編集部だより






 

子どもへの性的虐待
森田ゆり著
(新赤版1155)

 
 
 

 子どもをめぐる、悲惨な事件の報道があとを絶ちません。親をはじめ、周囲の大人も、いわば「不安の連鎖」の中で心細い日々を送っているといいます。中でも、性的虐待にかかわることは、真実に迫ること自体が至難で、日本においては、実態すらなかなか把握されていないのが実情といいます。

 いったい、こういった事件の背景に何があるのでしょうか。果たしてこの種の事件はここ数年急激に増えているのでしょうか。また、万一、その事態に直面した際には、私たち一人ひとりは、どのように対応すればいいのでしょうか?

 本書では、長年多数の当事者の方々と接し、この分野のパイオニアとして活躍されてきた第一人者である著者が、まず、子どもへの性的虐待の実態を見極め、抱かれがちな誤解を解く一方、この種の暴力の特徴とその深刻さを見ていきます。その上で、なぜ日本で適切な介入が困難なのか、解決のために何が求められるのか、考察していきます。

 「聴く」ということが、どれほど大切か、その際、何に注意しなくてはならないか、すぐに活かせる具体的で貴重なアドバイスもあります。さらに、社会がこれまでこの問題にどのように向き合ってきたか、その歴史的経緯もたどります。

 制度改革への緊急提言をも盛り込みつつ、孤立する当事者の方たちに力強いエールを送る、「心の救急箱」のような一冊です。

     
 

■著者からのメッセージ

 本書は、性的虐待がどのような深刻な問題を社会にあたえているかをわかりやすく述べると同時に、国レベルで、自治体レベルで、民間レベルで、個人レベルでそれぞれ何ができるのか、日本が今必要としている取組みを提言する。その際、常に忘れないでいたいのは、被害者の声であり、視点である。……人間のいのちの本質はやさしさにほかならない。やさしさとは私の生の鼓動とあなたの生の鼓動が響きあうことの喜びである。大地の身をよじる泣き声に耳を傾けることである。今、世界中で自然の生命力がうめき声をあげている。その声の中には人間の子どもたちの声も混じっている。

(「はじめに」より)
     
 

■著者紹介
森田ゆり(もりた・ゆり)早稲田大学卒業、Graduate Theological Union大学院卒業。1981年より、アメリカと日本で、子ども・女性への暴力防止専門職の養成に携わる。その後7年間、カリフォルニア大学主任研究員として、多様性、人種差別、性差別など人権問題の研修プログラムの開発と大学教職員への研修指導に当たる。日本にCAP(子どもへの暴力防止)プログラムを紹介。現在は、エンパワメント・センターを主宰し、行政、企業、民間の依頼で、多様性、人権問題、虐待防止などをテーマに日本全国で研修活動をする。「MY TREEペアレンツ・プログラム」(虐待する親の回復)を開発し、実践者を養成している。1988年に朝日ジャーナル・ノンフィクション大賞を受賞、1998年に産経児童出版文化賞を受賞、2005年に第57回保健文化賞受賞。
著書―『聖なる魂』(朝日文庫)、『エンパワメントと人権』(解放出版)、『子どもと暴力』(岩波書店)、『子どもが出会う犯罪と暴力』(NHK生活人新書)、『沈黙をやぶって』(築地書館)、『ドメスティック・バイオレンス―愛が暴力に変わるとき』(小学館文庫)など多数。

     
 

■目次
 はじめに

 
 
第1章
性的虐待の基礎知識  
 

定義は何か/どのくらい起きているのか/加害者はどんな人物か/性的虐待の兆候/被害を受けた子どもの心理/子どもにあたえる長期的影響/サバイバーという言葉の意味/自然な性行動か、性化行動か/心の応急手当て/聴くことのパワー

 
第2章
性的虐待の要因  
 

沈黙の共謀/加害の四つの前提条件/性差別社会

 
第3章
「小児性愛」という欺瞞  
 

「性愛」ではなく「暴力」/「ペドファイル」という病理/加害者はどのように子どもをだますのか/ミーガン法の弊害/若者への予防教育

 
第4章
子どもによる性的加害  
 

日本で起きた事件/子どもによる性的加害の事実/施設内の性暴力/効果的な対応/今に始まったことではない/事件の特異性

 
第5章
男子への性的虐待  
 

少年たちへ/男子への性的虐待の発生件数/特に考慮すること
【明けない夜はない】玄野武人
はじめに/記憶を思い出したころ/涙は心を洗う/ホームページを開設する/自助グループをはじめる/自助グループを通じての快復/おわりに

 
第6章
性的虐待対応の六つの困難性  
 

特別な困難性/ある里親の闘い/司法面接

 
第7章
子どもの話を聴く  
 

虐待のサインに気づいたら/開示は一連のプロセス/被虐待児との対話の技法/してはいけないこと

 
第8章
制度改革への提言  
 

疲弊する現場/性的虐待対応センターの設置/被害を受けた一〇代の子どもたちのための施設/子どもへの防止教育の実施/法律改正に向けて

 
第9章
発見と隠蔽の歴史は繰り返される―「女性の人権」から「蘇った記憶論争」まで  
 

「子どもの人権」と「女性の人権」/エレン・ケイの「児童の世紀」/ヴァージニア・ウルフの苦悩/アンナO/社会福祉事業家 ベルタ・パッペンハイム/お話の治癒力/ナチスへの抵抗/無言の約束/性的虐待の隠蔽から発見へ/フェミニズムの貢献/蘇った記憶への攻撃/記憶論争の背景

 
第10章
虐待を超える力―あるサバイバーの闘い  
 

蘇る記憶に翻弄される/「過誤記憶(フォールスメモリー)」と宣告されて/絶望の淵から立ち上がる/恐怖からの解放/いのちよ、ありがとう/回復へ向かうらせん状の力

 

 主要参考文献

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
少年事件に取り組む―家裁調査官の現場から 藤原正範 新赤版995
思春期の危機をどう見るか 尾木直樹 新赤版998
児童虐待―現場からの提言 川崎二三彦 新赤版1030
子どもが育つ条件―家族心理学から考える 柏木惠子 新赤版1142
壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか 金子雅臣 新赤版996
 
 
 



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