もっと知りたい!日本語(第II期)

なぜ伝わらない,その日本語

敬語を使いこなすよりもっと大事な,書きことばの基本を考えよう.大切なのは,相手のことを考えること.

なぜ伝わらない,その日本語
著者 野田 尚史
ジャンル 書籍 > 単行本 > 言語
シリーズ もっと知りたい!日本語(第II期)
刊行日 2005/11/29
ISBN 9784000068376
Cコード 0381
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 214頁
在庫 品切れ
ふさわしい形式や敬語を使いこなすことよりもっと大事な,書きことばの基本を考えよう.それは「相手のことを考える」という,当たり前でありながら簡単にはできないこと.知人あてのメールやビジネスメール,掲示やアンケートなどでよく見かける「伝わらない日本語」を反面教師に,「伝わる日本語」の書き方を身につける.

■著者からのメッセージ

「幻のあとがき」

ミロ美術館(スペイン)で
私は,体に悪いことや不快な状況に敏感な体質です.

少し暗い所で本を読もうとすると,1分もたたないうちに気分が悪くなります.ですから,明るい昼間は車内の電気をつけていない電車では,本を読めません.

パソコンの画面も苦手です.大きな画面を,目から遠くに離し,上からのぞき込む角度に置いています.画面の文字はできるだけ大きく表示しています.部屋は,遮光カーテンで外の光を遮り,画面には白い壁以外は映り込まないようにしています.それでも,連続2時間が限度です.

カフェインもダメです.コーヒーでも紅茶でも緑茶でも,どれかを1日に1杯までです.それ以上だと,どきどきしたり吐き気がしたりすることがあります.

20代の中ごろまでは,カフェインがダメとは気がついていませんでした.人と会って話をすると,別に気をつかう人でもないのに,いたたまれない気分になることがあり,人と話をするのが苦手だと思っていました.でも,お酒の席では大丈夫なので,不思議でした.喫茶店で飲むコーヒーのせいかもしれないと思い,ジュースを頼むようにしたら,人と話をするのが平気になりました.

暗い場所での読書やカフェインと同じように,私はわかりにくい日本語にも敏感です.理屈としてではなく,体質としてです.

ごちゃごちゃとわかりにくく書いてある文章は,読まなければいけないものでも,読む気がしなくなります.要領を得ないメールには,返事を書く気がなくなり,長い間,そのまま放っておくこともあります.

この本は,そんな私の体質から生まれました.これまでの生活の中で敏感に感じてきた「読む気がしなくなる日本語」や「読んでもよくわからない日本語」を例にして,「相手がきちんと読んでくれ,相手にうまく伝わる日本語」を書くには,どうすればよいのかを伝えようとしました.

日本語の書きかたについての本は今までにもたくさん出ていますが,最近までは,プロの書きかたに近づくことを目標にしているものが多かったと思います.でも,プロでない普通の人にとっては,相手に伝わるメールや掲示や案内図を書くことが大事です.普通の人は,プロの作る料理を習うより,家庭料理を習うほうが役に立つのと同じことです.そのような方針で,身近にありそうな具体的な例を取り上げました.

この本で見ていただいたのはすべて日本語の例ですが,この本で伝えたかったことは,どの言語で表現するときにも当てはまることが多いと思います.日本中で,また,世界中で,快適な書きかたが多くなり,人と人とのコミュニケーションがスムーズに行われるようになることを願っています.

(なぜこれが「‘幻の’あとがき」となったかについては,本の「あとがき」をお読みください.)
なぜ伝わらないのか?

1 伝わらない日本語とは?
2 伝わらない原因は?
3 伝わるように書かないのは?

第1章 相手がどんな情報を求めているか?
 
1 レストランの開店3周年のあいさつ状
2 取引先への担当者交代のお知らせ
3 旅館のアンケートに書く苦情

第2章 相手が何を知っているか?
 
1 個人レッスンをお願いするメール
2 分岐駅のホームの時刻表
3 分別ゴミ箱の表示

第3章 相手がどんな人であるか?
 
1 メールの引用が好きか嫌いか?
2 専門家か専門家でないか?
3 日本語がわかるかわからないか?

第4章 相手がどんな返答をするか?
 
1 同窓会の相談をするメール
2 メールの返信先の指定
3 レストランのお客さまアンケート

第5章 相手がどんな行動をするか?
 
1 バザーへの出品を頼むメール
2 レストランのメニューの名前
3 講演会会場への交通案内

第6章 相手がどんな気持ちになるか?
 
1 出張手続き改善の提案
2 新規開店のカフェの割引クーポン
3 地域交流会メーリングリストの口論

第7章 相手に読んでもらう工夫
 
1 用件が複数のメール
2 スポーツクラブの注意書き
3 文集に載せる文章

第8章 相手に見つけてもらう工夫
 
1 メールの件名
2 ホームページの構成
3 マニュアルの索引

第9章 相手に誤解を与えない工夫
 
1 きちんと読まなくてもわかる工夫
2 相手の誤解を防ぐ工夫
3 相手の常識に頼らない工夫

伝わる日本語にするために
 
1 大事なのは「思いやり」
2 会議を知らせるメール
3 コミュニケーションの時代

あとがき
野田尚史(のだ ひさし)
1956年,金沢市生まれ.大阪外国語大学でスペイン語を学び,同じ大学の大学院で日本語学を専攻する.大阪大学大学院博士課程中退.博士(言語学).
1981年,大阪外国語大学助手.筑波大学講師,大阪府立大学助教授をへて,1999年から大阪府立大学教授.
専門は現代日本語の文法.主に文の構造やテキストの構造を分析している.応用的な研究として,日本語とスペイン語の比較研究や,日本語を母語としない人たちへの日本語教育,日本語のわかりやすい表現方法などにも手を広げている.
著書には,『「は」と「が」』(くろしお出版,1996),『日本語学習者の文法習得』(共著,大修館書店,2001),『日本語の文法4 複文と談話』(共著,岩波書店,2002),『日本語を書くトレーニング』(共著,ひつじ書房,2003)などがある.

書評情報

電通報 2006年5月15日号
月刊言語 2006年5月号
月刊国語教育 2006年3月号
日本語学 2006年3月号
電通報 2006年2月20日号
悠 2006年2月号
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