編集部だより






 

カラー版 知床・北方四島
  ―流氷が育む自然遺産

大泰司紀之・本間浩昭著
(新赤版1135)

 
 
 

 シマフクロウの森、ラッコの海

 知床半島にオホーツク海からやってくるのは流氷だけではありません。そこにはたくさんの海獣類や鳥類が生き生きと暮らしています。北方四島にかけての海と森はは動物たちの楽園だったのです。

 本書では、わずか十数年前のソ連崩壊まで研究者も立ち入ることのできなかったこの海域と島々の動物たちや植物の姿、そして人間の営みを、豊富な写真で紹介します。

 そのほか、オホーツク海の流氷の衛星画像、人工衛星から見た知床周辺の地形、江戸時代の蠣崎波響が「夷酋列像」に描いた白いヒグマ(?)、択捉島のミグ戦闘機の墓場など、見どころ満載の1冊です。

(新書編集部 千葉克彦)
 
 
 


 
▲豪快にジャンプするシャチ(本書より/択捉島/毎日新聞社)
 
     
 


 
▲ウトウの巣穴調査をするロシアの研究者
(本書より/択捉島/桑原禎知撮影)
 
     
 

■著者からのメッセージ

 明治時代、最高級のラッコの毛皮を目当てに、イギリス、アメリカ、ロシアなどの密猟船がすさまじい乱獲を始め、ラッコは10年ほどで姿を消してしまいました。(中略)絶滅の淵に追い込まれたラッコたちの運命を変えたのは1945年、第2次世界大戦の終結後にこれらの島々に侵攻してきたソ連軍でした。千島列島と隣接する島々に対するソ連(現ロシア)の支配が始まったのです。

 戦後の高度経済成長にともなって日本の山野、そして海が切り拓かれたのとは対照的に、ソ連に支配されたこの地域の開発は著しく遅れました。ソ連は海洋保護区を設定し、密猟者に対しては厳罰で臨んだため、ひっそりと暮らしていたラッコたちはようやく増え始めました。

 サハリン漁業規制局の調査(1991年)によると、ラッコは約1200キロメートルの海岸線全体で約1万頭を数えるまでになりました。このうちおよそ3割が択捉島とウルップ島に生息しています。(中略)

 豊かだった北方四島の自然は、いま急速に崩れようとしています。ソ連が1991年に崩壊し、資本主義経済への移行が急激に行われました。四島周辺では、水産物の密漁と乱獲が行われるようになりました。カニやウニ、ナマコなど、高く売れる水産物が真っ先に狙われ、大半が日本に“輸出”され、いまも「飽食の食卓」へと運ばれ続けています。過去十数年で枯渇寸前に追い込まれた資源も少なくありません。まるでかつてのラッコの悲劇を再現しているかのようです。(中略)

 私たちは、この生態系の保全のために、新しい提案をしたいと考えています。それは、知床の世界自然遺産の範囲をウルップ島まで拡張するという提案です。拡張によって、日本とロシアが責任を分かち合い、生態系を保全するとともに、北方四島周辺での漁業を持続可能に形に変えていくことができるのではないか、と考えています。

(「まえがき」より)
 
 
 

■著者紹介
大泰司紀之(おおたいし・のりゆき)1940年生まれ、北海道大学名誉教授。北海道大学総合博物館資料部研究員、知床世界自然遺産地域科学委員会・委員長、NPO法人北の海の動物センター会長。
 著書(共編著も含む)に、「知床の動物」(北海道大学図書刊行会)、「Deer of China」(Elsevier Press)、「中国の野生哺乳動物」(中国林業出版)、「哺乳類の生物学2 形態」(東京大学出版会)など。

本間浩昭(ほんま・ひろあき)1985年同志社大学文学部卒業、毎日新聞記者。前東京大客員助教授。旧石器発掘捏造事件の端緒を入手し、取材班の一員として2001年の日本新聞協会賞、菊池寛賞、早稲田ジャーナリズム大賞受賞。
 共著に『エゾシカを食卓へ』(丸善プラネット)、『ロシアへの反論』(自由国民社)など。

     
 

■目次
 はじめに

 
 
第1章
流氷が育む生態系  
 

1 北の海の動物たち
2 シャチを閉じ込めた流氷
3 南半球の海鳥をも養う豊饒の海
4 流氷が運ぶ動物たち

 
第2章
海と陸との意外なつながり  
 

1 サケ、ヒグマ、植物の“三角関係”
2 エゾシカの激増と生態系の変貌
3 世界一高密度なシマフクロウ

 
第3章
地球に残された「最後の秘境」  
 

1 ラッコの楽園
2 シャチとクジラたちの海
3 繁栄する海鳥たち
4 人間を恐れないアザラシ
5 トドの興亡

 
第4章
生態系に迫る脅威  
 

1 海峡を渡るタンチョウ
2 “国境”の密漁者たち
3 海鳥と海獣類にも及ぶ密漁の影響
4 国後島の金鉱開発
5 サハリン沖で油が流出すると…

 
終 章
自然遺産を守るために  
 

1 世界遺産「知床」の拡張構想
2 「監視療法」としてのエコツアー
3 持続可能な漁業

 

 おわりに

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
エビと日本人II 村井吉敬 新赤版1108
ウナギ 地球環境を語る魚 井田徹治 新赤版1090
日本の渚―失われゆく海辺の自然 加藤 真 新赤版613
孤島の生物たち―ガラパゴスと小笠原 小野幹雄 新赤版354
カラー版 シベリア動物誌 福田俊司 新赤版587
 
 
 



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