1998年10月3日,群馬県富岡市で開催された日本哺乳類学会1998年度大会総会において‘移入哺乳類への緊急対策に関する要望書’が決議され,関係機関(総理府,環境庁,厚生省,農林水産省,通産省,北海道・沖縄開発庁とアライグマ,マングース,ヤギの3例に関わる6都道県(東京都,北海道,愛知県,岐阜県,鹿児島県,沖縄県))に送付された.
現在,日本では,在来哺乳類105種に対して,約40種の移入哺乳類(国内における非生息地への移入を含む)が記録されている.その多くは,ペットや家畜の逃亡・放逐,あるいは安易な天敵導入が発端となって定着したものである.これらの移入哺乳類は,農林水産業への加害や人獣共通感染症の媒介によって人間社会に直接的な被害をもたらすだけでなく,在来種の減少・絶滅,在来近縁種との交雑による遺伝子汚染,自然植生の改変などによって,わが国の生物多様性の減少を招いている.
要望書では,アライグマ,ヤギ,マングースの3種が,速やかな駆除を緊急に要する種に指定された.アライグマは,原産地の北アメリカにおいて狂犬病の主要な媒介動物であること,人にも感染するアライグマ回虫がペット個体から発見されていることから,人獣共通感染症の新たな保因動物となる危険性が指摘されている.また,ヤギでは,採食や踏みつけによって自然植生が劣化し,固有種が多く脆弱な島嶼生態系に大きな影響を及ぼしていること,マングースでは,アマミノクロウサギなどの特別天然記念物,絶滅危惧種,その他の在来種を捕食することで生物多様性を減少させていることが指摘されている.
日本が1993年に批准した生物多様性条約では,締約国は,生態系,生息地もしくは在来種を脅かす移入種の導入防止・制御もしくは撲滅につとめることとされている.また,世界自然保護連合(IUCN)が作成した移入種規制の指針では,移入種は定着後の管理がきわめて困難であるため,移入の予防措置に重点を置くこととされている.しかし,この問題へのわが国の対応は,いまだ制度的にも手法的にも不十分であり,事態は,対応の遅れと昨今の珍奇な動物種のペットブームによって悪化の一途をたどっている.既存の国内法の整備とともに,動植物の移入や野外への放逐を規制するための新しい法律の制定が急務である.また,移入種問題の啓発と普及,動物飼育者に対する飼育管理の徹底と責任意識の向上を促すことも重要である.すでに定着した移入種を制御するために,駆除は必要不可欠の手段であるが,駆除個体の処理については,動物福祉の観点から十分な注意を払うことが求められている.
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