編集部だより






 

ルポ 雇用劣化不況
竹信三恵子著
(新赤版1181)

 
 
 

 貧困、解雇、過労死……労働現場は、いま

 「日本経済は危機的な状況にある」「日本経済を、いまどう再建するか」……。テレビのニュースや新聞では、こんな言葉が飛び交っています。特に昨年(2008年)来の「世界金融危機」の勃発以降、こうした言葉を目にし、耳にする機会は増えていると思います。あるいは、「日本経済」を「日本企業」と言いかえてみても、よいかもしれません。

 「日本経済」も「日本企業」も抽象的な概念です。しかし、それらを支えているのは、まぎれもない労働者一人一人、そう「人間」なのです。こんな常識的な前提が、いま日本社会では通用しなくなっているようです。「日本経済を再建する」ために、日本の政治や企業は何をしてきたのでしょうか。非正規雇用の増大、大幅な賃下げ、解雇……。すなわち「日本経済」「日本企業」を支える労働者を使い捨てにし、彼らの人間らしい生活を奪うことで対応してきたのではなかったでしょうか。昨年末に発生した大量の「派遣切り」は、そのあまりにも象徴的なできごとです。

 しかし、経済や企業の支え手の部分をとことん弱体化させてしまえば、企業の力は奪われます。そして、企業、日本経済はさらなる不況に追い込まれる―。

 本書は、朝日新聞編集委員の竹信三恵子さんが、長期にわたり、日本の労働現場の実態を綿密に取材してきたルポです(労働問題を鋭く追究してきた竹信さんの活躍には、今年(2009年)「貧困ジャーナリズム大賞」が与えられています)。過酷な労働状況が日本社会にどんな影響をもたらしているのか、ミクロ、マクロ双方の視点から浮き彫りにしていきます。また、つい先月(3月)に行ったヨーロッパ取材をもとに、デンマークなどヨーロッパ各国が労働問題にどう対応しているか、最新の状況も報告されています。日本の今後を考えるうえで、たくさんのヒントが与えられるでしょう。まず実態を知るためにも、ぜひ多くの方に読んでいただければと思います。

(新書編集部 田中宏幸)
     
 

■著者紹介
竹信三恵子(たけのぶ・みえこ)氏は、1976年、朝日新聞入社。経済部記者、シンガポール特派員、学芸部次長、総合研究センター主任研究員などを経て、2007年4月から朝日新聞編集委員。2009年、「貧困ジャーナリズム大賞」受賞。
 主著に『日本株式会社の女たち』(1994年、朝日新聞社)、『女の人生選び』(1999年、はまの出版)、『ワークシェアリングの実像』(2002年、岩波書店)など。共著として『「家事の値段」とは何か―アンペイドワークを測る(1999年、岩波ブックレット)など。

     
 

■目次
 

 
 
序 章
賃下げ依存症ニッポン  
 

人件費削減頼み/消費不況/会社と働き手の糸が切れる/雇用の劣化が招いた不況

 
第1章
津波の到来  
 

「派遣切り」の連鎖/仕事が切れたら住まいも失う/とまらぬ津波/トヨタの足元で/名古屋への大移動/「政治災害」/押し流される権利/ホテルの自主営業/「足元がふわふわする」

 
第2章
労災が見えない  
 

二十四歳のホームレス/抗議の手紙で解雇/雇い主と、働く場が違う/箱詰め事件/けがを軍手で隠して放置/事故も自己責任/「ボクがはねました」/母は「前近代」、父は「規制緩和」/赤チン労災/ものづくり現場の不安/部品は危険を知らせない/労災急増のかげで

 
第3章
しわ寄せは「お客様」に  
 

パート店員の失望/資格をとっても時給九百円/十を越す欠陥/パートの「有効活用」/非常勤が「責任者」/無視される提案/ガイドなしの山岳ツアー/「美空ひばり」より「モーニング娘。」/専門職受難/子どもと向き合うひまがない/人が育たない/絶たれる技術の継承

 
第4章
「公」が雇用をつぶすとき  
 

「官製ワーキングプア」/食べられない水準の保険報酬設定/「タダの家事」基準に設定/労災保険や年休、感染症対策も不足/進む介護離れ/人件費切り下げで成り立つビジネス/納税者を育てる視点/公務パートの激増/「なんちゃって行政指導」/非正規職員の待遇改善の試み/国が「待った」/競争入札のしわ寄せ/「大黒柱」が支え/公契約条例の動きも

 
第5章
「名ばかり正社員」の反乱  
 

十年社員が新人並みに/効率経営の内実/年三千時間働いて三百万円/病気をしたら終わり/全員に管理職の肩書き/ホワイトカラー・エグゼンプション/労働時間の規制緩和/若者に広がる「名ばかり正社員」/正社員の労働条件の劣化/ミドルの反撃/倒れる管理職/強いられる「上意下達」

 
第6章
労組の発見  
 

「ビロードの大量解雇」/経営者にレッドカード/「枯れた井戸から水はくめない」/行き過ぎた労使協力/連続四日の「深夜勤」/労組の目標に「生産性運動」/「ユニオン」という形/広がるユニオン/ユニオンYes!/映像で労働運動/反貧困との連動/そして「派遣村」へ

 
終 章
現実からの再出発  
 

「解雇の自由な国」の実状/派遣社員の均等待遇/安全ネットなき柔軟化/責任をとらない市場主義/「よりまし」を求めて

 

 あとがき

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
反貧困―「すべり台社会」からの脱出 湯浅 誠著 新赤版1124
格差社会 何が問題なのか 橘木俊詔著 新赤版1033
労働ダンピング―雇用の多様化の果てに 中野麻美著 新赤版1038
ルポ 解雇―この国でいま起きていること 島本慈子著 新赤版859
働きすぎの時代 森岡孝二著 新赤版963
 
 
 



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