憲法九条はなぜ制定されたか

九条はそもそも誰が発案したのか.象徴天皇制,沖縄の運命と密接な関わりを持つ九条の謎を解明する.

憲法九条はなぜ制定されたか
著者 古関 彰一
通し番号 674
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2006/04/05
ISBN 9784000093743
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 56頁
在庫 品切れ
九条は誰が発案した条文か.日本側,米国側はいかに関与したのか.そして象徴天皇制,沖縄の運命と九条が密接な関わりを持っているとは,何を意味するのか.憲法史の第一人者が長年論争されてきた九条制定過程の謎に迫り,戦後の九条論が何を忘却したかを総括し,今求められる九条への問題意識を平易に説く.

■編集部からのメッセージ

 岩波ブックレットでは憲法九条について,多くの本を刊行してきていますが,本書はなぜ九条が日本国憲法に盛り込まれることになったのかを史料に基づいて考察しています.これまで,憲法九条への評価としては,一方では米国による押し付け憲法だという非難があり,他方では世界に誇るべき理想を体現した条項であるという高い評価が存在してきました.ただ,学問的に九条の制定過程をしっかりと検証した作業は思いのほか少なく,憲法「改正」論議も高まる中でこの点を見極めていくことが重要だと著者は考えています.
 今年でちょうど60年ですが,敗戦の翌年の1946年11月3日に日本国憲法は公布されました.今,もう一度敗戦の8月15日から日本国憲法制定に至る過程をたどりなおしてみると,昭和天皇の戦争責任の問題が,九条の制定に極めて密接な関わりを持っていることを著者は明らかにしています.そして日本を占領していた連合国軍総司令部(GHQ)が憲法の制定をある時点まで非常に急いでいたことも論証されています.そしてもう一つ,沖縄を米軍基地の島として位置づけることが,憲法九条を実現する上で不可欠であったということも史料に基づいて描き出されています.
 これまで憲法九条に関心を持たれてきた中でも,昭和天皇の戦争責任や沖縄の基地化が九条の内容と関わっているとは,初耳だという方もおられるかもしれません.そこに本書のポイントがあります.九条がいかに制定されたのか,九条との関係で日本の安全保障はどう考えられてきたのか,私たちは九条をどう受け入れてきたのかを検証していく中でこそ,いま憲法九条にどう向き合っていくべきかの答えも明らかになるだろうというのが著者の立場なのです.著者は,九条を守るべきだという立場を表明していますが,それがどのような論理から導き出されていくかを,ぜひ本書から読み取っていただければと思います.
(編集部 大塚茂樹)
  はじめに
一 憲法九条の発案者をめぐって
二 なぜ九条は必要と考えたか
三 九条を可能にした沖縄の基地化
四 私たちの九条観を問う
五 歴史から何を学ぶべきか
六 軍事力で平和は生み出せない
古関彰一(こせき・しょういち)
1943年東京都生まれ.早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了.和光大学教授を経て,1991年より獨協大学法学部教授.専攻=憲法史.
日本国憲法の制定過程に関する研究をはじめとして,憲法の平和主義の軌跡を講和条約,安保条約との関わりで明らかにしてきた.現在は,安全保障論を新たな視角から考察している.
主著『新憲法の誕生』(中央公論社,1989年,現在は中公文庫),『「平和国家」日本の再検討』(岩波書店,2002年),『日本国憲法〔平和的生存権〕への道』(共著,高文研,1997年).

書評情報

東京新聞(朝刊) 2006年6月11日
宮崎日日新聞 2006年5月7日
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