編集部だより






 

ジャーナリズムの可能性
原 寿雄著
(新赤版1170)

 
 
 

 高まるメディア不信―いま「報道の力」を問い直す

 著者の原さんは、1997年に岩波新書『ジャーナリズムの思想』を刊行されました。この本は、国内外の様々な事例を取り上げながら「そもそも、ジャーナリズムとは何か」という本質的な問題について、豊富な現場体験をもとに考えたものです。ジャーナリズムを知るため、考えるための基本書として、現在も広く読まれています。

 前著から10年余り。本書『ジャーナリズムの可能性』では、前著以降のメディアをめぐる動きを鋭くとらえています。そこに描かれた事例を見れば、マスメディアの劣化は深刻だと感じざるをえません。権力との癒着、権力に対する鋭い批判の不在、事件が起きるとメディアがこぞって押し寄せるメディアスクラムの横行、事件の容疑者や加害者に対する激しいバッシング一辺倒の報道、強まる自己検閲、捏造や盗用の不祥事などなど。

 また、メディア状況にも大きな変化が訪れています。これまで不特定多数に情報を発信できるのはマスメディアに限られていましたが、現在では、インターネットが普及し、マスメディアに頼らずとも情報を素早く受け取ることができます。また、個人がブログなどを使い、多くの人に向けて情報を発信できる時代となっています。

 こうした状況にあって、マスメディアに対する不信は高まりつづけ、「もうマスメディアなどは要らない」「マスメディアは役割を終えた」という声さえも聞こえてきます。いま、マスメディアは、報道は、何を目指すべきなのでしょうか。

 原さんは、いまこそジャーナリズムの原点に返って、マスメディアがジャーナリズムを積極的に取り戻すべきだと強く主張します。なぜジャーナリズムが必要なのか、ジャーナリズムが再生するために何が必要なのか、いま何をすべきかのかなど、鋭い提言が本書にはたくさん盛り込まれています。そこには、ご自身が長年にわたってジャーナリストとして活動され、そして、現在もメディアの問題をご自身の問題としてとらえている、原さんの強い問題意識が感じられます。基本書である前著『ジャーナリズムの思想』の、いわば「応用編」といえるのかもしれません。

 現役の記者、報道関係者などメディアに携わる人はもちろんですが、日々メディアに接し、情報を受け取っている一般の方々にも広く読んでいただければと思います。メディアを見る眼を鍛えること、そのこともジャーナリズムを取り戻すための大切な一歩だと感じます。

     
 

■著者紹介
原 寿雄(はら・としお)1925年神奈川県生まれ。1950年東京大学法学部卒業。(社)共同通信社社会部記者、バンコク支局長、外信部長を経て77年に編集局長、85年に専務理事・編集主幹。1986年から92年まで(株)共同通信社社長、1994年民放連放送番組調査会委員長、2000年「放送と青少年に関する委員会」委員長。
 著書―『ジャーナリズムの思想』(岩波新書)、『メディアの内と外』(共編、岩波ブックレット)、『職業としてのジャーナリスト』(共著、「ジャーナリズムの条件」第1巻、岩波書店)、『デスク日記』(T―X、みすず書房、筆名=小和田次郎)、『新聞記者の処世術』、『それでも君はジャーナリストになるか』『新しいジャーナリストたちへ』『ジャーナリズムは変わる』(以上、晩聲社)、『市民社会とメディア』(リベルタ出版)、『報道の自由と人権』(編著)、『メディア規制とテロ・戦争報道』(共著、以上、明石書店)ほか。

     
 

■目次
 はじめに

 
 
序 章
問われるジャーナリズムの権力観  
 

読売大連立工作が意味するもの/自ら作った新聞倫理綱領に違反/歪んだ権力との距離/ジャーナリストの一線を踏み超えて/鋭い批判の不在/日本の政界ジャーナリズム/首相記者会見を指南した記者/報道人はステージに上がらない職業/徳富蘇峰との相似形

 
第1章
権力監視はどこまで可能か  
 

政権交代とジャーナリズムの力/リクルート事件と調査報道/言論報道の影響力をどう評価するか/イラク戦争とジャーナリズム/警察裏金批判報道/北海道新聞の「敗北」とジャーナリズムの責任/権力監視の可能性/多様化する「権力」のリベンジ

 
第2章
強まる法規制と表現の自由  
 

メディア規制の出発点/日米同盟の強化と軍事秘密保護の拡大/ジャーナリストが逮捕される日/個人情報保護法とメディア規制/活発化する権力による萎縮効果/裁判員法にみるメディア規制/裁判とジャーナリズム/冤罪を追及する力/原告ジャーナリズムからの脱却

 
第3章
ジャーナリズムの自律と自主規制  
 

報道への露骨な直接介入と懐柔策/「編集権の自律」を歪めたNHK番組改変事件/自主規制の連鎖をもたらす空気=^真実追求のための「自主規制」/「編集の自由」を口実にした「自己検閲」/タブー幻想による報道規制/天皇の戦争責任をめぐる報道/タブーに挑戦した高知新聞

 
第4章
放送ジャーナリズムを支えるもの  
 

視聴率に支配されるテレビ/番組捏造と制作の下請け構造/保護法としての放送法の変質/「行政権」という介入/公平性か多様性か/誰が「事実」を判断するのか/公共放送か、国営放送か/視聴者のチェック・システムをどう確立するか/NHKvs政治の歴史/いまのNHKの意義は/視聴者を顧客からパートナーへ

 
第5章
世論とジャーナリズムの主体性  
 

世論が暴走するとき/イラク人質事件と自己責任論/光市裁判と報道/満州事変で国益論に屈した歴史/9・11同時テロとアメリカの愛国報道/「国民とともに立たん」の危険性/メディア不信をどうみるか/世論調査の政治性/新たな世論調査の試み

 
第6章
ジャーナリズムは戦争を防げるか  
 

戦争への道を止められるか/9・11テロとアメリカ人の意識/九条ジャーナリズムの可能性/国益論の壁/戦時こそ必要な「知る権利」/イラク戦争に見るBBCと日本メディアの差/戦時報道とジャーナリズム/エンベット従軍報道の問題性/「国籍・国民ジャーナリズム」からの脱却/ペンかパンか

 
第7章
ジャーナリズム倫理をいかに確立するか  
 

ジャーナリストでなければできない仕事/私にとってのジャーナリズムの原点/問われるジャーナリズム倫理の問題点/情報源の明示/無断録音をどう考えるか/『週刊朝日』の武富士裏広告費事件の背景/自由主義ニュース価値観の変革/メディア関係者の不祥事をどう考えるか/自らの公共性にどう向き合うか

 
終 章
ジャーナリズムをいかに再生させるか  
 

情報の氾濫とジャーナリズム/職業としてのジャーナリストの地位確立/記者クラブの囚人にならないために/読者・視聴者・市民にできること/批判的市民は表現の自由のサポーター/新聞の未来を予測する四つのシナリオ/民主主義の未来とジャーナリズム


  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
ジャーナリズムの思想 原 寿雄著 新赤版494
新聞は生き残れるか 中馬清福著 新赤版833
テレビの21世紀 岡村黎明著 新赤版830
NHK―問われる公共放送 松田 浩著 新赤版947
報道被害 梓澤和幸著 新赤版1060
 
 
 



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