編集部だより




 


追悼・石川真澄さん

石川真澄著『戦後政治史 新版』(新赤版904)

 
     
   「朝日新聞に石川真澄という数字に強い男がいる。政治記者だが、実にたくさんの数字やデータをつかんでいるんだ。ぜひ会ってみるといいよ」。松下圭一氏(現在、法政大学名誉教授)からそう教えられたのは、かれこれ30年近くも前のことでした。
 その後しばらくして石川さんとのお付き合いが始まり、『データ戦後政治史』『戦後政治史』(いずれも新書)のほか、『いま、政党とは何か』(ブックレット)、『堕ちてゆく政治』(単行本)などが生まれています。

 石川さんは、決して「数字に強い」だけではありませんでした。その鋭い日本社会論や選挙分析の中から「土建国家」や「絶対得票率」なるキーワードが生まれ、また何よりも、十数年前の「政治改革」論議の中で小選挙区制導入に強い反対論を繰り返し展開したのはよく知られています。
 そんなコワモテのジャーナリストである一方、バードウォッチングや釣りを愛する人でもありました。雑談の中でそんな意外な一面を知らされたときは、ちょっと嬉しく思ったのを覚えています。昆虫にも詳しかったようで、20年ほど前、たまたま私が都心から郊外に転居したことを伝えると、「そう、あのあたりならカンタン(コオロギの仲間)が簡単に見つかるよ」と、オヤジ・ギャグを意識してか、ちょっと照れ笑いしながら教えてくださったものです。
 さらに、つい最近、「朝日」時代の石川さんの同僚に教えられたのですが、文学や音楽にも造詣が深く、周囲の人を驚かせたそうです。北九州在住の若い頃には、行きつけのバーの「テーマソング」(というのも珍しいですが)を作詞してあげたというエピソードまであるのだとか。音楽好きの私としては、ぜひとも聴いてみたいところですが、作詞者亡き今となっては、恐らくかなわぬ願いでしょう。

 硬と軟、あるいは剛と柔。その図式を石川さんの「本業」と「趣味」に分けてあてはめてしまったら、しかし、それは単純すぎるでしょう。日本の政治や選挙制度、そして野党や社会民主主義を論じる際も、時にきっぱりと原則をつらぬき、時にとことん柔軟な思考を提起する、そんな「本業」のありようそのものが、言論人としての石川さんの魅力だったように思うのです。しかも、いまふりかえれば、それらの活発な発言は、その全体にわたって的を射たものであったと思わずにはいられません。
 
 

(新書編集部 坂巻克巳)
 
  新刊の紹介へ  
     

 

Copyright 2003 Iwanami Shoten, Publishers. All rights reserved. 岩波書店