体験農園を創り出す/利用者も園主も満足/農縁コミュニティの深いきずな/盛んな農業を支えてきた自治体の政策/耕す市民を育てる/コモンズとしての都市農業
 ★コラム8 農業公園で有機農業

 

 あとがき
 参考文献

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
地域再生の条件 本間義人 新赤版1059
現代たべもの事情 山本博史 新赤版374
共生の大地―新しい経済がはじまる 内橋克人 新赤版381
日本の農業  原 剛 新赤版323
大型店とまちづくり―規制進むアメリカ、模索する日本 矢作 弘 新赤版960
 
 
 



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