あの世とこの世の境で 彼らは語った
もっとも有名な「琵琶法師」といえば、小泉八雲の怪談で知られる「耳なし芳一」でしょう。平家の怨霊に夜な夜な呼び出されて墓場で「平家物語」を語り、霊から逃れるために体じゅうに経文を書きつけて身を隠したものの、唯一経文を書き忘れた耳を奪われてしまった芳一。この物語は、単に有名な怖い話というだけでなく、平安時代からごく最近までこの日本列島に実在した琵琶法師たちのありようを良く象徴するものだといいます。
著者によれば、「物語」のはじまりは「モノ語り」、すなわち死者の霊(=モノ)の声を聴きとり、その声を代弁して語ることでした。琵琶を演奏して歌う芸能民であると同時に、祈祷によって怨霊や祟りを鎮める民間の宗教民であった琵琶法師たちは、そのほとんどが盲目で、「耳」を媒介に世界とかかわる人びとでもありました。彼らの耳が感じとった世界は、まさしく物語の原初のすがたとして、さまざまに語られたのです。あるときは皇族や将軍のお付きの演奏者として、あるときは路地を放浪する最貧の法師として、彼らが担った「声の文化」とは、どのようなものだったのでしょうか。
本書には「最後の琵琶法師」と言われる山鹿良之氏(1901〜96)の演唱DVDを付録としてつけました。かなり晩年の記録ではありますが、観ているうち、次第に「別の世界」に惹きこまれ、琵琶法師たちの芸能がもった強烈な磁力の一端を感じさせます。貴重な実演の記録をお楽しみください。
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