編集部だより






 

戦争絶滅へ、人間復活へ―93歳・ジャーナリストの発言
むのたけじ
聞き手・黒岩比佐子
(新赤版1140)

 
 
 

 40年前の出会い、そして「スットン罪」

 いま私の手元に、なんと40年も前に、むのたけじさんからいただいた手紙があります。消印の日付は「1968年10月30日」。当時、学生だった私が、大学のサークルの一員として、大学祭の講演を依頼したのに対する承諾のご返事です。その少し前、たまたま「8・15集会」(国民文化会議主催、東京・九段会館)で、むの氏の火を吐くような講演に衝撃を受け、その著書にも魅せられて始まったやりとりでした。

 その手紙には、演題を「現在に関する感想」とするように(「現在」とは、いうまでもなくベトナム戦争、安保・沖縄問題、大学問題の真っ最中、を意味します)、との指示とともに「聴衆の少ないことを望みます」とあり、いかにもむのさんらしいな、と思わせます。人が大勢集まるほど良い、といった通念から自由で、むしろ聴衆と講師が一体となった密度の濃いコミュニケーションをこそ目指すべし、というわけです。

 ちなみに、11月に行われたその講演会は、聴衆の数もほどほどで、熱気あふれるものとなりました。

 その時以来のおつきあいなのですが、たまたま出版社に入った私が、本の執筆を正式にお願いしたのは1989年のこと。政治を、教育を、ジャーナリズムを縦横に論じ、未来に生きる者への示唆と激励を、という趣旨でした。けれども、その後、視力の衰えなどもあって執筆は進まず、正直なところ、こちらは半分あきらめかけていたのです。

 ところが、昨年、事態は急展開。むの氏の信頼するノンフィクション作家・黒岩比佐子さんの質問に答える形なら……ということで、長時間インタビューが実現しました。

 その内容(当初の案からは少し変わりました)については、下記の「目次」からご想像願いますが、本文と併せて、ぜひともご注目いただきたいのが、巻末の11ページにおよぶ「結び書き」。ここだけは、「久しぶりに徹夜して」(!)自らペンを握って書いて下さったのです。

 しかも、これがめっぽう面白い。いや、刺激的、挑発的、というべきかもしれません。「青年期のしょっぱなにレーニンに恋し、毛沢東に恋した」むの氏は、「90歳を過ぎた今も毛沢東を愛し、レーニンに心を引かれている」。だから「私は両人を裁ける。裁く資格と責任を持つ」と言い放つのです。そして下される「判決」で、二人は「スットン罪」に……。このケッサクな名前の「罪」がどういうものかは、ぜひ本をお読みください。

(新書編集部 坂巻克巳)
 
 
 

■著者紹介
むのたけじ(本名・武野武治)氏は、1915年、秋田県に生まれる。東京外国語学校スペイン語科卒、報知新聞社を経て朝日新聞社に入社、記者として報道に携わった。1945年8月15日、戦争責任をとる形で退社し、1948年、秋田県横手市で週刊新聞「たいまつ」を創刊、1978年の休刊まで主幹として健筆を揮った。その後も、著作・講演などを通し、ジャーナリストとして活動している。
 著書に『たいまつ十六年』(理論社、1964年)、『詞集たいまつ(I〜V)』(評論社、1976〜2007年)、『戦争いらぬやれぬ世へ』(同、2007年)ほか。

     
 

■目次
 いま、93歳のジャーナリストは何を語るのか(黒岩比佐子)
  ―まえがきにかえて―

 
 
第1章
ジャーナリストへの道  
 

19歳で「社会主義者」の自覚を/弁論部で活動した学生時代/新聞記者の道へ/鍛えられた「ものを見る眼」/二・二六事件後の北一輝未亡人/「部落解放運動の父」松本治一郎/斎藤隆夫の反軍演説/五代目柳家小さんの落語

 
第2章
従軍記者としての戦争体験  
 

中国で見た徹底抗戦の意欲/従軍特派員としてインドネシアへ/体験者が語らない「本当の戦争」/慰安所の女性たち/蘭・豪・英軍による強姦と殺戮/沖縄戦における軍と民間人/従軍作家・画家の思い出/帰国後、魯迅の本と出会う/書けなかった東京大空襲/自己規制をする新聞社/終戦後に起こる帰還兵の自殺/「すりかえる」権力、「すりぬける」民衆

 
第3章
敗戦前後  
 

中止になった広島取材/8月10日の空襲後に見た光景/3日前に知った敗戦のニュース/敗戦と同時に新聞社を去る/朝日を辞めるべきではなかった/日露戦争後もけじめをつけなかった日本/戦争をやめさせた反戦運動はない/戦争の準備段階で計画をあばく/桐生悠々の『他山の石』をどう見るか/日本のジャーナリズムの現状

 
第4章
憲法9条と日本人  
 

憲法九条がもつ二重性/裁かれなかった人たち/占領統治に利用された天皇制/敗戦後は生きることだけに必死だった/自衛隊、教育、減反政策/「主語がない」状態での高度成長/軍隊をもたない国コスタリカ/人類と戦争の歴史/社会主義・共産主義の挫折/制度を変えても人間は変わらなかった/文化大革命時代の中国を訪問/ソ連を訪れて感じた失望/資本主義以外の何かが求められている/「ユートピア」という言葉への思い

 
第5章
核兵器のない世界へ  
 

人類を破滅に導く大量の核兵器/世界規模の人類運動へ/日米関係の見直し/沖縄の米軍基地の現状/占領期の三つの改革/格差社会、定職に就けない若者/"愚弄"されている老人たち/一人、一つ、一個から始める/個々の違いを認める社会へ/新しい歴史観をもって生きる

 
第6章
絶望のなかに希望はある  
 

「男天下」から「女中心」の社会へ/男と女の関係を見直す/「新しい日本人」の出現/高校生との対話で/中学生が実現させた講演会/外国の子を受容する小学生/彼らこそ「憲法九条っ子」だ/大人と子供の関係の変化/宗教は卒業する時期が来た/ブッダの教えとは違う「仏教」/93歳のいまが「人生のてっぺん」/所在不明になった日本の知識人

 
 結び書き(むのたけじ)
 
 

二人が三人になると…/資本主義よ、社会主義よ/レーニンと毛沢東を裁く/人類の岐路の前で/語り手としての思い

 

 むのたけじ・著書一覧

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
反骨のジャーナリスト 鎌田 慧 新赤版808
ジャーナリズムの思想 原 寿雄 新赤版494
戦争で死ぬ、ということ 島本慈子 新赤版1026
抵抗の新聞人 桐生悠々 井出孫六 黄版123
私の平和論―戦前から戦後へ 日高六郎 新赤版411
 
 
 



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