スノーボール・アース仮説へのアメリカでの反響

 ノーボール・アース仮説が再登場して1年半が経ち,北米圏の研究者の間でも反響が高まっている.地球史の大きな謎とされたさまざまなできごとが,一つのだいたんな仮説で解決されるならば,K/T境界問題をしのぐ地質学上の大飛躍になるにちがいない.科学雑誌‘Science’編集部のR. A. KERR氏は,各地の研究室へ赴き,この仮説に対する研究者の反響を取材している(Science, 287, 1734(2000)).

 ミシガン大学のJ. WALKERは,“(スノーボール・アース仮説は)これらの謎に対する妥当な説明を与える”として,好意的に受け止めているが,多くの研究者は強い関心を示しているものの,仮説の真偽に関しては半信半疑だ.たとえば,カナダの古生物学者,G. NARBONNEは,“この仮説は好奇心をそそるものであり,重要でかつ挑発的であるが,私はまだ(学界で)受け入れられたとは思っていない”と語る.ペンシルバニア州立大学のL.KUMPも“提案はたいへん魅力的だが,彼らが正しい物語を手に入れたとは思っていない”と主張する.これに対し,P. F. HOFFMANは,“これまで謎とされてきたできごとは,(スノーボール・アース仮説から)導かれる合理的な帰結であり”,“一連の謎を抱えているとき,それらに一つの仮説によって妥当な説明を与えられるならば,この仮説は非常に魅力的だといわなければならない”と応じている.

 ところで,最近古地磁気学的研究では大きな進展があった.スノーボール・アース仮説に批判的な立場をとっていたラモント-ドハティ地球観測所のL. SOHLら(Geol. Soc. Am. Bull., 111, 1120(1999))は,南オーストラリアの氷河堆積物の古地磁気学的研究をおこない,この氷河堆積物が低緯度で形成されたことを確かめたのである.しかも彼らが用いた試料から,当時おこった地球磁場の逆転の記録が読みとれた.すなわち,少なくともオーストラリアの氷河堆積物の磁化については,堆積時の磁化ではなく堆積後長い時間が経過してから獲得されたものだという批判が退けられたことになる.

 しかし,全球凍結状態における生物の適応戦略はどのようであったのか,縞状鉄鉱床や炭酸塩岩が氷河堆積物の直上だけでなく,間に挟まっていることの意味など,解明すべき課題は多い.HOFFMANや彼の共同研究者たちは,全球凍結状態における地球システムの挙動は複雑で,気候モデルが描く世界像は単純すぎると考えている.いずれにしても,スノーボール・アース仮説の検証は,ナミビアの地質調査に端を発し,現在カナダ北西部,中国,スピッツベルゲンなどの調査へと拡大している.

 K/T境界の恐竜絶滅に関する小惑星衝突説では,ユカタン半島にクレーターが発見され,広く人々が受け入れるようになるまでに10年の歳月が流れた.スノーボール・アース仮説の検証作業も,これから正念場を迎えることになるだろう.過去の関連時事あり2000年1月号へ

*無断転載を禁じます(岩波書店‘科学’編集部:kagaku@iwanami.co.jp).

5月号(小特集:7億年前に地球は全球凍結状態におちいったか)
目次へもどる

‘科学’ホームページへもどる

ご購読の案内はここをクリック


岩波書店ホームページへ