編集部だより






 

子どもの貧困―日本の不公平を考える
阿部 彩著
(新赤版1157)

 
 
 

 世代間連鎖を断ち切るために

 学力、健康、そして将来……。人生のスタート時点におけるさまざまな「不利」は、大人になっても人生に大きな影響を及ぼしてしまいます。今や、日本の貧困は、OECD諸国の中で、第2位の高さを占めるといいます。にもかかわらず、その「貧困」の実相はなかなか見えないというのが実情ではないでしょうか。
 本書では、そもそもどの程度の生活水準が「貧困」であり、貧困率はどのように計算されるのか、貧困世帯に育つことで子どもたちはどのような困難を抱えているのかを豊富なデータをもとに検証していきます。そして、「貧困の世代間継承」を断つために、今、緊急に求められる「子ども対策」を提唱していきます。
 本書のなかで紹介されるアンケート調査の「不安に思っていることは何ですか」という問に対し、あるシングルマザーは、下記のように答えていたそうです。

 「子供の大学進学を控えての経済的不安。派遣のため収入の増える見込みがないので自分の老後の蓄えをするよゆうがない。将来働けなくなったら、すぐ死んだ方が子どもにめいわくをかけないで済むのではないかと考える。」(母42歳、第一子15歳)

 著者が書いていらっしゃるように、「「子どものために早く死にたい」と、母親に言わせる社会は許されるべきではない」というほかありません。
 今すぐ、是非、社会全体で真剣に考えていただきたい、文字通り喫緊の課題です。

 
 
 

■著者からのメッセージ

 「子どもの貧困」は決して、ごく一部の特殊なケースに限られた現象ではなく、すべての人の身近にある問題である……。本書の目的は、日本の子どもの貧困について、できるだけ客観的なデータを読者に提供することである。データは、政治を動かす上でパワフルなツールである。これらのデータを精査しながら、「日本の子どもについて、社会が許すべきでない生活水準=子どもの貧困」が何であるかを、読者とともに考えていきたい。

(「はじめに」より)
     
 

■著者紹介
阿部 彩(あべ・あや)マサチューセッツ工科大学卒業。タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士号・博士号取得.国際連合(インド勤務)、海外経済協力基金を経て、1999年より、国立社会保障・人口問題研究所国際関係部第2室長に就任、現在に至る。2006年からお茶の水女子大学(社会保障論)、07年より日本女子大学(社会政策)の非常勤講師。厚生労働省社会・援護局地域福祉課「ホームレスの実態に関する全国調査検討会」委員(2006年)、内閣府男女共同参画会議監視・影響調査専門調査会「生活困難を抱える男女に関する検討会」メンバー(2008年)などを務める。研究テーマは、貧困、社会的排除、社会保障、公的扶助。『生活保護の経済分析』(共著、東京大学出版会、2008年)にて第51回日経・経済図書文化賞を受賞。他の著書に、『子育て世帯の社会保障』(共著、東京大学出版会)、『経済とリスク(リスク学入門)』(共著、岩波書店)、『社会的排除/包摂と社会政策』(共著、法律文化社)など。

     
 

■目次
 はじめに

 
 
第1章
貧困世帯に育つということ  
 
なぜ貧困であることは問題なのか
貧困と学力/貧困と子育て環境/貧困と健康/貧困と虐待/貧困と非行/貧困と疎外感
貧困の連鎖
大人になってからも不利/一五歳時の暮らし向きとその後の生活水準/世代間連鎖
貧困世帯で育つということ
貧困と成長を繋ぐ「経路」/さまざまな「経路」/やはり所得は「鍵」
政策課題としての子どもの貧困
求めるのは格差を縮小しようという姿勢
 
第2章
子どもの貧困を測る  
 
子どもの貧困の定義
相対的貧困という概念/相対的貧困の定義/貧困率と格差
日本の子どもの貧困率は高いのか
社会全体からみた子どもの貧困率/国際比較からみた日本の子どもの貧困率
貧困なのはどのような子どもか
ふたり親世帯とひとり親世帯/小さい子どもほど貧困なのか/若い親の増加と子どもの貧困率/「貧乏人の子沢山」は本当か/親の就業状況が問題なのか
日本の子どもの貧困の現状
 
第3章
だれのための政策か―政府の対策を検証する  
 
国際的にお粗末な日本の政策の現状
家族関連の社会支出/教育支出も最低レベル
子ども対策のメニュー
政府の子育て支援策/「薄く、広い」児童手当/縮小される児童扶養手当/保育所/教育に対する支援/生活保護制度
子どもの貧困率の逆転現象
社会保障の「負担」の分配/子どもの貧困率の逆転現象/負担と給付のバランス
「逆機能」の解消に向けて
 
第4章
追いつめられる母子世帯の子ども  
 
母子世帯の経済状況
母子世帯の声/一七人に一人は母子世帯に育っている/貧困率はOECD諸国の上から二番目/母子世帯の平均所得は二一二万円/非正規化の波/不安定な養育費
母子世帯における子どもの育ち
平日に母と過ごす時間は平均四六分/「みじめな思いはさせたくない」/母子世帯特有の子育ての困難さ
母子世帯に対する公的支援―政策は何を行ってきたのか
「母子世帯対策」のメニュー/「最後の砦」の生活保護制度/二〇〇二年の母子政策改革/「五年」のもつ意味/増える出費
「母子世帯対策」ではなく「子ども対策」を
 
第5章
学歴社会と子どもの貧困  
 
学歴社会のなかで
中卒・高校中退という「学歴」
「意識の格差」
努力の格差/意欲の格差/希望格差
義務教育再考
給食費・保育料の滞納問題/「基礎学力を買う時代」/教育を受けさせてやれない親/教育の「最低ライン」
「最低限保障されるべき教育」の実現のために就学前の貧困対策/日本型ヘッド・スタートの模索
 
第6章
子どもにとっての「必需品」を考える  
 
すべての子どもに与えられるべきもの
「相対的剥奪」による生活水準の測定/子どもの必需品に対する社会的支持の弱さ/日本ではなぜ子どもの必需品への支持が低いのか
子どもの剥奪状態
剥奪状態にある子どもの割合/子どもの剥奪と世帯タイプ/親の年齢と剥奪指標/子どもの剥奪と世帯所得の関係/子どものいる世帯全体の剥奪
貧相な貧困観
 
第7章
「子ども対策」に向けて  
 
子どもの幸福を政策課題に
子どもの幸福度(ウェル・ビーイング)/子どもの貧困撲滅を公約したイギリス/日本政府の認識/「子どもと家族を応援する日本」重点戦略
子どもの貧困ゼロ社会への11のステップ
1 すべての政党が子どもの貧困撲滅を政策目標として掲げること/2 すべての政策に貧困の観点を盛りこむこと/3 児童手当や児童税額控除の額の見直し/4 大人に対する所得保障/5 税額控除や各種の手当の改革/6 教育の必需品への完全なアクセスがあること/7 すべての子どもが平等の支援を受けられること/8 「より多くの就労」ではなく、「よりよい就労」を/9 無料かつ良質の普遍的な保育を提供すること/10 不当に重い税金・保険料を軽減すること/11 財源を社会が担うこと
いくつかの処方箋
給付つき税額控除/公教育改革
「少子化対策」ではなく「子ども対策」を
 

 あとがき
 主要参考文献

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
格差社会 何が問題なのか 橘木俊詔 新赤版1033
労働ダンピング 中野麻美 新赤版1038
人間回復の経済学 神野直彦著 新赤版782
ルポ 貧困大国アメリカ 堤未果 新赤版1112
反貧困―「すべり台社会」からの脱出 湯浅誠 新赤版1124
日本の経済格差―所得と資産から考える 橘木俊昭 新赤版590
 
 
 



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