■ 最新号より
◎論理は議論の前提であり、論理と議論は学問の基盤です。最近の政府の言動は、安保法制をめぐって変転する答弁、「どうでもいい」と言い出す首相、果ては立法の必要を訴えた想定すら撤回される事態、議院規則を無視して暴力的に採決に及び聞き取り不能で議事録さえまとめられず採決無効と訴えられている参議院特別委員会、元最高裁長官にまで及んで法曹界から違憲の大合唱なかの成立、という具合で、議論も論理もふみつぶそうという始末です。
◎今号の特集は、「論理を活かす社会へ」と題して、影浦峡氏と竹山美宏氏の対談「論理は対話のために:壊れた議論の前提を取り戻す」、坂井豊貴氏の「多数決はなぜ民主的でないのか」を掲載。坂井氏の著書に、岩波新書『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』があります。
◎独立の論考に、酒井治孝氏の「衝突山脈ヒマラヤのテクトニクス:最近の進歩と新しいシナリオ」。今年、ネパールを襲い大きな被害をもたらした大地震をきっかけに、ヒマラヤ山脈をつくりだす力学を解説。
◎野津厚氏の「不幸中の幸いであった東北地方太平洋沖地震の強震動生成過程から原子力発電所の耐震安全を考える」は、注目すべき強震動パルス成分があることを分析。この問題は原発耐震安全において十分に検討されておらず、検討すべきと訴えています。
◎青山道夫氏の「東京電力福島第一原子力発電所事故に由来する汚染水問題を三度考える」は、汚染水のマクロな流動を推計。低下してはいるものの依然として流出は存在していることを指摘。また、万一の流出に備えてモニタリング体制を整えること、分析の信頼性を上げることを提言。
◎濱岡豊氏の「長期低線量被曝研究からの知見・課題と再分析」は、この問題についての14文献をレビュー。低線量でも影響を検出した研究が多数あります。100mSv以下では有意な影響がみられないといった説明は撤回されるべき状況でしょう。また、長期低線量被曝において、過剰相対リスクは低下せず(したがって線量・線量率効果係数を導入すべき効果はみられない)、線量―応答は線形が支持されていることを指摘。濱岡氏は、独自に米国原子力施設従業員データを個人レベルで分析しなおし、影響を有意に検出できたことも報告しています。
◎「原子力防災・原子力災害対策についての全国知事アンケート(続き)」を掲載。新潟県知事と、岩手県・長崎県の担当部局からの回答を収録。
◎牧野淳一郎氏の連載「3.11以後の科学リテラシー」では、8月31日に公表された甲状腺がんデータを分析。重大な結果です。現在の検査の枠組みでは、最初の検査(先行検査、1巡目)は、事故の影響のないベースラインをみているという前提に立っています。この前提に立って、先行検査と本格検査(2巡目)の発症数を検討すると、統計的に明確に本格検査での発生数が多いことになります。
◎小澤祥司氏による新連載「パラサイトの惑星──地球生命系をあやなす寄生生物たち」を始めます。
◎リレーエッセイ形式のコラム「地球を俯瞰する自然地理学」もスタートします。
◎小豆川勝見氏が「帰還困難区域の家屋内の汚染」を報告。帰還困難区域を走行した車に付着した土埃の測定は、きわめて高い数値を示していますが、通常のスクリーニングでは見過ごされてしまう問題があります。また、家屋内の衣類・布類は、土壌粒子が点在する形で汚染されているようです。スクリーニング基準より低いとはいえ、数千Bq/kgオーダーの汚染が座布団にみられ、丁寧な測定と慎重な判断が必要な状況があります。
◎巻頭エッセイは、益川敏英氏の「戦後70年の日本」です。
■前月号より
◎前月のトップページはこちらをご覧下さい。
■ 「大陸移動説100周年」記念講演会の御礼
◎7月22日(7水)の午後に、国立科学博物館にて「大陸移動説100周年」を記念する講演会を開催いたしました。多数の方にご来場賜り、厚く御礼申し上げます。関連書籍のご案内をこちらのページに掲載しております。
■ 表紙についてお詫びと訂正
2015年1月号の表紙に誤りがありましたので、お詫びし訂正させていただきます。
表紙に刷られております論文
大型望遠鏡で探る宇宙の夜明け
巨大天体ヒミコの発見とその意味
大内正己
は1月号に掲載されておりません。本論文は2月号に掲載しております。
ご迷惑をおかけしましたこと、重ねてお詫び申し上げます。
岩波書店『科学』編集部
■ 原発審査書パブコメ写しの募集
◎「原発審査書案/原発再稼働への市民からの意見書」のサイトを開設しています。こちらからどうぞ。高浜原発の審査書案へのパブコメが原子力規制委員会で募集されており(2015年1月16日まで)、皆様の意見の写しを『科学』編集部にもお送りください。
◎岩波書店・雑誌『科学』より環境省「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」委員・事務局各位に差し上げた手紙(7月13日版)について、次のページにてお知らせします。
●3.11後の本誌掲載論考をもとに編まれ、新規解題も豊富に盛り込まれた、尾内隆之,調麻佐志編『科学者に委ねてはいけないこと――科学から「生」をとりもどす』が刊行となりました。 本誌論考をもとに執筆された影浦峡著『信頼の条件 原発事故をめぐることば』(岩波科学ライブラリー)もぜひどうぞ。 本誌連載「3.11以後の科学リテラシー」の著者・牧野淳一郎氏の新刊『原発事故と科学的方法』ができました。 本誌連載コラム「放射線測定の現場から」の著者・小豆川勝見氏の新刊『みんなの放射線測定入門』ができました。
●発売中の原発問題関連書籍
◎こちらのページで「大震災・原発を考える」書籍をご紹介しています。
◎『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』(アレクセイ・V.ヤブロコフ、ヴァシリー・B.ネステレンコ、 アレクセイ・V.ネステレンコ、 ナタリヤ・E.プレオブラジェンスカヤ著) 目次などの詳細はこちら。
◎黒田光太郎・井野博満・山口幸夫編『福島原発で何が起きたか──安全神話の崩壊』 ※多数の論者が参加した国際シンポジウムの記録です。問題群を一望し整理に役立つと思います。
坂田昌一/樫本喜一編『坂田昌一 原子力をめぐる科学者の社会的責任』 ※50年前の原子炉導入期に、安全性を保障する制度を導入しようとした科学者の苦闘の記録。いまこそ読み返されるべき言葉があります。
石橋克彦編『原発を終わらせる』(岩波新書・新赤版1315) ※14人の筆者が、いま原発を超えていくべき理由を語ります。
エステル・ゴンスターラ著『インフォグラフィクス 原発──放射性廃棄物と隠れた原子爆弾』 ※原子力と廃棄物をめぐる世界各国の過去と現在を、事実とデータにもとづいて美しく印象的なグラフィックで表現!
今泉みね子『脱原発から、その先へ――ドイツの市民エネルギー革命』 ※3.11をうけていち早く、脱原発へと舵をきったドイツの「気になるその後」を伝えます。
「科学」編集部編『原発と震災──この国に建てる場所はあるのか』 ※耐震性と立地の議論について、近年の本誌論文を集めました。(品切れになりました2007年11月号「日本の原発はなぜ〈信頼〉されないのか」の論考その他を収めています。)
『科学』2010年2月号特集「プルトニウム科学の現在」もどうぞ(在庫あり)
●参考: 『科学』の原子力発電関連記事のリストをつくりました(特別公開記事あり) (2011年3月16日からこのページに記載していた原子力発電所に関連するメッセージは、上記ページの末尾に移動しました。
雑誌『世界』2011年1月号特集「原子力復興という危険な夢」(特別公開記事あり)
|