外国語として出会う日本語


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著者からのメッセージ

 8歳になるうちの愛犬(白柴犬)は,ことばを話すことができません.しかし,理解できる単語はいくつかあります.「ボールは?」と尋ねれば,家中を探し回ってどこかから見つけてきますし,「ホネは?」と聞けば,ホネ型の犬用ガムをくわえてもどってきます.でも,「ボールを持ってきてくれる」とか「ホネを持ってきてくれるとうれしいんだけど」などと,ちょっと複雑な構造の文で話しかけたのでは,首を傾げて座っているばかりです.
 日本語教育というと,「日本語がわからない外国人」と「日本語教師という一部の人たち」の間だけで行われている,特殊な活動のようにとらえられがちです.「日本語がわかる私たちには関係ない」と他人ごととして語られます.その一方で,言語を越えたコミュニケーションをめざして,外国語学習に励む日本人がいます.
 でも……,言語の違いを乗り越えるには,「日本人が外国語を勉強して,上手に話せるようになる」あるいは「外国人が日本語を勉強して,日本人のように話せるようになる」という2つの選択肢しかないのでしょうか.「日本人が日本語を勉強して,日本語を客観的にとらえられるようになる.それによって,自分の日本語を簡単に言い換えたり,外国人のたとえつたない日本語であっても,それを理解したりできるようになる」という3つめの選択肢も,あっていいのではないかと思います.
 相手に伝わるような表現手段のストックをたくさん持つ.わかってもらえないときにどう工夫すれば伝わるか,相手の気持ちに思いを巡らせる.そして何より,コミュニケーションをあきらめないこと.ことばを乗り越える方法は,ことばだけではないと思います.


著者プロフィール

小林ミナ(こばやし みな)
 1962年10月横浜市生まれ.1993年名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程(日本言語文化専攻)満期退学.名古屋大学助手,北海道大学助教授を経て,2006年から早稲田大学大学院日本語教育研究科教授.
 専門は日本語教育,とくに教育文法.「コミュニケーションを支える一要素」という観点から文法をとらえ,文法教育の方法や内容,そのために必要な文法記述について考えている.
 著書に『よくわかる教授法』(アルク(1996)),『コミュニケーションのための日本語教育文法』(共著,くろしお出版(2005))など.


目次

一 はじめに――「母語」ではなく「外国語」として
「母語」ではなく「外国語」として/日本語学習者の質問や誤用を手がかりに
二 「どうして「食べって」と言わないの」――説明は簡単じゃない
  1 動詞のグループの見分け方
    「くりこる」のテ形/動詞のグループ/テ形を作るルール/テ形を歌う/「活用」から「グループ」を考える/「グループ」から「活用」を考える
  2 「正しい文」と「正しくない文」
    「○」か「×」かを判断する/「×」の文を直す/「×」の理由を説明する/ネイティブだからできること/ネイティブでも簡単にはできないこと
  3 「正しいけど,正しくない文」
    「○」か「×」か「?」か/「○」がつけられない理由/「?」の理由/「文法性」と「容認可能性」
三 「そうですねえー,北京です」――文法は日々作られる
  1 「そうですねえー,北京です」
    会話授業の面接で/「そうですねえー」/意見を述べるとき,事実を答えるとき/考えているサイン/「「です」があるから丁寧です」
  2 「よろしくお願いします」
    「皆さん,どうぞよろしくお願いします」/「では,よろしくお願いします」/「あと,よろしく」/いつでも,どこでも「よろしく」?
  3 「中国から来ました」
    「どこから来たの?」/教科書の第一課/出身地を言うときは……/「〜から来ました」/アメリカから来たのはいつ?/モデル会話の背後にあるもの
  4 自分だけの文法
四 「先生,どうですか」――日本語にもお国柄
  1 「先生,どうですか」
    大学のキャンパスで/¿Qué tal?
  2 「お金,ありますか」
    「日本人は,よくお金の話をします」/「習慣ですか,あいさつですか」/「他にありますか」/「ハヒフヘホ」は「アイウエオ」/常識が働かなくなる!?/「日本語では直接的な表現は好まれない」/「ハサンと思います」
  3 「一口,飲ませて」
    「そばにいさせてください」/「ククスを食べさせて」/「ちょっとティッシュ使わせて」
  4 「あっさりした和食」
    一つの文でまとめて名乗る/〈制限用法〉と〈非制限用法〉/天ぷらは「あっさりした和食」?/子どもは何人?
  5 母語によっても異なる日本語
五 「先生は若いし,……」――ことばの背後に潜む文化や価値観
  1 「海外旅行といっても……」
    予想を裏切る/「「……」と言っても」/「広いといっても全員は泊まれません」/「海外旅行といっても……」/「ハワイ」といえば……/何が「ふつう」か
  2 「カレーも作れます!」
    尺度を含意する「も」/「計算」のものさし/「携帯電話」のものさし/「日本の食べ物」のものさし/「料理」のものさし/まずは「ものさし」の共有から
  3 「青山先生は若いし,……」
    「〜し」でつなげられるのは?/「若い先生」は好きですか/「狭いアパート」は?
  4 ことばを教える,文化を教える
六 「今日はネコ暑いですね」――「わかりにくさ」を生みだすもの
  1 「私の国にはこめかみがたくさんあります」
    templeを辞書で調べたら……/英和辞書いろいろ
  2 「今日はネコ暑いですね」
    「虫暑い」/「虫」のムシでなく「蒸し暑い」のムシ/「メタ言語」と「対象言語」/ハルモエナ国にて/「の」は働き者/「メタ言語」でことばの世界が広がる
  3 「母が怒って,ドアを蹴りました」
    「Aて,B.」/「母が怒って」vs.「母に怒られて」/受身文が本領を発揮するとき/文脈が主語の解釈を助ける
  4 「誤用」のコレクション
    あとがき



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