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出光真子さんは,日本を代表する民族石油資本「出光興産」の創業者,出光佐三の娘として生まれた.なに不自由なかった(はずの)日本での生活に耐えられず米国に留学,そのとき知りあった米国の現代美術の画家と結婚して,60年代のカリフォルニアに暮らす.二子をもうけたのち離婚するが,自らは女性映像作家の草分けとして国際的な評価を得,現在にいたる. ――そんな華麗な経歴をもった女性の自伝なんて,誰が読むのかね? 何やかやあったところで,結局,結構なご身分の「お嬢様奮戦記」じゃないの? 本書を手にとってこう思う人は,どこまで読んでもそう思うだろう.こういう人の「心のこわばり」を解くことはとてもむつかしい. 担当編集者として私が学んだのは,まったく逆のことだった.出光さんは確かに特別な境遇に生まれ育った人だが,にもかかわらず彼女の心には激しい「飢え」が巣くっていた.それどころか,環境が恵まれていればいるほど,彼女の「飢え」は理解されず,いよいよ孤独は深まった.この「飢え」がどんなものなのかは,本書を読んでいただくのが一番いいのだが,あえていえば,人間として,女性としての尊厳と自由を渇望する心,とでもいえるだろうか.その血みどろの闘いの軌跡が,この自伝なのだ.本書を読んでなによりよくわかるのは,尊厳と自由は,生活の「豊かさ」とは関係がない,ということだ.「なに不自由ない生活」が,ときに人を愁殺するほど「不自由」なものになるということが,よくわかる. 出光さんと話していて,今なおこの人の心の中には「飢え」が息づいているな,と感じられるときがある.若いときとは形をかえているかもしれないが,それはなお,満たされることを求めて,出光さんを突き動かしている.この「飢え」だけが人に創造を可能にするのだろう.そしてこの「創造の力」は,どんな人の日常にも含まれている.それを感じ取るには,ただ正直であればよい,と出光さんは教えてくれているように思う.静かに人を励ます力を,この本は持っていると思う.
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