教育の力

『教育基本法』改定下で,なおも貫きうるもの

教師や親が,子どもを「待つ」ということ,子どもには順序性があること…….希望に賭ける〈教育の力〉を語る

教育の力
著者 安積 力也
通し番号 715
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2007/12/05
ISBN 9784000094153
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 64頁
定価 572円
在庫 在庫あり
子どもに教師や親が向き合うとき,「待つ」ことが大切だということ.また,子どもの発達には順序性があること…….著者は,聾話学校での体験から,そして日々,子どもたちのいまを見ているなかから,たとえ国の教育政策が変わろうとも,変わることのない,希望に賭ける〈教育の力〉を熱く語る.

■著者からのメッセージ

2006年12月15日,『改定教育基本法』が国会でついに可決成立しました.
 あの日受けた,たとえようのない重い衝撃(しょうげき).私たちの生きる「時代」は,また本当に抗(あらが)いようがなくその質と方向を変えたのだと,腹の底から実感しました.覚悟はしていたつもりなのですが,その衝撃のなんともリアルな重苦しさに,私の心は,思いのほか深く動揺してしまった.
 ところが実をいうと,私の心には,もう一つ,不思議な感覚が残っていました.「揺(ゆ)れない部分」が心の底にあったのです.
 これは私にとって意外でありました.揺れていない部分がある.それは何なのか.しばらくは言葉にできなかったのですが,いま,少しずつ自分のなかで言葉になり始めています.
 それを「自問」というかたちで表現するなら,たぶん,こうなる.私はいま,自分にこうたずねざるを得ないのです.

 〈自問〉『改定教育基本法』が成立してもなお,なぜ私は,「教育への希望」を捨て去ることができないのか?

 たぶん,私のなかで激震が走ったにもかかわらず揺れなかった部分は,この一点に関係している.「教育」という業(わざ)が“本来的にもつ希望”への確信,です.なぜこの確信が揺れていないのか,この「自問」にそって,いくつかのことをお話しさせていただきます.
(「はじめに」より)
はじめに

1 私立中高一貫校の現場から,いま見えるもの
心を深く閉ざした「よい子」たち/「私自身を,取り戻すこと」/「待つ能力」を失った親と教師/この国の公教育を支配しつつあるもの

2 私は私であっていい.皆,違っていい.
『旧教育基本法』が示す「教育の原理」とは/『改定教育基本法』によって削除されたもの

3 日本聾話(ろうわ)学校の現場で知った「教育の力」
「人間の言葉」は,どのようにして誕生するのか/「聴く」ということのすごさ/大切な他者/「聞きわける」聞き方/「待ちつづける」ことを可能にしているものは何か/力ずくでは「教えることのできないもの」がある/発達には「順序性」がある/子どもは「された」ように「する」ようになる

4 待つべき「教育の力」とは何か
「独立した個人」を生み出す教育を/教育の現場が持つ「不可侵性(ふかしんせい)」

5 教育は「希望に賭(か)ける業(わざ)」

おわりに
安積力也(あづみ・りきや)
1944年生まれ.1972年国際基督教大学大学院教育学修士課程修了(教育哲学専攻).同年,新潟にある私立敬和学園高等学校の社会科教師となる.90年,同校教頭に.91年,東京・町田市にある日本でただひとつの私立の聾学校,日本聾話学校に招かれ,95年,同校の校長になる.
2000年より,東京・世田谷区にある私立恵泉女学園中学・高等学校の校長.
日本聾話学校に関する著者の話は,『難聴児に教えられて』(NHK「ラジオ深夜便」CDセレクション)にもおさめられている.
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