使える9条

12人が語る憲法の活かしかた

半藤一利,永井愛,鈴木邦男,高橋和也,巻上公一,梁英姫,鈴木聡,池田香代子,天野祐吉,新藤兼人ほか.

使える9条
著者 『マガジン9条』編集部
通し番号 721
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット > 法律
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2008/04/09
ISBN 9784000094214
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 144頁
在庫 品切れ
2年後には直面するであろう,憲法を変えることについての「国民投票」.そのときに最も論点になるのは憲法9条である.その9条を,いま,どのように考えているのかを,半藤一利,永井愛,鈴木邦男,鎌仲ひとみ,伊勢崎賢治,高橋和也,巻上公一,梁英姫,鈴木聡,池田香代子,天野祐吉,新藤兼人が,縦横無尽に語る.


■編者からのメッセージ
 2007年5月に,国会で与党により強行可決された改憲手続法(国民投票法)に基づき,衆参両院に設置された憲法審査会でしたが,与野党対立の中で,なかなか活動を開始することができずにいました.しかしここに来て,自民党はその党是たる「憲法改正」を実現すべく,審査会の開催に向けて再び動き出したようです.その動きを放置すれば,2年後には具体的な改憲日程も現実味を帯びることになります.
  自民党をはじめ改憲推進派の人たちは,「テロとの戦いに9条は邪魔」「国際貢献の妨げになる」「60年もたって古くて時代遅れだから国益にならない」などと言いますが,本当にそうなのでしょうか? 9条はもう使えないモノのでしょうか?
  いずれにしても,改憲の是非についての国民的論議は,置き去りにされたまま,なにやら進んでいきそうです.そんな流れに一石を投じようとして編まれたのが,この『使える9条』というインタビュー集です.
  例えば,半藤一利さん(作家)は「平和憲法という『国柄』をもっと大切に」と呼びかけます.伊勢﨑賢治さん(元アフガニスタン武装解除日本政府特別代表)の提案は「平和を構築するために,まず軍事を直視せよ」という視点です.高橋和也さん(俳優)は,ご自身が出演した映画『日本の青空』の経験を踏まえて「憲法がとても身近で大切なものになった」と振り返ります.
  永井愛さん(劇作家・演出家)は「9条は守りたいけど,口下手なあなた」へのアドヴァイス.天野祐吉さん(コラムニスト)の「憲法は国を表現する何よりの広告」,さらに,新右翼の活動家だった鈴木邦男さんからは「右翼運動と日本国憲法」という,従来の護憲論とは違った視座からの提言がなされています.
  そして,あの戦争に兵士として駆りだされた経験を持つ新藤兼人さん(映画監督)の「いかなる正義の理由があっても,戦争には絶対に反対する」という強固な決意には胸うたれます.
  ほかに,鎌仲ひとみさん(映像作家),巻上公一さん(音楽家),鈴木聡さん(脚本家),梁英姫(映画監督),池田香代子さん(翻訳家)などの方々が,自分なりの「9条」への想いや「使いかた」について述べています.いずれも憲法の専門家や研究家ではない立場から,発言や実践をしている十二人です.
  なお,他社の新書で恐縮ですが,同じ『マガジン9条』のインタビュー集として『みんなの9条』(集英社新書)も,併せて読んでいただきたい1冊です.
(『マガジン9条』編集部)
9条は,邪魔ですか?
テロとの戦いに,9条は邪魔になる.
9条があるから,国際貢献がおこなえない.
時代遅れの9条は,国益の妨げになる…….
「だから改憲をしよう」という声が,
このところ,しだいに大きくなってきているようだ.
だけど,本当にそうなのだろうか?
ここに登場する人たちは,それぞれの体験から,
9条のいろいろな活かしかたを提言している.
たとえば,「9条があるから,紛争地での調停役ができる」
「9条の素晴らしさを発信して,
日本を世界に広告しよう」など.
決して「机上の空論」ではない.

『マガジン9条』は,インターネット上で
毎週更新されるウェブマガジン.
憲法9条について,みんなで一緒に考えていこう
という趣旨で,2005年3月にスタートした.
そして『マガジン9条』編集部では,
さまざまな分野で活躍中の人たちに,
「9条の使いかた」について,聞いてきた.
ここに収録したのは,2006年4月から
2007年12月までにおこなわれたインタビューのうち,
専門家や研究者ではない立場から実践・発言をされている,
12人分に加筆したもの.
ふだんは9条とは直接関係のない生活を送る人も,
「自分なりの9条の使いかた」をお持ちだ.
そして言う.「もっとこれを活かそうよ」と.
私たちも考えてみよう.
9条は,私たちの生活や人生にとって邪魔だろうか.
このブックレットを読んで,
「あなたの9条の使いかた」を考えてほしい.

『マガジン9条』編集部

● 半藤一利さん 平和憲法という「国柄」を,もっと大切にしなくてはならない
紛争調停などで日本の株が上がっていけば,そっちのほうが凄い国益だと思うんだけどなあ.

● 永井愛さん 世間話で憲法を語ろう
アメリカは「正義の戦争はある」と言っている.でも9条は,「そんなものはない,何があっても戦争は正しくない」という前提に立っているんです.

● 鈴木邦男さん 愛国とは,強要されるものじゃない
本当は外に対してはへりくだって,弊国,愚国と呼ぶくらいでちょうどいいのに.

● 鎌仲ひとみさん 核・原発のある世界を見直す時
だいたい,五五基もの原発を無防備に海岸線に並べておいて,本当に武装する気なのかと思いますよ.

● 巻上公一さん 文化的な連帯と,新しい理念を!
世界に出かける,世界から呼ぶ,さまざまな文化とのちいさな交流こそが宝になるのです.

● 伊勢﨑賢治さん 外交力のなさを,9条のせいにするのはフェアじゃない
アフガニスタンで軍閥の武装解除が成功したのは日本がやったからです.その責任者だった僕はよく,軍閥に「日本の指示だから従う」と言われました.

● 高橋和也さん 憲法が,とても身近で大事なものになった
ただの文字じゃない,そのときの彼らの切実な願いそのものなんだな,と感じたんですね.

● 梁 英姫さん 大切なのは,答えの出ないものを考え続けること.理想を語ること
南北統一が実現したら,どうなるだろう? といったもっとプラス思考の想像もしてみては,と思います.

● 鈴木聡さん 日本としてのかっこいい胸の張り方を考えてみよう
国際問題でも紛争でも,解決策に武力を用いない方法を一生懸命考えて実行する.そこに汗を流す.

● 池田香代子さん 「善なるもの」を手放さない,がんこ者のひとりであり続けたい
「国益」や「国際協力」の観点からではなく,憲法に照らして参戦すべきでないという議論ができる,そういう国のあり方は譲れないと思います.

● 天野祐吉さん 日本国憲法は国を表現する「広告」だ
特に前文は,文体は古いけど,日本という国はこういう国ですということを端的に広告する,見事なコピーになっている.

● 新藤兼人さん いかなる正義の理由があっても,戦争には反対する
国家として平和を守るということは,つまり国民の,一人ひとりの個の平和を守ることなのに,まるっきり逆のことをやっている.
『マガジン9条』とは?
憲法のことをよく知らない人,9条を変えてもいいんじゃないのという人に,憲法や9条のことをよく知り,考えてもらうためのインターネット上のウェブマガジン.著名人へのインタビューのほか,伊藤真や森永卓郎,雨宮処凜などの連載コラムやさまざまな企画を発信中.毎週水曜日に更新を重ねている.『マガジン9条』編集部のメンバーは,会社員,編集者,新聞記者,フリージャーナリスト,フリーライター,シンクタンク研究員,デザイナーなどなど.とかく難しく,硬くなりがちな憲法の話を,「わかりやすく,かっこよく,ふかく」をモットーに,スタッフ自らが楽しみながら作っているサイトはこちらから.http://www.magazine9.jp

半藤一利さん(作家)
はんどう・かずとし 1930年東京向島生まれ.東京大学文学部卒業後,文藝春秋入社.「週刊文春」「文藝春秋」編集長,取締役を経て作家.著書『漱石先生ぞな,もし』(文藝春秋)で新田次郎文学賞受賞.膨大な資料を読み解き,テンポの良い話口調で書かれた『昭和史1926-1945』『昭和史 戦後篇1945-1989』(ともに平凡社,毎日出版文化賞特別賞受賞)はベストセラーに.ほか,昭和の戦争を扱った作品は『日本のいちばん長い日』(文藝春秋),『ノモンハンの夏』(文藝春秋,山本七平賞受賞),『日本国憲法の二〇〇日』(文春文庫),『昭和陸海軍の失敗―彼らはなぜ国家を破滅の淵に追いやったのか』,『昭和の名将と愚将』(ともに文春新書)など多数.

永井 愛さん(劇作家・演出家)
ながい・あい 東京生まれ.桐朋学園大学短期大学部演劇専攻科卒業後,1981年,大石静と二人だけの劇団「二兎社」を設立.1991年,大石が脚本家に専念するため退団した後は,永井愛の作・演出作品を上演するプロデュース劇団として主宰,活動を続けている.社会批評性のあるウェルメイド・プレイの書き手として,今最も注目される劇作家の一人.『戦後生活史劇三部作』,『見よ,飛行機の高く飛べるを』,『ら抜きの殺意』 は高い評価を得て鶴屋南北戯曲賞をはじめ,多くの賞を受けた.『兄帰る』では,第44回岸田國士戯曲賞(白水社主催)を受賞.その後も『こんにちは,母さん』,『歌わせたい男たち』など多数の作品を執筆し,演出を担当している.「非戦を選ぶ演劇人の会」の実行委員のひとり.

鈴木邦男さん(評論家)
すずき・くにお 1943年生まれ.1967年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業.同大学院中退後,サンケイ新聞社入社,その後1972年に新右翼「一水会」を結成.1999年まで代表を務め,現在は顧問.テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張.愛国心,表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない,独自の主張を展開している.著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書),『公安警察の手口』(ちくま新書),『言論の覚悟』(創出版)などがある.

鎌仲ひとみさん(映像作家)
かまなか・ひとみ 大学卒業と同時に,フリーの助監督としてドキュメンタリーの現場へ.文化庁の助成を受けて,カナダ国立映画製作所に滞在し,米国などで活躍.1995年に帰国後は,NHKで医療,経済,環境をテーマに番組を多数制作.2003年にドキュメンタリー映画『ヒバクシャ世界の終わりに』を,2006年に『六ヶ所村ラプソディー』を発表.現在は東京工科大学メディア学部准教授を務めるかたわら,映像作家として活動を続けている.著書に『ヒバクシャドキュメンタリー映画の現場から』(影書房),共著に『内部被曝の脅威』(ちくま新書),『ドキュメンタリーの力』(子どもの未来社)がある.

巻上公一さん(音楽家)
まきがみ・こういち 1956年熱海市生まれ.超歌唱家.即興演奏家.
1979年「20世紀の終りに」でデビュー以来,今なお特異な活動を続けるヒカシューのリーダー.日本トゥバホーメイ協会代表,ベツニ・ナンモ・クレズマー専属歌手,日本口琴協会会員理事,日本音楽著作権協会評議員,人体構造運動力学「操体法」インストラクター.中国武術花架拳を燕飛霞老師に10年間師事.著書に『声帯から極楽』(筑摩書房)など.生まれ育った熱海に居をかまえ,ニューヨークからトゥバ共和国まで,さまざまな場所を舞台に,独自のスタイルで活動を続けている.

伊勢﨑賢治さん(元アフガニスタン武装解除日本政府特別代表)
いせざき・けんじ 1957年東京生まれ.大学卒業後,インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる.国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後,東ティモール,シエラレオネ,アフガニスタンで紛争処理を指揮.現在,東京外国語大学教授.紛争予防・平和構築講座を担当.NPO法人「難民を助ける会」副理事長.2007年11月には,国会の「テロ防止イラク支援特別委員会」に参考人として招致された.著書に『東チモール県知事日記』(藤原書店),『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)などがある.

高橋和也さん(俳優)
たかはし・かずや 1969年生まれ,東京都出身.1988年「男闘呼組」としてデビュー.93年に解散後は,音楽活動を続けつつ,TV,舞台,映画など俳優として幅広く活躍.映画代表作に『ロックよ静かに流れよ』(1988),『八つ墓村』(1996),『マルタイの女』(1997),『Hush!』(2002)など.その他最近の出演作にTV『純情きらり』(2006),『風林火山』(2007),舞台『獅童流・森の石松』(2006),『眉山』(2007)などがある.2008年には,舞台『風林火山』に出演予定.また,『幽霊VS宇宙人 略奪愛』,『歩いても歩いても』,『ボディ・ジャック』の映画が公開予定.日本国憲法の成立過程を,今までとは異なった角度から描いた映画『日本の青空』(2007)では,主役の憲法学者,鈴木安蔵役を演じた.

梁 英姫さん(映画監督)
ヤン・ヨンヒ 大阪市生野区生まれ.在日コリアン2世.東京の朝鮮大学校を卒業後,教師,劇団女優,ラジオパーソナリティーを経て,1995年よりドキュメンタリーを主体とする映像作家として,作品を発表する.1997年渡米.NYニュースクール大学大学院で学んだ後,2003年に帰国し活動を再開.初監督作品となった映画『ディア・ピョンヤン』(2005)は,ベルリン国際映画祭最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)受賞,サンダンス映画祭審査員特別賞受賞など,国内外映画祭にて高い評価を受ける.2008年には,新作映画が発表予定.著書に『ディア・ピョンヤン家族は離れたらアカンのや』(アートン).

鈴木 聡さん(脚本家)
すずき・さとし 1959年東京生まれ.1982年,早稲田大学政経学部卒業後,博報堂に入社.コピーライター,クリエイティブディレクターとして活躍.1984年,劇団サラリーマン新劇喇叺屋(現ラッパ屋)を結成.主宰,脚本,演出を担当.身近でリアルなコメディを提供する脚本家として,映画,テレビドラマ界もふくめ幅広く活動している.ラッパ屋『あしたのニュース』(脚本・演出),グループる・ばる『八百屋のお告げ』(脚本)で,第41回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞.NHK朝の連続テレビ小説『瞳』が2008年4月から放送.

池田香代子さん(翻訳家)
いけだ・かよこ 専門はドイツ文学翻訳・口承文芸研究.ベストセラーとなった『世界がもし100人の村だったら』を手がけたことで知られる.また,その印税で「100人村基金」を設立し,難民申請者の支援などにも取り組んでいる.『11の約束 えほん教育基本法』(ほるぷ出版),『やさしいことばで日本国憲法』,『黙っていられない』(ともにマガジンハウス)など平和や憲法をテーマにした著書も多い.2006年の教育基本法改正に対しても,反対を主張した.訳書に『夜と霧 新版』(みすず書房),『飛ぶ教室』,『ふたりのロッテ』(ともに岩波書店),『ソフィーの世界』(日本放送出版協会)などがある.世界平和アピール七人委員会メンバー.

天野祐吉さん(コラムニスト)
あまの・ゆうきち 東京都出身. 出版社や広告代理店勤務を経て,マドラ出版を設立し,1979年に雑誌『広告批評』を創刊.朝日新聞連載の「CM天気図」など,広告・マスコミなどを題材としたコラムで活躍.『私説 広告五千年史』(新潮選書),『天野祐吉のことばの原っぱ』(まどか出版),『広告論講義』(岩波書店)など,多数の著書があるほか,絵本なども執筆.2006年春,国会の日本国憲法調査特別委員会では,参考人として招致された.

新藤兼人さん(映画監督)
しんどう・かねと 1912年広島生まれ.1950年近代映画協会創立.映画監督・シナリオ作家.代表作は『裸の島』(モスクワ映画祭グランプリ受賞作品),『原爆の子』,『第五福竜丸』,『午後の遺言状』,『ふくろう』ほか,多数.日本のインディペンデント映画の先駆者であり,現在も現役監督・シナリオ作家として活躍中.70年におよぶ制作活動において手がけた監督作品は47本,シナリオは240本以上.2007年には,自らの軍隊生活を振り返り,映画『陸に上がった軍艦』のシナリオを書き,出演・証言.話題を呼んだ.48本目の監督作品は,小学校時代の恩師を題材に描いた『石内尋常高等小学校 花は散れども』.
ページトップへ戻る