編集部だより






 

アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々
松本仁一著
(新赤版1146)

 
 
 

 人間をみつめた中間レポート

 アフリカは遠い。ついこの間の今年5月、横浜で日本政府主催の「アフリカ開発会議」が行われたばかりというのに、また7月の洞爺湖サミットではジンバブエの現状が議題に上ったというのに、私たちはこの大陸で今起きていることについて、確かな手触りのある情報をどれほど得ているでしょうか。

 本書の著者・松本仁一さんは、この30年近くにわたって、たびたびアフリカ各地に滞在し、新聞記者らしく「足で稼いだ」現地の情報を、日本エッセイストクラブ賞も受賞している筆力で発信し続けてきた、数少ない存在です。長くつとめた新聞社を退社した節目の年に、これからも続くジャーナリスト生活の「中間レポート」として、本書を書き上げました。

 たとえば冒頭でふれたジンバブエ。前年比16万パーセントという信じがたいインフレを引き起こし、国民生活が窮地におちいるに至ったのはなぜなのか。他の国々にも通じる「指導者層の腐敗」という病弊が明らかにされるとき、読者はその深刻さに頭をかかえざるを得ないでしょう。中国の官民あげての進出、貧困に押し出されるように国外に出た人々が日本にまで達しているという現実も描かれます。アフリカは近かった。そう思わされます。

 それでも人々は生きていく。その力は本来アフリカの人たち自身の中にあったものです。「ただで物を配る援助は絶対にやらない」をモットーに活動する農業NPO、貧困を逆手にとった旧黒人居住区観光ツアーを企画する若者たち。松本さんの人間をみつめた「レポート」から、あなたは何を感じ取るでしょうか。

(新書編集部 早坂ノゾミ)
 
 
 

■著者紹介
松本仁一(まつもと・じんいち)氏は1942年長野県生れ。1968年東京大学法学部卒業後、朝日新聞社に入社。社会部員、外報部次長、ナイロビ支局長、中東アフリカ総局長、編集委員を歴任した後、2007年に退職。以後もフリーのジャーナリストとして活動中。アフリカとのかかわりは、1980年に最初に取材に訪れて以来続いている。ボーン・上田国際記者賞、日本記者クラブ賞、日本エッセイストクラブ賞等を受賞。
 著書に『アパルトヘイトの白人たち』(すずさわ書店)、『空はアフリカ色』 『アフリカを食べる』 『アフリカで寝る』 『ユダヤ人とパレスチナ人』 『カラシニコフT』 『カラシニコフU』(以上、朝日新聞社)ほかがある。

     
 

■目次
 はじめに

 
  序 章 アフリカの今―ルムンバの夢はどこへ行ったか  
  ワニの川を渡って/1か月働いて卵2ダース/人口の4分の1が南アへ逃げていった/16万%を超えるインフレ率…
  第1章  国を壊したのは誰か―ジンバブエで  
  突然の「価格半減令」/ハンバーガー1個が3000万Zドル/医師も薬剤師も国外へ出ていった…/順調だった農業育成/「雨が降ったら開けろ」―農事普及員の活躍/政府が農業に無関心になった…
 


ジンバブエ、かつては豊かだった農地が放置され、野火で荒廃してしまった(写真:中野智明)

 
 
  第2章 危機に瀕する「安全」と「安心」―南アフリカ共和国で  
  政権の腐敗と治安の悪化/ヨハネスブルクのパトカーに同乗する/警官殺しが月15件/都市に流れ込む貧困層/7年後、再びパトカーで/新手の犯罪、カージャック/殺人は一日50人…
  第3章 アフリカの中国人―南アで、アンゴラで、スーダンで  
  「新植民地」システムの新しい主役/ギャングに狙われた中国人の店/同郷人頼りに、次々と海外へ/商機を黒人客に求める/「妻の幽霊が出るんだ」/残された借金4000ドルの後始末/ただ一人の中国人警官…
 


チャンスを求めて南アにやってきた中国人は30万人といわれる。
ヨハネスブルク市内にも「中華街」が(著者撮影)

 
 
  第4章 国から逃げ出す人々―パリで、歌舞伎町で  
  マリの村人、パリ郊外へ/パリに住む農協役員たち/パリ大学を出て夜警に/アフリカから新宿・歌舞伎町へ/仕入れてもいない酒に23万円の請求/在日アフリカ人の4人に1人がナイジェリアから…
  第5章 「人々の自立」をめざして―農村で、都市スラムで  
  「やる気」をうながすシステムづくり/「ただの援助」はしない/村人が自分で考える/政府の警戒と妨害/学校をつくる人々/ソウェトにできたレストラン/取り残された貧困地区で/「希望の山」の若者たち…
 


ジンバブエ南部の農村で。相談にのる農業NGOのスタッフ(写真:中野智明)

 
 
  第6章 政府ではなく、人々に目を向ける―ケニアで、ウガンダで、セネガルで  
  マカダミアナッツで年5000万ドル/失敗と改良を重ねながら/遅刻・無断欠勤なし、そして「給料遅配なし」/働く張り合いをつくる制度/「私なしでやっていけます」/ウガンダ最大のシャツ・メーカー…
 

 あとがき

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
現代の戦争被害―ソマリアからイラクへ 小池政行 新赤版903
人道的介入―正義の武力行使はあるか 最上敏樹 新赤版752
カラー版 難民キャンプの子どもたち 田沼武能 新赤版946
「民族浄化」を裁く―旧ユーゴ戦犯法廷の現場から 多谷千香子 新赤版973
ジャーナリズムの思想 原寿雄 新赤版494
 
 
 



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