住基ネットの〈真実〉を暴く

管理・監視社会に抗して

住基ネットの差し止めを求め,著者は訴訟を開始した.着々と築かれる監視社会の実態を浮き彫りにする.

住基ネットの〈真実〉を暴く
著者 斎藤 貴男
通し番号 681
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット > 社会
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2006/08/04
ISBN 9784000093811
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 64頁
在庫 品切れ
個人情報流出やプライバシー侵害の危険性が指摘される住基ネット.しかし,問題はそのレベルに止まらない.国民一人一人を管理・監視しようとする為政者の意思が,そこにはある.長期にわたる取材で,その事実を知った著者は,住基ネットの差し止めを求め,訴訟を開始した.ジャーナリストとして,原告としての闘いの記録.


■編集部からのメッセージ
 2002年8月,住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)が稼動を開始しました.住基ネットとは,国民一人一人に11桁の番号を割り当て,住民基本台帳に記載されている情報をデータベース化し,コンピュータネットワークで全国的,一元的に管理するシステムです.2003年8月からは,「住民基本台帳カード」というICカードの交付も開始されています.
 「全国どこからも住民票が受け取れる」「行政サービスを受ける際に,住民票の添付が省ける」.政府は,そうした利便性ばかりを強調します.しかし,構想段階から,個人情報の漏洩やプライバシー侵害の危険性などを指摘する声は少なくありません.実際に,北海道斜里町では住基ネットの個人情報がインターネット上に流出していることが,今年(2006年)3月に発覚しています.
 では,情報流出されないという安全性さえ確保されれば,問題はないのでしょうか.実は,問題はそれほど単純ではありません.本書の著者である斎藤貴男さんは,取材を続けるなかで,情報管理の杜撰さによるセキュリティ上の問題などといったレベルを超える,より大きな危険性が,この住基ネットに潜んでいることを知ります.すなわち,「国民総背番号制」によって国民を管理・監視しようとする構想です.住基ネットをベースにして,そこに個人に関する様々な情報(税金,健康保険,買い物履歴など)を盛り込み,より広範な個人情報を一元的に管理しようとする政府の意思が,関係者の証言などによって浮き彫りになってきたのです.こうした事実を知った斎藤さんは,社会に警鐘を鳴らすべく,住基ネット稼動開始直前の2002年7月,住基ネットの差し止めを求め,国などを相手取り訴訟を起こしました.
 本書は,この訴訟の闘いの記録です.斎藤さんが執筆した意見陳述をベースに加筆,修正を加えてまとめたものです.住基ネット問題を手がかりに,管理・監視社会へと向かう日本の現状をリアルに伝える内容となっています.自分たちの社会を見つめ直すためにも,ぜひ読んでいただきたい一冊です.
はじめに

Ⅰ 住基ネット取材で見えてきたこと――第一回口頭弁論 訴えにあたって

Ⅱ 住基ネットと管理・監視社会――陳述書

Ⅲ 安心を求め続ける社会のゆくえ――結審にあたって


斎藤貴男(さいとう・たかお)
1958年東京生まれ.早稲田大学商学部卒業.イギリス・バーミンガム大学大学院修了(国際学MA).日本工業新聞記者,週刊文春記者などを経て,フリージャーナリスト.主な著書に『ルポ改憲潮流』『安心のファシズム』(以上,岩波新書)『空疎な小皇帝―「石原慎太郎」という問題』(岩波書店)『カルト資本主義』『機会不平等』『梶原一騎伝―夕やけを見ていた男』(以上,文春文庫)『プライバシー・クライシス』(文春新書)『「非国民」のすすめ』(筑摩書房)『国家に隷従せず』(ちくま文庫)『バブルの復讐―精神の瓦礫』(講談社文庫)ほか多数.
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