無限小

世界を変えた数学の危険思想

近代の秩序をゆるがした無限小.カトリックや絶対君主に抗し数学の基礎を築いた批判精神の勝利を描く.

無限小
著者 アミーア・アレクサンダー , 足立 恒雄
ジャンル 書籍 > 自然科学書
書籍 > 自然科学書 > 数学
刊行日 2015/08/28
ISBN 9784000060493
Cコード 0041
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 334頁
定価 4,180円
在庫 在庫あり
無限に小さい点が無限個あつまって線分をなす.この無限小というアイデアを得た数学者たちは,内部にはらむ矛盾を解決し,そして無限小を危険思想としたカトリック・英国教会・絶対君主による弾圧をはねのけ,やがて現代数学の基礎を築いた.近代的宗教観に基づく秩序を根底からゆるがせた数学的批判精神の勝利の歴史を描く.

■訳者からのメッセージ

ガリレオが地動説を奉じたために異端審問にかけられて,有罪判決を受けたことを知らない人はいない.
 しかし,数学もまた弾圧を受けたことについては,ほとんど知られていない.ガリレオの弟子カヴァリエリやトリチェリによって開発された「不可分者」の手法がイエズス会の禁忌に触れたのである.不可分者,あるいは無限小は数学の題目であって,地球と太陽の関係とは異なり,聖書に何も書かれていないのに,なぜ弾圧の対象になり得るのか.それが本書の第1部の主題である.
 第2部では,実験的経験主義,そしてこれと相性の良い政治体制である議会制民主主義がイギリスで育っていく様子が,ロンドン王立協会の成立過程を通じて描かれている.デカルトやホッブズの哲学体系に対して,実験を通して現象とやり取りをしながら,漸進的に,そして修正を繰り返し,真理を獲得していく実験科学の手法が議会制民主主義の申し子なのではなく,逆に民主主義が実験科学の成功から育まれたのだということを知って,私は新鮮な感動を覚えた.
 本書の主張は極めて明快であり,こうした斬新で迫力満点の数学史書は見たことがないので,おそらくは専門家の間から批判や疑問の声が上がるだろうと予想される.しかし,そういう議論が沸き起こることこそが,数学史の世界,さらには日本の知識人社会にとって望ましいと私は考える.
 本書は,私にとっては,夜を徹して読むに値するスリルに満ちた書であった.この感動を皆さんと共有したいと思い,翻訳を申し出た次第である.
――「訳者あとがき」より抜粋,一部改変
序章
第1部 無秩序に対する戦争――イエズス会vsガリレオ派
第1章 イグナティウスの子供たち
第2章 数学的秩序
第3章 数学的無秩序
第4章 「消すか,消されるか」――無限小を巡る戦争
第5章 数学者の闘い
第2部 リヴァイアサンvs無限小――実験的経験主義の勝利
第6章 リヴァイアサンの到来
第7章 幾何学者トマス・ホッブズ
第8章 ウォリスとはいったい何者か?
第9章 新世界の数学
エピローグ 二つの近代化
登場人物
年表
訳者あとがき

訳者からのメッセージ
 ガリレオが地動説を奉じたために異端審問にかけられて,有罪判決を受けたことを知らない人はいない.
 しかし,数学もまた弾圧を受けたことについては,ほとんど知られていない.ガリレオの弟子カヴァリエリやトリチェリによって開発された「不可分者」の手法がイエズス会の禁忌に触れたのである.不可分者,あるいは無限小は数学の題目であって,地球と太陽の関係とは異なり,聖書に何も書かれていないのに,なぜ弾圧の対象になり得るのか.それが本書の第1部の主題である.
 第2部では,実験的経験主義,そしてこれと相性の良い政治体制である議会制民主主義がイギリスで育っていく様子が,ロンドン王立協会の成立過程を通じて描かれている.デカルトやホッブズの哲学体系に対して,実験を通して現象とやり取りをしながら,漸進的に,そして修正を繰り返し,真理を獲得していく実験科学の手法が議会制民主主義の申し子なのではなく,逆に民主主義が実験科学の成功から育まれたのだということを知って,私は新鮮な感動を覚えた.
 本書の主張は極めて明快であり,こうした斬新で迫力満点の数学史書は見たことがないので,おそらくは専門家の間から批判や疑問の声が上がるだろうと予想される.しかし,そういう議論が沸き起こることこそが,数学史の世界,さらには日本の知識人社会にとって望ましいと私は考える.
 本書は,私にとっては,夜を徹して読むに値するスリルに満ちた書であった.この感動を皆さんと共有したいと思い,翻訳を申し出た次第である.
――「訳者あとがき」より抜粋,一部改変

著者紹介
アミーア・アレクサンダー(Amir Alexander)
数学を中心とする歴史研究者.UCLA非常勤准教授.
主著:Duel at Dawn: Heroes, Martyrs, and the Rise of Modern Mathematics (Harvard University Press), Geometrical Landscapes: The Voyages of Discovery and the Transformation of Mathematical Practice (Stanford University Press)

訳者紹介
足立恒雄(あだち のりお)
1941年生まれ.早稲田大学理工学部数学科卒業,東京工業大学大学院理学研究科博士課程修了.早稲田大学理工学部教授,学部長,学術院長などを経て,現在,早稲田大学名誉教授.理学博士.
専門:代数的数論,数学思想史.
主著:『数学から社会へ+社会から数学へ―・数学者の目で世相を観る』(東京図書),『フレーゲ・デデキント・ペアノを読む―・現代における自然数論の成立』(日本評論社),『新版 楽しむ数学10話』(岩波ジュニア新書),『数の発明』(岩波書店)
アミーア・アレクサンダー(Amir Alexander)
数学を中心とする歴史研究者.UCLA非常勤准教授.
主著:Duel at Dawn: Heroes, Martyrs, and the Rise of Modern Mathematics (Harvard University Press), Geometrical Landscapes: The Voyages of Discovery and the Transformation of Mathematical Practice (Stanford University Press)

書評情報

図書新聞 2015年12月19日号
ページトップへ戻る