健康と食を問い直す生物学

食の未来を考える

食を変えようとしている遺伝子組換えやクローン技術.どういう技術でどう捉えればよいのかを,やさしく解説.

食の未来を考える
著者 大澤 勝次 , 今井 裕
ジャンル 書籍 > 単行本 > 生物学
書籍 > 自然科学書
シリーズ 健康と食を問い直す生物学
刊行日 2003/06/27
ISBN 9784000068611
Cコード 0345
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 160頁
在庫 品切れ
増え続ける人口,疲弊する農地.食糧は世界的に見ても危機に瀕しています.遺伝子組換えやクローンなどの新しい技術が登場し,さまざまな食材が生まれましたが,安全性を考えたとき,判断に迷うことも増えてきています.新しい技術はどういうもので,生まれてきた食材はどう捉えればよいのか.従来の品種改良と比較しながら,紹介します.


■著者からのメッセージ
 21世紀の食糧は確保できるのでしょうか? 私たち子孫に,選択肢はあるのでしょうか? 生きることは食べることです.食べることを通して,これからの生き方を考えてみませんか?
 長年にわたって植物品種改良の技術開発に関わってきた著者の目に見えた,作物改良の歴史と現在を率直に書かせてもらいました.遺伝子組換え作物(GMO)など,新しい技術によって誕生した作物や食品の実像が,正しく認識される時が早く来ることを願っています.地球上の生き物の知恵に学ぶバイオテクノロジーは,わけの分からない技術ではありません.21世紀の人類は,20世紀の反省をしっかりして,生き物の一員として,バイオのリズムに合わせたエコライフを実現しなければなりませんが,そのための不可欠な技術がバイオテクノロジーであると確信しています.GMOに強い疑問をお持ちのあなたにこそ,ぜひこの本を手に取っていただき,ご自身の中でディベートされるきっかけにしていただければ幸いです.


■編集部からのメッセージ
増え続ける人口、疲弊する農地。食糧は世界的に見ても危機に瀕しています。遺伝子組換えやクローンなどの新しい技術が登場し、さまざまな食材が生まれ、今まさに食卓が変わろうとしています。その一方で、安全性について考えたとき、判断に迷うことも増えてきています。新しい技術はどういうもので、生まれてきた食材はどう捉えればよいのか。従来の品種改良と比較しながら、紹介します。
第I部 作物
1 「作物」はどのようにたして誕生したのか
2 遺伝子組換え(GM)作物の登場
3 これからの食材と食の未来

第II部 畜産
4 野生動物から家畜へ
5 自然の摂理――家畜生産への応用
6 生命科学の時代
■大澤勝次さんからのメッセージ

 好きな食べ物は?と問われたら,すぐにトマト,カボチャ,スイカ……と浮かぶほど,野菜が好きです.焼魚は好きですが,肉は好んでは食べません.そんな僕が,野菜や果物を研究テーマにしている研究室で,園芸学に関心のある学生や院生に囲まれて過ごせるようになるとは,なんと幸せなことでしょう.しかも,北大は大学全体が,四季折々の景観に恵まれた,これ以上ないと思える癒しの大学でもあります.妻1人子4人,人生の巡り合わせに感謝して過ごしています.

大澤勝次(おおさわ・かつじ)
1943年生まれ.北海道大学大学院農学研究科教授.
宮沢賢治とクラーク博士の影響を受けて北大農学部に入学.卒業後,園芸試験場,野菜試験場,農業生物資源研究所,北海道農業試験場などで,33年間,植物バイオテクノロジーの技術開発に従事する.『遺伝子組換え食品――新しい食材の科学』(共著,学会出版センター),『図集植物バイテクの基礎知識』(農文協)など著書多数.2000年4月から母校の教壇に立っている.


■今井裕さんからのメッセージ

 私は滋賀県に住んでいます.滋賀県といえば,ふな寿司で有名なところです.なれ寿司とも言い,1300年ほどの歴史があるそうです.ニゴロブナのおなかにご飯を入れて発酵させたもので,大変な珍味です.高価なのでめったに食べる機会はありませんが,私は好きです.父は美食家でしたが,ふな寿司は腐っているといって食べませんでした.外国人も,ちょっと苦手のような気がします.これ以外に,ふぐを食べる習慣も日本独自のものかもしれません.調理法を間違えると,その毒のために命を落とすこともあります.100%安全が保障されているわけではないのに,ふぐは嫌いという人はいないのではないでしょうか.ふな寿司もふぐも,食べ物としてどんな危険性があるのか,どのようにして作られるのか,日本人なら何となくイメージできるので,食べることができるのかもしれません.
 本書は,ふな寿司やふぐよりもっと身近な食べ物についての話です.その多くは,バイオテクノロジーを駆使して作られていることを知っていただき,そのテクノロジーとはどんなものなのか,どんな狙いがあるのかについて解説しています.そんなことから,それらの食べ物がどんな危険性をもち得るのか(その逆に,意外と安心できるでもいいのですが),ということのイメージ作りに役立てばと思います.

 大学時代は農学部の畜産学科ですごしました.学生実験の中で体外受精が取り上げられたことがあり,精子が卵子に果敢にアタックする様を見て感動しました.それがきっかけとなって,現在の生殖生物学(当時は家畜繁殖学)研究室に所属しました.もともと研究者になるつもりはなかったのですが,その時の感動を追ってゆくうちに,いつのまにか今に至っています.
 今,日本の農業や農学研究は危機に瀕していると思います.生産者の工夫や研究者の意図を消費者につたえる機会がなかなかありません.両者はもっと密接に向き合った関係にあってよいのでしょう.そうすれば,自然と安全な食べ物のイメージが湧いてくるかもしれません.情報化の時代は始まったばかりです.今後に期待するところ大です.

今井 裕(いまい・ひろし)
1953年生まれ.京都大学大学院農学研究科教授.専門は生殖生物学.『クローン動物はいかに創られるのか』(岩波書店),『クローン技術--加速する研究・加熱するビジネス』(共著,日本経済新聞社),『遺伝子組み換え食品がわかる本』(共著,法研)など著書多数.科学技術を社会に対してわかりやすく解説することの重要さと難しさを痛感している.



書評情報

食生活 2003年11月号
細胞工学 2003年10月号
月刊・食品工場長 2003年8月号
読売新聞(朝刊) 2003年7月27日
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