編集部だより






 

ヘイト・スピーチとは何か
師岡康子著
(新赤版1460)

 
 
 

 言葉の暴力か 表現の自由か

■著者からのメッセージ

 「うじ虫ゴキブリ朝鮮人」「韓国人は皆殺し」―このようなヘイト・スピーチでマイノリティを攻撃し差別を煽動する排外主義デモが各地で行われ、インターネット上に同様の表現があふれています。日本では表現の自由として保障されているからです。

 「ヘイト・スピーチ」という言葉は2013年流行語大賞のベスト・テンに入りましたが、未だその意味は正確には理解されていません。それが、法規制をめぐる議論にも混乱を招いています。本書では、アメリカでこの言葉が生まれた経緯、国際人権法が違法とした経緯、ヘイト・スピーチが歴史的・現実的にもたらしてきた害悪などから、ヘイト・スピーチとは何かを検討しています。ヘイト・スピーチは単なる不快な表現ではなく、国籍、民族、性などの属性を理由に、マイノリティの人間としての尊厳を否定する言葉の暴力であり、差別や暴力を社会に蔓延させる差別煽動であり、歴史的にジェノサイドや戦争を引き起こしてきたのです。

 日本はこれまでヘイト・スピーチをはじめとする差別の問題に正面から取り組んで来ず、野放しにしてきました。ヘイト・スピーチの放置は、自死に至るほどのマイノリティの苦しみを放置することです。「表現の自由か法規制か」という100かゼロかの議論から、日本社会が差別とどう向き合い、差別をなくすために何をすべきか、どのような法制度を作るべきかという具体的な検討に踏み出すため、本書が役立つことを願っています

     
 

  

   左:2013年3月17日「春のザイトク祭り 不逞鮮人追放キャンペーン デモ行進 in新大久保」
 右:同年6月30日「在日外国人犯罪者追放デモ in 新大久保」でのヘイト・スピーチプラカード
 
     
 

■著者紹介
師岡康子(もろおか・やすこ)2003〜07年日本弁護士連合会人権擁護委員会委嘱委員、東京弁護士会外国人の人権に関する委員会委員、枝川朝鮮学校取壊し裁判弁護団。07年ニューヨーク大学ロースクール、08年英キール大学大学院、10年キングズカレッジ・ロースクール留学。大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員、国際人権法学会所属。外国人人権法連絡会運営委員。
 共著書に『なぜ、いまヘイト・スピーチなのか』(前田朗編著、三一書房)、『今、問われる日本の人種差別撤廃 国連審査とNGOの取り組み』(反差別国際運動日本委員会編集・発行)、『外国人・民族的マイノリティ人権白書2010』(外国人人権法連絡会編、明石書店)ほか。

     
  ■目次   
     
   はじめに  
 

 

 
 
第1章
蔓延するヘイト・スピーチ  
  1 マスメディアに登場した「ヘイト・スピーチ」
2 京都朝鮮学校襲撃事件
3 狙われるマイノリティ
   
 
第2章
ヘイト・スピーチとは何か  
  1 ヘイト・スピーチの定義
2 ヘイト・スピーチの害悪―傷つけられるマイノリティ
3 ジェノサイドの経験と国際社会の認識
   
 
第3章
法規制を選んだ社会  
  1 イギリス―多民族社会の模索
2 ドイツ―負の歴史と向き合う
3 カナダ―国際人権基準からみた一つのモデル
4 オーストラリア―多文化主義への転換
   
 
第4章
法規制慎重論を考える  
  1 アメリカ合衆国の選択
2 日本における法規制慎重論
3 法規制慎重論の検討
   
 
第5章
規制か表現の自由かではなく  
 

1 現行法で対処可能なのか
2 包括的な制度構築―調査、差別禁止法、救済制度
3 ヘイト・スピーチ規制条項の検討

   
   あとがき
 主要参考文献
 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
在日外国人 第三版―法の壁、心の溝
田中 宏 新赤版1429
異邦人は君ヶ代丸に乗って―朝鮮人街猪飼野の形成史 金 賛汀 新赤版311
朝鮮人強制連行 外村 大 新赤版1358
変えてゆく勇気―「性同一性障害」の私から 上川あや 新赤版1064
沖縄現代史 新版 新崎盛暉 新赤版986
 
 
 
 
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