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岩波科学ライブラリー

アクセントの法則

標準語や鹿児島弁のアクセントを例に,一見混沌とした言語現象に潜む法則を探ってみよう.

アクセントの法則
著者 窪薗 晴夫
通し番号 118
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 岩波科学ライブラリー
書籍 > 岩波科学ライブラリー > 人間・心理
シリーズ 岩波科学ライブラリー
刊行日 2006/04/05
ISBN 9784000074582
Cコード 0380
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 134頁
在庫 品切れ
どんな言語や方言にも,それぞれに美しい規則の体系がそなわっている.私たちは幼いとき,造作もなくその体系を身につけ,大人になった今は,無意識にそれを操ってことばを話しているのだ.標準語や鹿児島弁のアクセントを例に,一見混沌とした言語現象に潜む法則を見つけだし,自分の頭の中で起こっていることを探ってみよう.


■著者からのメッセージ
 アクセントに限らず,言語は規則の体系であり,一見混沌とした言語現象の中に規則性を見つけだすことが言語研究の目的,醍醐味である.また,その規則の体系を子供たちがどのようにして獲得していくのかを解明することが現代言語学の大きな課題となっている.本書では人名・地名や外来語をはじめとする日本語の単語にどのようなアクセントの法則が潜んでいるかを探り,その法則を読み解くことで,私たちが日常的に使っている言葉の中に――そして私たち自身の頭の中に――すばらしい規則の体系が存在していることを解説する.一方では標準語と英語・ラテン語の共通性を指摘することにより言語の普遍性を考え(第1~3章),他方では標準語と鹿児島弁の相違点を理解することにより言語の多様性を考えてみたい(第4~5章).
――「プロローグ」より


■方言音声を聞く
太字の部分が高く発音される(声:窪薗晴夫)


 東京  あがとう
 名古屋 ありとう
 大阪  ありが
 鹿児島 ありがとう


 鹿児島弁の「子」がつく名前のアクセント(p.78)

 a なこ(夏子),ふこ(冬子),たこ(妙子),すこ(杉子)
 b はる(春子),あき(秋子),のぶ(信子),まつ(松子),あい(愛子)
 c じゅんこ(順子),ぎんこ(銀子),しょうこ(祥子),しゅうこ(修子)


 鹿児島弁の複合語のアクセント(p.83)

 a は,はる,はる,はるやす,はるやすみちゅう
 b つ,なこ,なお,なすやみ,なつやすちゅう


 鹿児島弁の複合語句のアクセント(p.83)

 ▼は(春)
はる,はるやす,はるやすみ,はるやすみか,はるやすみま,はるやすみちゅうか,はるやすみちゅうま,はるやすみちゅうから
 ▼つ(夏)
が,なつやみ,なつやすが,なつやすみら,なつやすみで,なつやすみちゅうら,なつやすみちゅうで,なつやすみちゅうか


鹿児島弁の複合語句のアクセント(p.85)

 ▼とう(東)
とうきょう(東京),とうほ(東北),とうだい(東大),とうきょうだいが(東京大学),とうきょうだいがく(東京大学が),とうきょうだいがくから(東京大学からも)
 ▼く(北)
ほくく(北陸),ほっかいどう(北海道),ほだい(北大),ほっかいどうだいく(北海道大学),ほっかいどうだいがが(北海道大学が),ほっかいどうだいがくかも(北海道大学からも)
 ▼お(御)
れい(お礼),おてが(お手紙),おしょく(お食事),おしょくじけん(お食事券),おたんじょう(お誕生日),おたんじょうびプレゼン(お誕生日プレゼント),おたんじょうびプレゼントまで(お誕生日プレゼントまでも)
 ▼み(未)
らい(未来),みせいねん(未成年),みかんせい(未完成),みせいねんしゃもんだい(未成年者問題),みせいねんしゃもんだいを(未成年者問題を)


 鹿児島弁の複合語句のアクセント(p.86)

 ▼A型動詞
く,行った,行ない,行かなかった,行き始る,行き始た,行き始めなかっ
 ▼B型動詞
,来,来ない,来なかっ,来始め,来始め,来始めなかっ
 ▼A型形容詞
か(重い),重かった,おもおしい(重々しい)
 ▼B型形容詞
しろ(白い),白かっ,白々しい


 鹿児島弁の複合語アクセント規則(平山の法則)(p.87)

 あ,あおしんごう
 か,あかしんごう


 京都・大阪弁の複合語アクセント規則(式保存の法則)(p.90)

 キャベツ + はけ → キャベツばたけ(キャベツ畑)
 やさ + はけ → やさいたけ(野菜畑)


 鹿児島弁のアルファベットのアクセント(p.97)

 ▼ム(M)
が(Mが),エさん(Mさん),エムた(M型),エムみ(M組),エムーム(Mチーム),エディー(MD)
 ▼ー(A)
エー(Aが),エーさん(Aさん),エーが(A型),エーぐ(A組),エーチー(Aチーム),エーティーエ(ATM)


 鹿児島弁の変化:A型⇒B型,( )内は標準語(p.114)

 かで → かえ (かえで,楓)
 らだ → らく (らくだ
 ろい → よろい (よろい,鎧)
 もんだい → もんだい (もんだい,問題)
 おしょく → おしょ (おしょく,汚職)
 ブラル → ブラジ (ブラジル


 鹿児島弁の変化:B型⇒A型,( )内は標準語(p.115)

 もみ → もじ (みじ,紅葉)
 ながさ → ながき (なさき,長崎)
 きょう → きょうと (きょうと,京都)
 しょうたい → しょうたい (しょうたい,招待)
 ドーナ → ドーツ (ーナツ)


 鹿児島弁の変化:A型⇒B型,( )内は標準語(p.116)

 しゃかいとう → しゃかいとう (しゃかいとう,社会党)
 かごしさん → かごしまさん (かごしまさん,鹿児島産)
 らくだろ → らくだい (らくだいろ,らくだ色)


 鹿児島弁の変化:B型⇒A型,( )内は標準語(p.117)

 あおしんごう → あおしんごう (あおしんごう,青信号)
 ゆうかいじけん → ゆうかいけん (ゆうかいじけん,誘拐事件)
 かじばどろぼう → かじばどぼう (かじばどろぼう,火事場泥棒)
 コーヒーゼリー → コーヒーリー (コーヒーゼリー)
プロローグ

1 標準語のアクセント
 名前のアクセント
 モーラと音節
 複合名詞のアクセント

2 標準語と英語のアクセント
 日本語とラテン語のアクセント
 標準語のアクセント変化
 -3の秘密

3 平板式アクセントの秘密
 ケイコとマナブ
 普通名詞の平板式アクセント
 カラヤンとカンヤラ
 大阪弁のアクセント

4 鹿児島弁のアクセント
 春子と夏子
 青信号と赤信号
 夏と冬はA,春と秋はB
 AチームとMチーム
 「行く」と「来る」

5 鹿児島弁のアクセント変化
 紅葉と楓
 調査方法
 調査結果
 鹿児島弁はどこへ行く?

エピローグ
参考文献
窪薗晴夫(くぼぞの・はるお)
1957年鹿児島県川内市(現薩摩川内市)生まれ.
1979年大阪外国語大学英語学科卒業,1981年名古屋大学大学院文学研究科博士前期課程修了.1983-86年イギリス・エジンバラ大学大学院留学(1988年Ph.D.).南山大学助教授,大阪外国語大学助教授を経て,現在,神戸大学文学部教授.
専門は言語学・音声学.特に,日本語音声の分析をもとに,言語構造の普遍性と多様性,日本語の特質を研究している.
著書に『日本語の音声』『新語はこうして作られる』(ともに岩波書店),『語形成と音韻構造』,The Organization of Japanese Prosody (ともにくろしお出版),『音韻構造とアクセント』『音節とモーラ』(ともに共著,研究社)など.

書評情報

月刊言語 2006年9月号
月刊国語教育 2006年9月号
南日本新聞(朝刊) 2006年7月1日

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