公立小学校の挑戦

「力のある学校」とはなにか

学力低下を克服している学校とは? 実地での調査・聞き取りから「効果のある学校」の多面性に迫る.

公立小学校の挑戦
著者 志水 宏吉
通し番号 611
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2003/12/05
ISBN 9784000093118
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 72頁
在庫 品切れ
2002年に刊行し話題を呼んだブックレット『調査報告「学力低下」の実態』において明らかになった,子どもたちの学力の全体的な低下と階層間格差の広がり.学校に今できることは何なのか.同報告において特筆すべき例として挙がった「効果のある学校」の姿を,実地での調査・聞き取りをもとに描き出す.

■著者からのメッセージ

 日本の公立学校のなかには,いい学校が本当にたくさんあります.本書で扱う大阪府松原市立布忍(ぬのせ)小学校は,そうした学校のひとつです.私はこれまで多くの小中学校を訪問してきましたが,このようにあたたかく,なおかつ活気に満ちた学校に出会ったことはありませんでした.今でも頻繁に布忍小を訪れますが,行くたびに元気をもらっているような気がしています.
 学校に人々が求めるものは多様です.「教育を買う」「学校を選ぶ」というセンスが一般的になりつつある今日,公立学校が置かれた立場は微妙なものになってきています.しかし,「質の高い教育」とか「すぐれた学校」とは,本当のところ,どのようなものなのでしょうか.都市部に住む人のなかには,たとえば地元の公立中学校は「質が低い」から,あるいは「こわい」から,子どもを私学に通わせるんだという人たちがいます.実際の教室の姿を見たことがあるのでしょうか.うわさや風評だけで判断しているのではないでしょうか.
 私が本書のなかで展開したいと考えたのは,地元・地域に根ざした公立の学校だからこそできる教育のあり方です.さまざまなバックグラウンドをもつ大人たちと子どもたちが出会う場所が公立学校です.必ずしもいつもうまくいくわけではありませんが,そこで新たな人間関係が結ばれ,各種の学習活動が展開されるなかで,子どもたちはさまざまな力を身につけていきます.そして,コミュニティに生きる者として育っていきます.
 私は布忍小学校を,「力のある学校」として描写しました.布忍小の姿が私たちに問いかけているのは,私たち自身の「教育をみる目」の確かさなのです.
一 教育改革と学力問題
  1 問われる90年代の改革路線――教育の武装解除?
  2 「効果のある学校」の発見
  3 フィールドワークの概要と本書の構成

二 布忍小学校の日常
  1 子どもたちの姿
  2 教師たちの姿
  3 布小はどんな学校か
  4 布小における「集団づくり」
  5 基礎学力の保障に向けて
  6 子どもたちのポテンシャルを引き出す――タウンワークス
  7 教師たちの力――チームワークで動く

三 布忍小学校の教育活動に学ぶ――「力のある学校とは」
  1 布小教育の構造
  2 「効果のある学校」から「力のある学校」へ
  3 社会関係資本の力
  4 日本型学校文化を超えて
  5 公立学校の役割
志水宏吉(しみず・こうきち)
1959年兵庫県生まれ.東京大学大学院教育学研究科博士課程修了(教育学博士).東京大学を経て,2003年4月より大阪大学人間科学研究科助教授.学校臨床学.
著書に『変わりゆくイギリスの学校――「平等」と「自由」をめぐる教育改革のゆくえ』(東洋館出版社),『のぞいてみよう!今の小学校――変貌する教室のエスノグラフィー』(編著,有信堂高文社),『ニューカマーと教育――学校文化とエスニシティの葛藤をめぐって』(共編著,明石書店),『学校文化の比較社会学――日本とイギリスの中等教育』(東京大学出版会),『調査報告 「学力低下」の実態』(共著,岩波ブックレット)など.
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