八ッ場ダム

過去,現在,そして未来

巨大ダムが治水にも利水にも不要で環境負荷や地すべりの危険を伴うことをデータで立証.再生の道を探る.

八ッ場ダム
著者 嶋津 暉之 , 清澤 洋子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2011/01/26
ISBN 9784000023276
Cコード 0036
体裁 四六 ・ 並製 ・ 254頁
在庫 品切れ
2009年の国交相の中止発言,2010年11月の中止棚上げ発言などで日本中の注目を集める八ッ場ダム計画.58年にわたり住民を翻弄してきた経緯を振り返りつつ,この巨大なコストを伴うダムが治水にも利水にも不要であるばかりか,多大な環境負荷や地すべりの危険を持つことをデータで立証.地域がこれまでの断裂を乗り越え,歩むべき再生への道を模索する.

■編集部からのメッセージ

2009年の国交大臣の中止発言以来,2010年11月の中止棚上げ発言などで日本中の注目を集める八ッ場ダム計画.

 58年にわたり住民を翻弄してきたこのダム計画の経緯を,これまで知られなかった多くの資料をもとに詳しく振り返りながら,この巨大なコストを伴うダムが治水にも利水にもまったく不要であるばかりか,多大な環境負荷や地すべりの危険などさまざまな災いをもたらすことをデータで立証.

 地域がこれまでの断裂を乗り越え,歩むべき再生への道を模索する.

■著者からのメッセージ

八ッ場ダムは一昨年九月の政権交代に伴う「コンクリートから人へ」の政策転換の象徴として,その成り行きは国民が注目し,大きな政治課題となっています.

 半世紀余りにわたって,ダム予定地住民に多大な犠牲を強いてきたこのダム計画は,必要性の根拠が揺らいできたことから,中止方針が出たものの,その後,棚上げになり,混迷の一途を辿っています.

 現地では依然として関連工事が続けられて,自然と地域社会の凄まじい改変が進んでいます.そして,ダム予定地の住民は政権交代後も,半世紀余の過去と同様,蛇の生殺しのような状態に置かれ,苦悩の日々を余儀なくされています.

 これから八ッ場ダム問題はどうなってゆくのでしょうか.このような状況において,八ッ場ダム問題の歴史,現状,将来の方向性について事実を広く伝えることが必要ではないかと考え,数多くの資料をもとに本書を執筆しました.本書が八ッ場ダム問題解決の一助となれば,幸いです.
第1章 八ッ場ダム問題とは何なのか

首都圏のダム問題/民主党のマニフェスト/政権発足直後の混乱/推進派による巻き返し/湖面1号橋/ダム予定地の地理条件/吾妻渓谷のダムサイト予定地/水没五地区/日の当たる川原畑/川原湯温泉/つくられた対立の構図


第2章 八ッ場ダム計画の歴史

1 ダム構想の発端(昭和二〇年代から三〇年代へ) 

最初の発表/“死の川”よみがえる/利根川上流ダム群の建設

2 再浮上したダム計画(昭和四〇年代前半) 

政治の影/住民の分裂/陳情合戦/予算計上/一進一退の攻防/一坪運動の挫折

3 国策の推進――反対派町長誕生へ(昭和四〇年代中頃~) 

群馬県の最初の生活再建案/群馬県議会,ダム推進へ/萩原作戦/絵に描いたボタ餅/土地収用法発動/角福戦争/揺れる長野原町/水源地域対策特別措置法/吾妻渓谷のダムサイト予定地/樋田町長の誕生

4 歪められた公共性――生活再建案の作成へ(昭和四〇年代から五〇年代へ) 

下流都県の協力体制/第二次建設省案/第三次フルプラン/清水県政と福田政権/疲弊する水没予定地/住民懇談会/国と県との腹話術/崩れた反対運動/群馬県の生活再建案

5 生活再建事業が抱える矛盾(昭和六〇年代~) 

温泉ボーリング/蛇の生殺し/代替地計画/消えた公社構想/リゾート法と生活再建策/萩原好夫のまちづくり計画

6 消えることのないダムへの疑問(昭和年代から平成年代へ)

豊田兄弟/下流域の反対運動/川原湯だより

7 脱ダムの時代と迷走するダム計画(平成年代) 

水源地域整備計画/八ッ場ダムを考える会/生活再建支援法案/補償基準の調印/事業費増額/首都圏における反対運動/八ッ場ダムからの撤退を求める住民訴訟/代替地交渉/破綻したダム計画/八ッ場あしたの会/政権交代


第3章 首都圏の住民にとっての八ッ場ダム計画

1 八ッ場ダムの必要性を検証する――利水面からの検証

水需要の減少と水源開発の進捗で水余りの時代へ/需要抑制の水行政が進められていれば当初から不要/暫定水利権の虚構/渇水のためにという話の虚構/現実から遊離したダム枯渇の計算/欧米の水事情の真相

2 八ッ場ダムの必要性を検証する――治水面からの検証

カスリーン台風再来時の八ッ場ダムの治水効果はゼロ/八ッ場ダムの治水効果は小さく,利根川の治水対策として意味をもたない/急がれる利根川の堤防強化対策

3 ダム事業を推進するための基本高水流量

カスリーン台風洪水の実績流量の誤り/植林と森林の生長による保水力の向上/机上の計算による基本高水流量の大幅引き上げ/現実性を喪失した基本高水流量/ダム事業縮小時代の治水計画目標流量/大洪水への備え

4 八ッ場ダムをめぐる虚構と真実

「八ッ場ダム建設事業に関する1都5県知事共同声明」の事実認識の誤り/共同声明の主張/気候変動の影響とは? 国交省による一〇〇年後の計算/最高級の水道水源「地下水」の切捨て/八ッ場ダムの二つの付随目的の偽り

5 八ッ場ダムがもたらすもの

ダム湖周辺の地すべりの危険性と崩落事故の続出/大滝ダムと滝沢ダムで続けられる地すべり対策/打越代替地の官製耐震偽装問題/ダムサイト基礎岩盤への不安/ダム本体工事費の大幅削減/若山牧水が愛した吾妻渓谷と周辺の自然/八ッ場ダムによって失われるもの/吾妻川の中和事業とヒ素問題/堆砂による八ッ場ダムの機能低下/八ッ場ダムの巨大事業費は国民の肩に


第4章 八ッ場ダム問題のこれからを考える

1 八ッ場ダム予定地の現状

関連工事の遅れ/ダム予定地の人口の急減

2 政治の場での八ッ場ダム見直しへ

ダム見直しの現実/八ッ場ダムはどうなるのか

3 八ッ場ダムを中止させるまでの法的手続き

4 ダム湖観光に将来はあるのか?――国と県の将来計画をあらためて検証する

国と群馬県が示した現地再建計画/観光資源とは程遠い八ッ場ダム湖/美しい吾妻渓谷の喪失/川原湯温泉の泉源/ダム湖ができた場合の代替地の安全性への不安

5 ダム中止後の生活再建――地域再生支援法と鳥取県の取組み「水没から再生へ」

鳥取県の旧中部ダム予定地「水没から再生へ」/旧中部ダム予定地の振興策/ダム中止後の生活再建・地域再生支援法に求められること

6 政治と私たちに求められていること

あとがき




八ッ場ダム関連年表
嶋津暉之(しまず てるゆき)

1943年生まれ.1972年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得満期退学.2004年3月まで東京都環境科学研究所勤務.
現在「水源開発問題全国連絡会」共同代表,「八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会」代表.各地のダム問題について技術的な解析を行っている.
著書に『水問題原論』『やさしい地下水の話』(以上共著,北斗出版)『首都圏の水があぶない』『八ッ場ダムは止まるか』(以上共著,岩波ブックレット)ほか

清澤(渡辺)洋子(きよさわ ようこ)

1957年生まれ.1980年東京外国語大学卒業.出版社勤務を経て2002年から「八ッ場ダムを考える会」事務局,2007年から「八ッ場あしたの会」事務局を務める.
現在「八ッ場あしたの会」事務局長.
『八ッ場ダムは止まるか』『首都圏の水があぶない』(以上,岩波ブックレット)(編集協力).著書に『川辺の民主主義』(共著,ロシナンテ社)

書評情報

朝日新聞(朝刊)〔群馬〕 2011年5月10日
オルタ 2011年5-6月号
図書新聞 2011年4月23日号
東京新聞〔群馬〕 2011年1月26日
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