確率論と私

日本の確率論研究の基礎を築き,かつ多くの俊秀を育てた著者.本書は数学への思いを綴る初のエッセイ集.

確率論と私
著者 伊藤 清
ジャンル 書籍 > 自然科学書
書籍 > 自然科学書 > 数学
刊行日 2010/09/14
ISBN 9784000052085
Cコード 0041
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 206頁
在庫 品切れ
日本の確率論研究の基礎を築き,かつ多くの俊秀を育てた伊藤清.またフィールズ賞に並ぶガウス賞第1回受賞のほか数々の栄誉に輝く.本書は,氏の初のエッセイ集である.数学者になった経緯や伊藤の公式で名高い「確率解析」誕生の秘話,さらには「忘れられない言葉」「想い出」など,数学に携わる人々への深い思いが綴られた貴重な一書.

編集部からのメッセージ

確率論研究者としての伊藤先生のことについては,数学に関係する人ならば誰でもご存知かもしれません.「伊藤解析」とも呼ばれる確率微分方程式の研究は,数学にとどまらず,物理学や工学や,あるいは社会科学の分野にも広く応用されています.そうした貢献に対し,京都賞やガウス賞が与えられたこともまだ記憶に新しいところです.しかし,残念ながら2008年に病気で亡くなられました.93歳でした.
伊藤先生は,生前に岩波書店から専門書を多く刊行されています.いまも入手できる本としては,『確率論の基礎 新版』 『確率過程』 『確率論』(岩波基礎数学選書)の3冊があります.このようにいずれも教科書ないし専門書ばかりです.堅い書き物しかお書きにならなかったのかといえば,じつは,先生は名うてのエッセイストでもあって,絶妙なウィットとさりげない表現のなかに深い思想が込められた文章を綴られています.また,一般向けの講演も味わい深いもので,その多くが活字として残っています.
本書は,そうした優れた随筆や講演録のなかから,伊藤先生の人となりを知ることのできるものを精選して編んだものです.伊藤先生のエッセイ集としては初めての本です.
先生ご自身の生い立ちや確率微分方程式の誕生の経緯,さらには数学そのものや数学教育に対する思いなどは,いまなお数学に携わる方にはとても示唆に富む内容です.また,数学とは直接関係のない方々にも,日本が生んだ一級の数学者の思想がどのようにつくられていったのか,それぞれの局面でどんな思いを抱かれていたのかを知るうえでは有意義な書として推薦します.
(2010年09月)
Ⅰ――忘れられない言葉
  忘れられない言葉
  数学の研究を始めた頃
  直観と論理のバランス

Ⅱ――数学の二つの柱
  数学の二つの柱
  科学と数学
  かわった学生
  色即是空,空即是色

Ⅲ――数学の楽しみ
  数学者と物理
  オイラーの応用数学
  数学の楽しみ
  数学の科学的側面と芸術的側面

Ⅳ――確率論とは何だろうか
  確率論の歴史
  組合せ確率論から測度論的確率論へ
  コルモゴロフの数学観と業績

Ⅴ――確率論と歩いた六十年
  確率論と歩いた六十年
  確率解析の研究を振り返って

Ⅵ――思い出
  秋月先生の思い出
  近藤鉦太郎先生と数学
  十時君の思い出
  河田敬義君の思い出

  あとがきにかえて
  略年譜
  付録 確率微分方程式――生い立ちと展開
伊藤 清(いとう きよし)
1915-2008.確率解析の創始者のひとり.日本の確率論研究を築いた人でもある.京都大学教授,デンマーク・オルフス大学教授,米国コーネル大学教授,京都大学数理解析研究所所長などを歴任.朝日賞,藤原賞,ウルフ賞,京都賞,文化勲章のほか,第1回ガウス賞を受賞.専門は確率解析,確率微分方程式.

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2010年11月21日
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