■若者の殺人率低下の進化生物学的考察
戦後日本社会は,殺人率のいちじるしい低下をもたらした.とくに,どの文化でも高い男性の若者による殺人率が戦後日本で低いことは特徴的である.いっぽう,学歴社会のなか中高年男性の殺人率が若者のそれよりも高いこと,母親による嬰児殺しの比率が諸外国と比べて高いことも,戦後日本社会の特徴だ.(長谷川寿一氏・長谷川眞理子氏,p.560)
■コウノトリが住む豊岡はよみがえるか
野生ニホンコウノトリ絶滅の地となった兵庫県豊岡では,コウノトリと人間が共生できる社会づくりが,コウノトリの郷公園に集まる市民,農業者,研究者らによって進められている.飼育繁殖が順調に進んだつぎの段階では,放鳥されたコウノトリが生息できる環境の再生が必要だ.最新設備による遺伝学的研究や環境社会学的な聞き取り調査などによって,必要な知見を整理する第一歩が踏み出された.(池田啓氏,p.569)
■動物にも劣らない植物の生体防御機構
異物が拡がるのを抑える抵抗性遺伝子の存在,一度感染をうけたウイルスの遺伝子配列をなんらかの形で“記憶”し,それと似た配列の遺伝子が発現することを抑える現象など,動物の免疫系にも匹敵するような植物の生体防御機構が明らかになってきた.(渡辺雄一郎氏,p.579)
■里山の変遷を手に取るように表わす
愛知“環境万博”予定地の“海上の森”を,航空写真を利用した5mメッシュの高精度地理情報システムで解析した結果,終戦直後の禿げ山がある程度広がった状況から植生が回復してきたようすが把握できた.より詳細な50cmメッシュ解析とあわせ,森の変遷の定量的な把握と予測が可能になるだろう.(鈴木康弘氏・半田暢彦氏・山本一清氏,p.587)
■小脳は知性をどう学習するか
小脳には,学習によって,道具使用,言語,思考などの脳の高次機能を実現する内部モデルが獲得されることがわかってきた.フィードバック誤差学習理論による予測は,実際に観測される脳の活動記録とよい一致を示している.(第2回,川人光男氏・銅谷賢治氏・春野雅彦氏,p.598)
■原子力の経済効率重視の先にみえてくるものは?
日本の原子力産業は,JCOの事故によって安全性の面で国民の信頼をいちじるしく失った.いっぽう,国際競争の激化に伴い経済性を高めることが求められている.この経済性と安全確保という両立しがたい課題に対して,原子力産業が真に自立していくことで活路が開ける可能性もある(鈴木達治郎氏,p.607)が,経済性至上主義が現場をさらに蝕ばみ,事故が多発するという強い懸念もある(桜井淳氏,p.613).